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グリム・ライト  作者: 紅零亜種
第2章 聖騎士と魔導士
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報告

「…報告は以上となります」

「これは聖騎士団始まって以来の失態ですぞ!!お分かりですかギル殿!!?」


 そうやって大声で捲し立てる小太りな聖職者の男に私は少しだけ目線を向ける。すると小心者の男は、「ひぃぃ」と情けない声を出してたじろぐ。それを見かねたのか、横にいたもう一人の聖職者の男は言った。


「あまり人の落ち度を攻めるものではないかと、カリベル卿。ギル団長も我々もラグーン聖騎士が今回の件で適任と判断して送り出したのです。責任の一端は、我々にもあるかと。それに彼女がよりにもよって『死を告げる者(デス・テイラー)』に接触したとなれば、こちらもそれ相応の対処が必要になってくるでしょう」


 ここは、王都【アヴァール】にある大聖堂の【祈りの間】と呼ばれる場所で、私は、【聖堂協会】の最高責任者の二人の聖職者に先日起こった事件の報告を行っていた。


「はてさて、あの娘との『成約』もある。だが、『死を告げる者(デス・テイラー)』が戻ってきたとなれば、あの娘も動き出すことでしょう…。貴方達【聖騎士団】の意見をお聞きしたいですね。」


 そう尋ねてくる男に私は答える。


「『現状は、手を出さない』それが、聖騎士長の判断です」

「何を悠長なことを言っているのだ!!今すぐに奴らを叩き潰せ!!!」


 小太りな聖職者は声を荒げて怒鳴る。けれども私は、冷静に答える。


「敵は魔導師ギルド、それも嘗て我々聖騎士団とも肩を並べるほどの実力を持っていた【グリム・ライト】ともなれば、負けはせずとも、こちら側も大きな損害が出るのは、火を見るよりも明らかです」

「では、どうするというのだ!!」

「幸いにも、あと数日後に《会議》があります。故に、各地に散らばっている4つの聖騎士団がこの王都に集結します。あとは、聖騎士団全勢力で押しつぶせばこの話は終わりです」


 私がそう言い切ると、小太りな聖職者は何も言えず、黙り込む。すると、もう一人の聖職者が疑問を投げかける。


「聖騎士団全勢力…、確かにその戦力で当たれば確実に彼らを倒せるのでしょう。だがいささか疑問ですね。昔は確かに【聖騎士団】と【グリム・ライト】はこの国の二大勢力だったでしょう。しかし、五年前の魔族との戦いで【グリム・ライト】は、マスターであるゼロ・グリムロードを始め、多くの主力メンバーを失い、実質的に空中分解状態。片や【聖騎士団】は、『新王命令』により、貴方を始め、多くの優秀な人材を手に入れ、今や1つの聖騎士団でも一国の兵力に引けを足らない程に成長した。そんな貴方方が、一つのギルドを潰すのに全勢力を用いる…、いささか過剰戦力では?寧ろ、ゼロ・グリムロードが合流する前にギルドを潰しておいた方が後々のことを考えると効率的ではないか」

「…。今一度言い換えましょう、ベール卿。『彼ら(グリム・ライト)』に生半可な戦力で挑めば、消えるのは我々です。それほどに彼らは強い。それに辛うじて勝てたとて、次は「獣食い(ビースト・イーター)」を相手にしなくてはいけないことになる」

「ジーク・フリートか…」


 ベール卿は険しい表情でつぶやいた。


「だが、その男は、現在大監獄に収監されているはずだ。そのようなものをなぜ恐れる必要がある!?」


 カリベル卿は、声を荒げそう尋ねたため、私は淡々と答える。


「どのような強固な檻もあの男にとっては、ただの砂の城のように壊し、脱獄するのは簡単でしょう。暴れでもすれば、国が一つ滅んでもおかしくない、まさに『天災』のような男です」

