第一百四十一話 運命を超える選択
長い嘆息が漏れる。
「この世界に現れた時点で、すでに“因果”は生じていた。一部を斬るだけでは意味がない――完全に離脱するには、“自分”という存在そのものを断たねばならない。」
陸虚の声が、静かに光の河に溶けていく。
「陽神の真身も、例外じゃない、この力があれば外錬金丹がなくてもティリオンも救られるんだ……もったいないなあ」
「――でも…..これで、終わりだ。」
陸虚は、陽神真身の全力を解き放った。
まばゆい光が長河を満たし、時の流れそのものが震える。
掌に浮かぶ光球――自らの“存在”を象る因果の核。
それを見つめ、陸虚は静かに呟いた。
「どちらも、僕だ。……けれど、道は一つでなくていい。」
刹那、雷鳴が轟く。
陸虚の右手が閃光となり、光球を――二つに裂いた。
世界が震え、時間が悲鳴を上げる。
裂けた光球は、それぞれ異なる流れへと飛散していった。陽神真身も徐々に消えてしまった。
一方は――機械の都会へ。
南海と砂漠を繋ぐ伝送の光柱に吸い込まれ、
伝送中の陸虚となって消えた。
もう一方は――未来の都市へ。
砂漠の陽炎の中へと落ちていき、
もう一人の陸虚が、そこで新たに“目覚めた”。
「……ここは……?」
眩しい太陽。焼けるような熱風。
妙に格好のつく革のコート……少年。
ボロのコートに、短銃。
その「少年」――エマが、ほんの少し息を呑む。
「……アンタ、誰?」
同じ瞬間。
砂漠の機械都市の中央、巨大な転送陣が青白く明滅している。
その周囲で、アモロン校長は額に汗を浮かべながら計器を睨みつけていた。
「……ふぅっ……助かった……!」
深く息を吐き出し、胸を撫で下ろす。
「一瞬、下層遺跡の座標が暴走してたからな……。本気で別のところに飛ばしたかと思ったよ。」
そして次の瞬間――
「ドッガァァン!!」
転送陣の中心から、山ほどの果物が吹き飛んだ。
リンゴ、オレンジ、バナナ……その中から、
果汁まみれの陸虚が、ゆっくりと顔を出す。
「……な、なんだこれ……?」
周囲を見渡す。
歯車と蒸気が交錯する金属の街――アウロラ錬金魔法学院の機械都市。
陸虚は果物の山から立ち上がり、頭を掻きながら呟く。
「…………で、アモロン校長、一体どんなプロジェクト?」
その時、転送陣の中心に。
「……にゃっ!」
小さな影が飛び出してくる。
熟練の身のこなしで、果物の山をひらりと飛び越え、
一直線に陸虚の胸元へ――。
「おっと、小花!」
「にゃー!」
小花は嬉しそうに陸虚の頬をすり寄せた。
陸虚も思わず笑い、そっと撫でる。




