王の間にて
アヴァール王国の首都にある巨大な城の一室。玉座の間には煌びやかな装飾が施されており、天井からはシャンデリアの光が放たれていた。床には赤い絨毯が敷かれ、その先には一段高い場所に豪華な王座が置かれている。
そこに座るのは王冠を被った白髪の青年だった。その傍に控えるように立つ白銀の騎士甲冑に身を包んだ水色の髪の男性がいた。彼は聖騎士団長のガレス・アルバートであった。
「陛下、来賓の方がお越しになりました」
側近の騎士が恭しく頭を下げながら報告した。
「通せ」
青年は低い声で命じた。
「はっ」
側近は扉を開けると、そこに立っていたのは二人の男女であった。一人は、【聖堂協会】の最高責任者の一人、ベール司教であり、もう一人は黒い修道服を身に纏った銀髪の女性であった。
「私どもの面会に応じてくださり、感謝いたしますカイニス王子、いや、陛下と呼ぶべきでしょうか」
ベール司教は深々と頭を下げた。
「まだ王位継承は行われてはいない。我は臨時でこの椅子に座っているに過ぎない……。あまり過ぎた言葉はたとえ貴殿であっても不敬に値すると知れベール司教」
カイニス王子は冷たく言い放った。その目は鋭く、玉座に座る者としての威厳を放っていた。
「これは失礼いたしました。では、カイニス王子」
ベール司教は頭を上げ、笑みを浮かべた。
「それで、我に用とは何だ?」
カイニス王子は腕を組みながら尋ねた。
「単刀直入に申し上げます。同盟の件についてです」
ベール司教は真剣な表情で答えた。その眼差しは強い決意に満ちていた。
「その件については明日の《会議》で決めると通告しているはずだが」
ガレスが冷たく言った。その声には警戒心が滲んでいた。
「もちろん存じております。ですが、改めて王子ご自身に私どもの口からお伝えしたく……」
ベール司教は真摯な態度で訴えた。
「なるほど……」
カイニス王子は一瞬考え込むような表情を見せた。
「王子、如何致しますか?」
ガレスが確認するように尋ねた。
「良いだろう。聞かせてもらおうか」
カイニス王子は決断を下した。
「感謝いたします」
ベール司教は再び頭を下げた。
「我が【聖堂協会】はこの度、貴国アヴァール王国との正式な同盟を結びたいと考えております」
ベール司教は静かに語り始めた。
「我々は神の教えを広め、人々の幸せを願っております。そのためにも、安定した国と強い絆が必要不可欠なのです。そして来る日に我々は国の枠組みを越え戦力を集めなければならないのです」
彼の言葉には強い信念が込められ、その眼差しは真っ直ぐで、揺るぎないものだった。
「【聖堂協会】に昔から伝わる予言をご存知でしょうか」
ベール司教は続けた。
「かつて大預言者と呼ばれた魔導士マリーンが残した予言はこうです。『これより1000年後に人類は、大いなる七つの罪と大いなる五つの天災によって裁かれる。その結果は人類の滅亡である。だが、八つの理を揺るがす禁忌の力により人類は救われる』……」
ベール司教は静かに語り終えた。
「………」
カイニス王子は何かを見定めるようにベール司教を見つめていた。
「私どもはその予言の日は近いと考えています。それを裏付けるように5年前の魔族ども進行が起こりました。記録によれば魔族の将は二匹。こう名乗っていたそうですね。『暴食の大罪』と『強欲の大罪』であると…。そういえば貴方もあの戦場にいたんでしたね、ガレス殿」
ベール司教はガレスに視線を向けた。
「……」
ガレスは沈黙を貫いた。
「あの時も私たちは散々貴方の父であるアヴァール王に忠告し、同盟を持ち込みましたがすべて突っぱねられてしまいました。結果、貴方方は、多くの兵と【生命を施す者】、そして第一王子のユリウス様を失い、【死を告げる者】もその姿を消した。……我々と同盟を結んでいればもっと違う未来が待っていたのではないですか?」
ベール司教は挑発的な口調で言った。
「貴様……、少し言葉が過ぎるぞ」
ガレスは怒りを露わにし、剣に手をかける。それを見た修道女が短剣を構え、ベール司教の前に立ち塞がる。
「止めろガレス」
「やめなさいアリス」
カイニス王子とベール司教は同時に制止の声を上げた。
「しかし王子!」
「あの人今、ベールのこと虐めようとしたよ」
ガレスとアリスは不服そうに抗議した。
「ガレスよ。今の我らはそれを咎めれる立場ではない」
カイニス王子は冷静に諭した。
「アリス、昔から私のことは呼び捨てではなく司教と呼びなさいと言っているでしょう。それに今のは私も言い過ぎました」
ベール司教は優しく諭した。
「……」
「はい……」
二人は大人しく引き下がった。
「王子……」
ガレスは何か言いたげだったが、それ以上は何も言わなかった。
「さて、話を戻しましょう。言葉を替えればこれは私からの警告でもあります」
その声には強い決意が込められていた。
「父親のかつての過ちを貴方は繰り返してはならない。そしてこれはもうすでにアヴァール国のみの話ではありません。貴方の決断一つが多くの民の運命を分けることお忘れなきように」
ベール司教は真剣な眼差しでカイニス王子を見つめた。
「言いたいのはそれだけか」
カイニス王子は冷たく尋ねた。
「ええ。まあ、私からこのようなことを口にしなくても聡明な王子であればもうすでに理解なされているかもしれませんね。なんたって我々は───」
「大変です王子!!」
突然、重厚な扉が乱暴に開かれ、一人の若い騎士が血相を変えて飛び込んできた。肩で息をし、鎧は泥と汗で汚れている。
「何事だ! 」
ガレスが鋭く問いただす。その声には苛立ちが混じっていた。
「報告します!」
騎士は一気に息を吐き出すように報告した。
「王都北西の方角より多数の魔獣の群れが王都に向けて進行を開始しております!」
「魔獣だと!?」
カイニス王子は驚愕の声を上げた。
「はい!すでにギル団長含め、城に常駐していた聖騎士たちが鎮圧へと出陣しましたが、数が数のため、ギル団長から王都に避難勧告を発令する許可を求めています!」
騎士は必死に状況を説明した。
「今すぐ避難勧告を発令しろ!そして各隊長に指示を出せ!民衆の安全確保を最優先とする!」
カイニス王子は即座に命令を下した。
「はっ!」
騎士は敬礼し、部屋を飛び出していった。
「……どうやら話し合いの雰囲気ではなさそうですね、アリスさん、我々はここで失礼することにしましょう」
ベール司教は静かに言った。
「……」
アリスは無言で頷いた。
「では王子、明日の返事楽しみしております」
ベール司教はそう言い残し、アリスとともに部屋を後にした。
「ガレス、聖騎士団に命令を出せ。王都周辺の警備を強化し、市民の避難誘導を開始するのだ」
カイニス王子は冷静に指示を出した。
「御意」
ガレスは短く応じると、部屋を出ていった。
「思うようにいかないものだな……」
カイニス王子は玉座に深く腰掛け、深く息を吐いた。その目には不安と決意が交錯していた。
ここから第4章の始まりです。
ボチボチやっていくのでよろしくです