「ではなぜそのような男が大人しく牢に繋がれている?」

「それ込みの『成約』という訳か…」


 ベール卿は腑に落ちたように言葉を漏らす。その意味をまだ理解できていないカリベル卿が「どういうことだ?」と聞き返す。それを聞き、ベール卿は丁寧に説明を始める。


「五年前に娘が我々に対して結んだ成約は【相互不干渉】。互いが互いに干渉せず、成約が守られ続ける限り、ギルドは活動の一切を停止、さらに現状最大戦力である【獣食い《ビースト・イーター》】ジーク・フリードの身柄の拘束。当時の聖堂協会の最高司祭たちは、一方的に有利な条件だと成約を飲んだということだ」

「では成約が破られれば、その『獣食い(ビースト・イーター)』とやらが暴れると……」

「そういうことになります」


 ベール卿の言葉に私は答える。カリベル卿はその言葉に絶句し、ベール卿は顎に手を当てながら考えるような仕草をして、私に問う。

「しかしギル殿、先程貴方の話だと、すでに成約は破られたのでは?故意ではないとはいえ、紅の団の聖騎士と『死を告げる者(デス・テイラー)』が戦闘を行った。これはすでに『相互不干渉』を破っているのでは?」


「確かに我々はそう考えています。しかし彼らはまだ成約が破られたとは考えていないでしょう。現にあの娘が動いたという情報はまだ入ってきていません。恐らくあの娘はまだ彼が帰ってきたことを知らないか、それとも知らないフリをしているかのどちらかでしょう」


「なるほど……。しかしギル殿、もしも貴方の推測が外れていれば?」

「その時は……」


 私は一度言葉を止めて、息を吸う。そして次の言葉を吐き出した。


「その時は私がすべての責任を負いましょう」


 ベール卿は眉を上げ、驚いた表情を浮かべた。カリベル卿は呆れたように溜息をつく。


「ギル殿、それは些か無謀ではありませんか?このような重大な決断を個人の責任で済ませられるものではありません」

「承知しております。しかし、これは単なる責任の問題ではありません。『グリム・ライト』との関係を誤れば、この国全体が危険に晒される可能性があるのです」


 私は静かに言った。窓から差し込む光が床に長い影を落としている。


「よろしいでしょう」ベール卿が言った。「貴方の覚悟は理解しました。では、聖騎士団の判断に従いましょう。ただし、『成約』の件については、引き続き調査を進めてください。あの娘——サファイア・グリムの動きを監視することも忘れないでください」

「かしこまりました」


 カリベル卿は不満そうに鼻を鳴らしたが、これ以上議論する気はないようだった。


「それでは、《会議》の準備を進めてください。我々も最善を尽くしましょう」


 二人の聖職者が立ち上がると、私は一礼して退出の挨拶をした。

 その時、ベール卿は不意にこんな問いを投げかけた。


「ギル殿、貴方は本当にゼロ・グリムロードのことをよくご存知なのですか?」


 空気が凍りついた。私は一瞬目を見開いたが、すぐに平静を取り戻した。カリベル卿は理解できないといった表情で二人を見比べる。


「ベール卿、それはどういう意味でしょうか」

「いや、ただの確認です。五年前のあの戦いから帰還した者たちのほとんどが、彼のことを語ることを避けている。まるで記憶から消し去りたいかのように」


 私は窓の外に目を向けた。夕暮れの光が部屋を赤く染めている。


「私は彼と直接対峙したことはありません。しかし、彼の残した足跡は十分に見てきました」

「それでもなお、彼を敵とみなすのですか?」

「成約がある限り、彼は我々の敵ではありません。しかし、その成約が破られた今、彼が何を選ぶかは私には分かりません」


 ベール卿は深く息を吐いた。


「なるほど。では最後に一つだけ」


 ギルはベール卿に視線を戻した。


「もしも貴方がゼロ・グリムロードと戦ったら、どちらが勝ちますか?」


 私は僅かに微笑んだ。

 その笑みは冷たく、そして悲しげだった。


「分かりません。しかし一つだけ確かなことがあります」


 私は言葉を選びながら続けた。


「私は五年前より遥かに強くなった、我々聖騎士団は【八つの禁忌】に匹敵する力を手に入れた。それだけは確かです。」


 ベール卿は何かを察したように頷いた。


「では、これで」


 私は二人に深く一礼し、部屋を後にした。廊下を歩きながら、私の頭の中には五年前の記憶が蘇っていた。


『死を告げるデス・テイラー』と呼ばれた男。その男の姿を最後に見たのはいつだったか。そのように思考を巡らせていると目の前に柱に寄りかかってこちらを見ている男がいた。

