囚人生活
大監獄【クロス】、アヴァール王国に存在する監獄であり、凶悪犯罪者や国家転覆を企てる者たち、または国に異を唱えた一般の民たちなど様々な者たちが収容されている場所である。監獄の入り口には厳重な警備体制が敷かれており、見張りの兵士たちが常に巡回していた。さらに、監獄の周囲には高い塀が築かれ、脱獄を防ぐために様々な仕掛けが施されていた。
『起きろ社会に適合できなかったゴミくずども♪今日も一日、自分の罪を反省しながら働きな♪』
不意に監獄に声が響き渡る。その声は映像用魔石から映し出されたサングラスをかけ金品に装飾された制服を身にまとった男から発せられたものであった。
『それじゃあ、10分後にはお前たちゴミどものために作った作業場に集合するように♪』
男はそう言い残し、映像が途切れた。
「うわぁ……」
ゼロは思わず声を漏らした。
「今のは一体?」
ゼロは隣にいた囚人に尋ねた。
「ああ、あれはこの監獄の副看守長のダリオンっていう男だよ。あいつが毎朝こうやって嫌味を言うのが日課なんだ」
囚人は、窶れた顔でそう答えた。
「そうなのか……」
ゼロは少し気まずそうな表情を見せた。
「お前新入りか?」
「ああ、そうだよ」
「そうか、なら忠告しておくが、あいつにはあまり関わらないほうがいいぞ。面倒なことになるからな」
囚人はそう言い残し、立ち去っていった。
「ダリオン……、ねぇ」
ゼロは少し考え込む素振りを見せた。
「まぁ、今はそれよりも、自分の正体がばれないようにしないと」
ゼロはそう呟き、作業場へと向かった。
作業場は、鉱山の洞窟のような場所だった。そこでは囚人たちが黙々と作業を行っていた。壁には巨大な歯車がいくつも取り付けられており、その歯車が規則正しく回転していた。
「よし、お前たち。今日も頑張って働けよ!」
兵士はそう言い残し、立ち去っていった。囚人たちはそれぞれの持ち場につき、作業を開始した。ゼロは、周囲の囚人たちの様子を観察しながら、作業に取り掛かった。
(う~ん、やっぱり人相が悪そうな人間だけじゃなくてやせ細った人や傷だらけの人。訳アリの人が多そうだね)
ゼロは、ツルハシを片手に壁を掘りながら、囚人たちの姿を観察して思った。
(それにしても、この作業場は一体何をとっているんだろう?)
ゼロは、作業場の奥の方にある巨大な掘削装置を見ながら思った。
「おい、新入り!ボーっとしてんじゃねぇ!さっさと仕事をしろ!」
不意に後ろから声がかかった。振り返ると、そこには先ほどゼロに話しかけた囚人が立っていた。
「ああ、ごめんごめん」
ゼロは謝罪した。
「全く、新入りはこれだから困るぜ」
囚人はそう言いながら、ゼロに作業の指示を出した。
「よし、お前はこっちの作業を手伝え」
「了解」
ゼロは作業台に向かい、作業を開始した。それから数時間が経過した。ゼロは黙々と作業を続けていた。その様子を、一人の男が陰から見つめていた。
「あれが、新しく入ってきた囚人……」
男はそう呟き、ゼロの姿を観察していた。それから数時間後、午前中の作業が終了した。
「よし、今日の作業はここまでだ。昼休憩の後、午後の作業に取り掛かるぞ」
兵士はそう言い残し、立ち去り、残された囚人たちは、それぞれの休憩場所へと向かった。それを見てゼロもまた、囚人たちの後を追うようにして休憩場所へと向かう。
「ふぅ~、疲れた」
ゼロはそう呟き、休憩所の一角にある食堂へと向かう。そこでは、囚人たちが食事を配る兵士に木の板のようなものを渡し、食事を受け取っていた。
「あの~、その木の板ってなんですか?」
ゼロが他の囚人に尋ねた。囚人はそれを聞き、気だるそうな表情を見せながら答える。
「ああ、これか?食事券だ、ここ限定だがな。一日の仕事終わりに貰えんだが、てめぇ、仕事すんのが今日が初めてか?」
「まあ、そうだけど」
「へ、そうか、こいつは基本、一日の仕事が終わってその成果に応じてもらえるもんなんだよ。ちなみに一枚で1食分だ。」
「へぇ~、それじゃあ、僕も今日の仕事が終わるまで貰えないってこと」
「ああ、つまりてめぇは今日、昼抜きだ」
囚人はそう言い残し、食堂を出ていった。
「まじか……」
ゼロは肩を落とした。
