そしてライネスへ
「ゼーラ!」
機関車が次第に安定した速度で走り出したところで、ゼロは車内へと戻った。彼が最後尾の車両に戻ると、そこには心配そうな表情で座席に座るゼーラの姿があった。
「ゼロ!大丈夫でしたか?」
ゼーラは駆け寄り、心配そうにゼロの姿を確認する。ゼロは微笑みながら答えた。
「ああ、なんとかね。君こそ大丈夫だったかい?」
「はい、トラキアで出会ったおじいさんが突然現れて、危ないからって言われて、それで……」
ゼーラは言葉に詰まりながらも必死に状況を説明しようとしていた。ゼロは彼女の肩に手を置き、優しく微笑んだ。
「落ち着いて。ゆっくりでいいよ。ほら、深呼吸しようゼーラ」
「は、はい」
ゼーラは深呼吸をして少し落ち着いた様子で話し始めた。
「あの……ゼロがあの人に吹き飛ばされた後、私もその後を追おうとしたのですが、その時、トラキアで出会ったおじいさんが現れて、最初驚いたんですけど、話を聞いたらゼロの仲間だって説明してくれて……」
ゼーラは言葉を選びながら慎重に話した。彼女の膝の上ではピーちゃんがゼロに何か言いたげなように羽をバタつかせ鳴いている。
ゼロはその様子を見て思わず笑みを浮かべた。
「そうか、ミラーが来てくれたんだね。彼は昔からそういう面倒なことは得意だから」
「あのおじいさんは、ミラーさんって言うんですか?とても変わった人でしたけど……」
ゼーラは少し戸惑いながら言った。
その時、ゼロの後ろからミラーが顔を出しゼーラへと声を掛ける。
「お、ちゃんと待っててくれた~」
「え?どちら様ですか?」
ゼーラは突然現れたミラーに驚き、一歩後ずさった。彼女の表情には警戒心が浮かんでいた。
「あはは、まぁ、そんな反応になるよね」
ゼーラの様子を見てミラーは愉快そうに笑った。その態度にゼーラはさらに警戒心を強める。
「では、こっちの姿の方がわかるかの~」
そう言うと気づけばミラーは、初めて会った時のような老人に姿に変わっっており、ゼーラはさらに困惑する。
「え?え?え?」
ゼーラは目を擦り、ミラーのことを見直すと、老人は先ほどとの青年の姿に変わっていた。
「改めて初めまして、僕はただの通りすがりで、グリム・ライトの怨敵、聖騎士団の総監督ミラー。よろしくね」
ミラーは楽しそうに笑いながら言った。
「え?ただの通りすがりで……?グリム・ライトの怨敵で…?セイキシダンノソウカントク……?」
ゼーラはミラーの発言に思考が追い付かず困惑の表情を見せる。
「あはは、マスター、この純粋すぎて面白いや」
「ミラー……」
ゼロはミラーの名前を呼ぶだけで何も言わなかった。しかし、その表情は明らかに「変な嘘をつくな」と語っていた。
「えっと……」
ゼーラは困惑した表情で二人を見比べる。その様子にゼロは頭を抱えた。
「ゼーラ、ミラーは僕の仲間だよ。そしてグリム・ライトのメンバーの一人だ。彼の言うことはあまり気にしないでくれ」
ゼロは苦笑いしながら言った。
「そうなんですか?でも、聖騎士団の総監督って……」
ゼーラは混乱した表情で尋ねた。
「ただの嘘、そもそも騎士団にそんな役職ないし、ちょっとからかってみただけさ」
ミラーは舌を出して笑った。
「まったく……」
ゼロはため息をついた。
「まぁまぁ、それよりゼーラさん。改めて自己紹介をするね。僕はミラー。グリム・ライトのメンバーの一人で、マスターの仲間さ。そして、さっき君に見せたのは、僕の魔法【誤認】の効果だよ。」
そう説明するとミラーは、ゼーラの視線を切るたびに老若男女問わず様々な姿に変身しながら説明を始める。
「僕の魔法【誤認】は相手の視覚情報を操作することができるんだ。こうやって相手から見た僕が違うものとして視覚情報として伝わって、全く別の者に見えるようにするんだ。まぁでも、僕の魔法が干渉できるのはあくまでも相手の視界情報だけ、聴覚や感覚、匂いなんかの情報には干渉できないからこればかりは、個人的な努力で補っているんだけどね。」
「つまり彼は嘘をつくのが得意な魔術師ってことさ」
ゼロは簡単にまとめた。
「ミラーさん、すごいですね」
ゼーラは感心したように言った。
「あはは、まぁね。でも僕の魔法は使いどころが難しいんだ。相手の視覚情報を操作できると言っても、相手が僕に注目していないと効果がないし、相手が僕以上の魔力を持っていれば簡単に打ち消されちゃうんだけどね。そういえば君がさっきまでつけてた認識誤認メガネも一様、僕の魔法を術式に落とし込んで作った魔道具だからね」