「あらやだ、ギルちゃんじゃな~いの。久しぶりだわ~。」


 そう声をかけてきたのは、紫色の軍服に身をまとった、青紫色大きな口紅が特徴的な男。

「ベルナール団長、お久しぶりです。」


 ベルナール・サード。私と同じ聖騎士団の団長であり、【紫の団】を率いている。おねぇ口調の変人である。


「やだも~、昔みたいに『ベル姉さん』とは呼んでくれないの~。」

「遠慮しておきます。それより、ベルナール団長は、何をしにここへ。」


 私がそう尋ねると、「フフ」と笑い、ベルナールは答えた。


「そんなのギルちゃんを心配して見に来たに決まっているじゃな~い。」

「…心配ですか。」

「あったりまでしょ。部下の失敗にもかかわらず、上司ってだけであんな胡散臭い二人のところに説明しに行かなくちゃいけないなんて、私のギルちゃんがいじめられていないか気が気じゃなかったんだから~」

「そうですか、ありがとうございます。ですが、心配には及びません、聖騎士長の意思もお伝えしましたので。」

「あら、そう?」

「では、用がなければ私はここで失礼します。」


 私はそう言い、その場から立ち去ろうとした。その時、ベルナールが言った。


「あら、連れないわね。どうせまたあの子のところに行くのでしょ。悪趣味ね♡」


 私はその言葉に私は歩みを止める。


「それはどういう意味ですか。」

「どういう意味も何も、アタシの部下からも報告が上がってきてるのよ、『紅の団の団長が毎日、罪人のことを虐めている』ってね。でもね、アタシはギルちゃんの気持ちも分かるわよ~。ストレスは発散したいものよね~」

「軽口を叩きに来たのなら少し黙っていてください」


 私は静かに言い放ち、ベルナール団長の表情を見据えた。彼は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐにいつもの笑みを取り戻した。


「あら、ごめんなさい。でも心配なのよ。あの子の様子を見に行くなら、私もついていっていいかしら?」

「それはお断りします。個人的な用事ですから」


 私はそう言い残し、今度こそベルナール団長に背を向けた。彼の笑い声が背中に届いたが、気にせず歩き続けた。


 大聖堂を出て、王都の北側にある牢獄へと向かう。ここは通常の囚人とは別に、特別な理由で隔離されている者たちが収容されている場所だ。警備は厳重で、許可証がないと入れない。


「ギル団長、お待ちしておりました」


 門番が敬礼をして通してくれた。私は重い鉄の扉を通り抜け、石造りの廊下を進む。冷たい空気が肌を刺す。幾つもある牢屋のさらに奥、鉄の扉に小さな柵付きの窓がついているだけの牢屋の前で私は罪人に声を掛ける。


「貴方が逃がしたあの侍女は貴方の目論見通りに、いやそれ以上のことをしてくれたよ。本当に厄介なことだ。」


 そうすると扉の方から声が返ってくる


「それは、良かった。これで貴方たちの野望を打ち砕くことができる。」

「それは、無理な話だ。」

「それはどうして?」

「亡霊では我々には勝てない。これは決して揺るがない事実だ。」

「それはどうかしら、彼らはきっと貴方たちを倒しに来る。せいぜい震えているといいわ。」


 すると柵の窓の間から、か細くて綺麗な手がこちらへと延びる。私はその手を強く握り握り返す。


「勝つのは彼ら【グリム・ライト】よ。」

「いや、勝つのは私たち【聖騎士団】だ。」


 私はそう言うと、その手を離し、その場を去った。


リアルに余裕が持てるようになってきたので更新を始めました。不定期にはなるともいますが、完結まで見届けてくれたらうれしいです。

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― 新着の感想 ―
ここにきて聖騎士団と聖堂協会...ここの腹の内が見えず各々思うところがありそうで気になります。国王はどうなっているのでしょう... 聖騎士団とグリムライト、グリムライト側の現状がわからない分、どう動い…
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