予期せぬ邂逅 後編
【聖剣】、それは、魔道具や他の武器とは異なり人類の技術ではたどり着けない神が人類に授けた神器とされている。その最たる違いは、刀身その物に固有の【魔力】を持ち、所有者に莫大な力を与えていた。
しかし、聖剣を所持できる人物は限られ、その多くがその力を制御することができず、力に飲み込まれ滅んだ。
そんな聖剣を危険視した聖堂協会は、聖剣を収集し、適した人材に聖剣を与えた。その中でも、聖剣と共鳴しその真名を知れるのはごく少数の者たちだけであった。
光と音が収束すると、そこには煙を上げる車両の上に立つ二人の姿があった。キースの放った雷は車両の屋根を大きく破壊し、ゼロの「死の接触」も相殺しきれずに一部が車内に漏れ出していた。
「ゼロさん……あんた、本気じゃないな」
キースは肩で息をしながら言った。彼の体は雷撃の反動で震えていたが、それでも剣を構える姿勢は崩していなかった。一方のゼロは、右腕に雷撃の痕を残しながらも、ほとんど無傷で立っていた。
「君こそ、まだ余力を残しているように見えるけど」
ゼロは冷静に答えた。その瞳には何かを試すように赤い光が宿っていた。
二人の間に再び緊張感が漂う。
「はぁ、やめだ、やめだ。」
キースは突然、剣を下ろした。
「今のゼロさんとやりあっても決着がつかねぇよ」
ゼロはその言葉に少し驚いた様子を見せた。
「キース、君は本当に強くなったね。5年前の君とは比べ物にならない」
「手加減してるあんたに言われても実感がわかねぇな。まあ、そう言ってもらえると嬉しいよ。俺もあんたと色々話したいところだが、どうやら時間切れみたいだわ」
キースは剣を鞘に収めながら言った。
「それはどういう意味……」
ゼロが尋ねようとしたその時、ゼロの上に影が落ちる。瞬間ゼロは何かを察し、後方へと飛び回避をするのと同時に、戦斧が車両の屋根に突き刺さる。その衝撃で機関車が大きく揺れ、車両の上に立っていた二人はバランスを崩した。
「くっ……」
キースは咄嗟に剣を屋根に突き立て、なんとか転落を免れた。一方のゼロは、その余裕を失わずに戦斧の持ち主に目を向けた。
「誰だ……?」
屋根に突き刺さった戦斧を引き抜きながら、青い甲冑に身を包んだ女性が現れた。その姿は聖騎士のものであり、青い甲冑には【蒼の団】の紋章が刻まれていた。
「ったく、突然いなくなったと思ったら神器解放って……、一体全体どういう状況やねんバカ団長!?」
女性聖騎士はキースに向かって叫んだ。その声には怒りと驚きが混ざっていた。
「あー……悪いなルミナ。ちょっと昔の知り合いと会ってな」
キースは気まずそうに頭をかきながら答えた。
「知り合いって……この男と!?」
ルミナと呼ばれた女性聖騎士はゼロを指差して驚いた表情を浮かべた。
「そうだ。ゼロ・グリムロードだ」
「はぁ!?あの【死神】ですか!?」
ルミナは驚愕の表情を浮かべながらも、戦斧を構え直した。
「で、どうすんねん団長」
キースはゼロを見つめながら答えた。
「今回は引くよ。このまま続けても無駄な犠牲を出すだけだ」
「えぇ!?こんなチャンス二度とないですよ!?」
ルミナは抗議の声を上げたが、キースは首を横に振った。
「今は【会議】の準備もある。それに……」
キースはルミナを見つめながら続けた。
「かわいい部下の首をはねられたらたまらんからな。」
「な!?だ、団長、何を言って…」
ルミナがそう言って振り返ろうとした時、彼女の首筋に薄い切り傷が浮かび上がる。
「ほっほっほ。さすがに団長ともなればこれくらいは分かるのかの~」
その声とともにルミナの目の前の空間が歪み巨大なタチバサミを持った老人が現れた。その姿はトラキアでゼロとゼーラに話しかけた老人だった。