(仕方ない、どこかで時間でも潰すか)
ゼロはそう思い、食堂を後にした。
「はぁ……」
ゼロはため息をつきながら、休憩所を歩き回った。
(それにしても広いな~、室内だけじゃなく屋外の休憩スペースもあるし、建物自体もなかなかの大きさ。建物全体を囲んでいる塀には魔術式が組み込まれ簡単に破壊することができないようになっている。それに来るときに確認したけど、周りには堀も作られていた。内側からの脱走を警戒しているというよりかは、外から攻められにくい構造になっていたな)
ゼロは建物の構造を観察しながら思った。
「刑務所というよりまるで要塞だな」
そんなことを考えながら歩いていると、不意に自分が休憩所とは違う場所に来ていることに気づいた。
「あれ?ここどこ?」
ゼロはあたりを見回した。そこは、建物の裏側にある通路だった。通路は薄暗く、人気がなかった。
「うわ~、なんか不気味だな~」
ゼロはそう呟きながら、振り返り元居た場所に戻ろうとしたが、道が複雑に入り組んでおり、自分がどこから来たのか分からなくなっていた。
「まじか……、迷った……」
ゼロは途方に暮れ、その場に立ち尽くした。その時、どこからともなく人の声が聞こえ、ゼロは咄嗟に物陰に隠れた。
「チッ、ヴァル、てめぇは、パシリの一つもろくにできねえのかよ!」
男の声が響いた。
「ごめん……」
怯えた少年の声が聞こえた。その声を聞くとゼロはそっと壁の隙間から声のする方を覗いた。
そこには、一人の少年と明らかにチンピラと言った風貌の男が二人立っていた。少年は身なりが悪く、痩せ細っており、目の下には濃い隈ができていた。男たちは少年を取り囲んでいた。
「おい、ヴァル!てめぇは、俺たちのパシリなんだから、もっとしっかりしろよ!」
男の一人が少年の胸ぐらを掴みあげる
「ごめん……」
少年は怯えた声で謝罪した。
「ごめんじゃねぇよ!てめぇは、俺たちの奴隷なんだから、もっとしっかり働けよ!」
男が少年を殴りかかろうとする。
「うっ……」
少年は思わず目を瞑った。
「あまり、弱いもの虐めは感心しないな」
気付けばゼロは、男の手首を掴み、少年から引き剥がしていた。
「ああん?誰だてめぇ?」
男はゼロを睨みつけた。
「僕はただの迷子の新入りさ」
ゼロはそう答えた。
「……ってかお前、よくよく見たらジャックじゃねぇか?」
男の一人がゼロを見て驚いた様子で言った。
「確かに言われてみりゃお前、俺たちを見捨てて逃げた弱虫ジャックじゃねぇか!」
もう一人の男もゼロを見て笑いながら言った。
「俺たちを見捨てて逃げたてめぇもここにいるってことは捕まったわけだな!」
男はそう言いながら、ゼロの胸ぐらを掴んだ
「はぁ~。あまりサファイアから問題を起こすなって言われてるのに……」
ゼロは少し困った表情を見せた。
「何言ってんだてめぇ~?あんまり舐めってと昔み────!!?」
男が言い終える前に、彼の身体は大きく宙を舞い、一呼吸の内に地面へと叩きつけられる。その衝撃で地面にクレーターができ、その周囲に大きな砂埃が舞った。
「で、君もやるかい?」
ゼロは、淡々とした口調でもう一人の男に言った。
「て、てめぇ……、よくも!」
残った男はゼロに向かって殴りかかった。ゼロは、その拳をひらりと躱し、男の顔面に3発、拳を叩き込んだ。
「ぐふっ!」
男は白目を向き、その場で崩れるように倒れた。ゼロは、倒れた男を見下ろしながら、呟いた。
「はぁ……、問題起こさないようにってサファイアに言われてたのに、初日からこれか……」
ゼロは少し落ち込んだ様子で言った。
「あ、あの……」
不意に少年がゼロに声をかけた。
「ああ、君。怪我はない?」
ゼロは少年に視線を向けた。
「は、はい、大丈夫です。あ、ありがとうございました」
少年は慌ててお礼を言った。
「うん、大丈夫ならいいんだ。それじゃあ僕はこれで」
ゼロはそう言い残し、その場を立ち去ろうとした。
「あ、あの!」
少年は再びゼロに声をかけた。
「どうしたの?」
ゼロは振り返り、少年に視線を向けた。
「お名前を聞いてもいいですか?」
「僕の名前?僕の名前は──」
ゼロは少し考えた後、口を開いた。
「ジャックだよ」
最近寒くなってきたけど頑張ってます