ミラーは誇らしげに胸を張った。
「ミラーさんって魔道具も作れるんですね」
ゼーラは尊敬の眼差しでミラーを見つめた。
「いや、作ったのは僕じゃないよ。ギルドに一人いるんだよね、人の魔法を疑似的に再現するような器用な奴が。あの眼鏡も僕の魔法を分析して作った実験品みたいなものさ。」
ミラーは手を振って否定した。
「じゃあその人もグリム・ライトの魔導士なんですね」
ゼーラは興味深そうに尋ねた。
「そうそう。結構ゼーラさんに近い歳だったと思うから、ライネスについたら紹介してあげるよ」
ミラーは楽しそうに言った。
その時、ゼロが話題を変えるように口を開いた。
「ところでミラー、君はどうして僕たちが来たタイミングでトラキアに居たんだい?」
その質問にミラーは少し戸惑う様子を見せたが、何事もないかのように答える。
「偶然だよ、偶然。もともと違う目的であの街に来ていたんだけど、そこで何の偶然か二人を見つけたってわけ。」
「偶然……ね」
ゼロは疑わしげな目でミラーを見つめた。ミラーは軽く肩をすくめると、窓の外に目を向けた。
「あはは、そんなに疑わないでほしいなマスター。僕だって色々と頑張ってたんだよ。それに僕だってマスターには色々聞きたいことがあるんだ。特にゼーラさんのこととかね」
ミラーはゼーラの方に視線を向けた。その視線にゼーラは「私のこと?」と不思議そうな顔を見せる。
「君の言いたいことは分かる。少し落ち着いてから話すよ」
ゼロはミラーの質問にそう答えた。
「あはは、別に急がなくてもいいよ。それにもうすぐ目的地に着きそうだしね」
ミラーは窓の外を見ながら言った。確かに機関車は徐々に速度を落とし始めていた。
「そうだね。とりあえず今はギルドに行こうか」
ゼロはそう言って席に座った。ミラーも隣に座り、ゼーラも落ち着かない様子で席に着いた。
機関車はゆっくりと速度を落とし、やがてライネスの駅に到着した。駅には閑散としており、無人駅なのだということが分かる。駅を出ると、目の前には小さな町が広がっていた。石畳の道が続き、周囲には古い建物が立ち並んでいる。しかし、そのどれもが廃墟のように静まり返っていた。
「久しぶりに帰ってきたけど、静かになったね。」
ゼロは町を見渡しながら呟いた。
「マスターがいなくなってからギルドも活動停止状態だったからね。街の住人もほとんどが他の町に移って人が減っていったよ」
ミラーは冷静に答えた。
「そうか……」
ゼロは少し寂しそうな表情を見せた。
「あの……、本当にここにギルドがあるのでしょうか。私が来た時にはギルドの建物すら見つからなかったのに……」
ゼーラは恐る恐る聞くと、ミラーは笑いながら答える。
「確かに、ゼーラさんじゃ僕たちのギルドは見つけられないかもね。そもそも魔法で隠しているし。」
「え?そうなんですか?」
ゼーラは驚いた表情を見せた。
「そうさ。まぁそうしないといけなかった理由があるんだけど、そこは追々説明してくよ」
ミラーは得意げに説明した。二人はミラーの案内で街のさらに奥の山道へと歩みを進める。次第に景色が霧がかり、目の前が真っ白になっていく。ゼーラは一瞬、二人のことを見失いそうになったが、ゼロがゼーラの手を取り、引っ張って行った。
不意に、霧が晴れ目の前に大きな屋敷が三人の前に現れる。
「ようこそゼーラさん、僕たちのギルド【グリム・ライト】に。君の訪問を歓迎するよ」
ミラーは満面の笑みでゼーラを迎えた。
ゼーラは目の前の光景に息を飲んだ。その屋敷は古びた外観を持ちながらも、どこか威厳を感じさせる佇まいをしていた。石造りの壁には蔦が絡みつき、大きな窓からは薄暗い光が漏れている。入り口の前に立つと、扉には光の死神を模した紋章が刻まれていた。
「これが……グリム・ライトのギルド……」
ゼーラは驚きと興奮の入り混じった声で呟いた。
「ああ。ようこそゼーラ、君を歓迎するよ」
ゼロは微笑みながら言った。
その時だった、ギルドの扉が開き、一人の白髪の少女が三人の目の前に姿を現す。その少女は白と黒のジャケットにミニスカートを身に着け、幼い容姿とは逆にその目は青い宝石のようにきれいに輝いていた。
「久しぶりだね。ゼロ・グリムロード。貴方が帰ってくるの五年間も待っていたボクを誉めてほしいよ。いや、こんな愚痴のような言い回しよりこう言った方がいいのかな……」
少女は、ニヤリと笑いこう続けた。
「おかえりなさい、兄上」
一旦次のエピソードまでを二章としてまとめることにします。頑張るので応援を……