「てめぇ……!」
ルミナは咄嗟に戦斧を振り下ろそうとしたが、老人のタチバサミが彼女の首筋に迫っていた。
「動くな。動けばお主の首が飛ぶぞ」
老人は冷静に言った。その目には殺意が宿っていた。
「そろそろ下手な芝居をやめたらどうだ魔導士」
キースは老人を見据えながら言った。
「おや。流石は聖騎士団長様だね。僕の変装が見破れるとは」
老人はそう言うと姿を変えていく。そしてその姿は黒髪に黒いロングコートを身に着けた青年へと変わった。
「やはり君だったか、ミラー」
ゼロは冷静に言った。
「お久しぶりですマスター。五年ぶりですがお変わりなくて良かったです」
ミラーと呼ばれた青年はヘラヘラしながらゼロに挨拶をする。それを見たルミナは隙を見逃さず、戦斧を切り上げ、ミラーを一刀両断した。しかしミラーは消え去り残ったのは幻影の残像だけだった。
「あははは!あの状況から僕のこと切りかかれるなんてなかなかやるね」
気付けばミラーはゼロの横に立っていた。
「どうなっとんねん…」
ルミナは混乱しながら戦斧を構え直す。
「なぁに、君はただ【誤認】しただけだよ。『僕を切った』ってね」
ミラーは飄々とした態度でそう答える。
「さてマスター、僕的にはこのまま2対2としゃれこんでもいいけど、車内残してきた彼女のことが心配だったりするんだ、どうします?」
「分かった。この場は逃げることにしよう」
ゼロは冷静に答えた。
「さすがマスター。そう言うと思って、はいこれ」
ミラーはゼロの答えがわかっていたかのように答え、コートのポケットから手のひらより一回り大きなボルトを取り出し、三人に見せびらかす。
「なんだいそれは?」
「ん?車両同士を繋げてたボルト」
ゼロの質問にミラーはそう答えた。
次の瞬間、ガチャンと大きな音が響いたかと思うと、ルミナとキースが見る見るうちに二人から離れていく。気が付けばゼロとミラーは、キースたちとは別の車両の屋根に乗っており、後方の車両に乗っていたキースたちが機関車に置いて行かれたのである。
「では、聖騎士団の皆様さようなら~」
ミラーは、離れていく二人に笑顔で手を振って見せた。
ルミナは状況を把握するとすぐに車内に戻ろうとするがキースがそれを静止する。ルミナは何かを抗議するように戦斧を振り回しているが、キースはお構いなしに車両の端に立ち叫んだ。
「ゼロさん!次会う時は本気でやろう!」
キースの声が風に乗って届く。機関車はすでに二人を乗せた車両とキースたちを乗せた車両は完全に分断し、どんどん距離が開いていく。
「いや~、さすがですねマスター。あの蒼の団団長相手に大立ち回り。しかも無傷だなんて」
ミラーは笑いながらゼロに言った。
「そうでもないさ。現に彼は本気じゃなかった。仮に彼が本気を出していたら、今頃この機関車は僕もろとも跡形も無く消えていたよ。」
ゼロは冷静に答える。その目にはどこか遠いものを見るような悲しみが宿っていた。
「でも、あの団長と知り合いだったんですね。驚きましたよ」
「ああ。彼は昔、ガレスが連れてきた子供たちの一人だったからね。まさか聖騎士団の団長になっていたとはね」
「そりゃそうですよ。マスターが消えてからこの国は大きく変わりましたから」
ミラーは軽い口調で言ったが、その目には何か複雑な感情が浮かんでいた。
「そうか……。そういえばゼーラは無事だろうか」
ゼロは心配そうに呟いた。
「大丈夫ですよ。僕がちゃんと見張っておきましたから」
ミラーは自信満々に答えた。
「それなら安心だね」
ゼロはそう言って微笑んだ。そして機関車は再び速度を上げ、ライネスへと向かっていった。
え?まだライネス着いてないってマジか。
頑張て進めます




