もう一人のゼーラ【後編】
「フフ……この世界には魔法というものに対して様々な考え方や仮説の様なものが存在している。その数多ある説の一つにこのようなものがある。『この世界の根本はすべて魔力である』」
スザクは目を細めながら言葉を紡いだ。
「これは、この世界に存在するあらゆる物質、生物、自然現象は、全て根源的には魔力から成り立っているという考えでね。それは逆説的に魔力さえあれば、どんなものでも生み出せるということにもなる」
「それは……」
ゼーラは言葉を失った。その考えは彼女がこれまでに知り学んできた常識を遥かに超えていたからだ。
「フフ……そうだね。確かにこの説は机上の空論に過ぎない。なぜなら魔力は有限であり、創造するにも魔力を消費する。もちろんその消費量も大小さまざまであり、大きいな物や現象を再現しようとすればそれに伴って魔力を消費する。それがどんなに鍛え抜かれた魔導士であったとしても限界がある。それこそ【無限の魔力】でも存在しない限り不可能だろう。だがこの世界には無限の魔力という幻想は存在しえない。すべてのものは有限であり、循環している」
スザクは静かに語り続けた。
「センセーは物知りなのです。色々なことを知っていてびっくりなのです。」
ポチは感心したように言った。
「フフ……まあね。知識は物語のネタになるからね」
スザクは謙遜しながら答えた。
「だがね、そんな夢のような話を、この世界の法則を簡単に覆してしまうのが【生命を施す者】という魔法さ」
スザクは不敵な笑みを浮かべた。
「この魔法はね、【魔力を生み出す】魔法なのさ」
スザクは静かに語り続けた。その言葉にゼーラは息を飲んだ。
「魔力を……生み出す……?」
ゼーラは信じられないという表情で呟いた。
「そう。魔法の元であるマナを生み出すことができる。わかりやすく言えば、1つしかないもので全く同じものを2つ、3つ、それ以上に増やすことができてしまう。」
スザクは頷いた。
「それってつまり……」
「つまり、この魔法を使えば、無限に魔力を生み出すことが可能になる。あえて言い換えるとすれば……」
スザクは不敵な笑みを浮かべた。その表情はどこか狂気を孕んでいるようにも見えた。
「『万物を生み出す魔法』と言ってもいいだろう」
スザクはそう言うと、静かにジョッキを傾けた。その言葉にゼーラはただただ圧倒されていた。
「まぁ、それも万能というわけではないのだけどね」
スザクは苦笑いを浮かべた。
「どういうことですか?」
ゼーラは尋ねた。
「フフ……この魔法の欠点はその魔法の規模の大きさ故に使用者の魔力限度量を容易に超えてしまうことだよ」
スザクはそう言うと空になったジョッキに酒を注ぎ始める。
「万物には限度というものがある。当然魔力もその例外ではない。人間の体内にはそれぞれ固有魔力の許容量というものが存在していてね。これを越える魔力を保有すると…ボカン。体内の許容量を超えた魔力は逃げ場を求めるように膨れ上がって四肢が爆散する」
スザクが注いでいたジョッキから酒が溢れ零れる。まるでスザクの言葉を示唆するように。
「つまり……その魔法は使うこと自体が危険なものということですか?」
ゼーラは震える声で尋ねた。
「フフ……それ故に禁忌の魔法という訳だ。常人では使いこなせない…、一部の人間を除いてね」
スザクはそう言うと再びジョッキを傾けた。
「我々の知るゼーラはね。その魔法を完全に使いこなすほどの人物だった。それだけじゃない、その魔法を使い多くの人々を救ってきた、まるで絵に描いたような聖人だった」
スザクは懐かしむように目を細めた。
「その人は……今はどうされているんですか?」
ゼーラは尋ねた。
「死んだよ、5年前の魔族との戦いでね」
話に割って入るようにミラーが答える。その声は変わらず明るかったが、その瞳には悲しみの色が滲んでいた。
「そう……なんですか……」
ゼーラは俯いた。
「にゃはは!気にしなくていいですよゼーラ!」
トラマルが豪快に笑いながらゼーラの背中を叩いた。
「トラマル……」
マリアが心配そうにトラマルを見つめた。
「にゃはは!それにゼーラの意志は今の私たち『グリム・ライト』に引き継がれている。彼女がこの世に存在していた証はまだ残っている」
トラマルは笑顔で言った。
「それにあの人は最期まで希望を捨てずに生きた。そんな彼女を哀れむ必要はない。あの人が愛したこの世界は、これからも続いていくんだから」
トラマルはそう言うとグラスを掲げた。
「……そうですね」
ゼーラは頷いた。
「にゃはは!そうそう!湿っぽい話は終わり!今は食事を楽しみましょ~!」
トラマルは豪快に笑いながら言った。
「あらあら、そうね。冷めないうちに頂きましょう」
マリアも微笑みながら言った。
「フフ……そうだね。それに、彼女のことは私にとっても大切な思い出だからね」
スザクはそう言うと、再びジョッキを傾けた。
その時、食堂の扉が開き、一人の女性が姿を現した。彼女は白いローブを身に纏い、銀色の髪が特徴的だった。その目は鋭く、どこか冷たい印象を与えた。
「失礼する。食事中だったか」
女性は静かに言った。
「あらあら、おかえりなさい」
マリアが笑顔で迎えた。
「ただいま。遅くなってすまない」
女性は頭を下げた。
「いやいや、ちょうど良かったよ。ゼーラさんの歓迎会が始まったばかりだよ」
ミラーが明るく言った。
「歓迎会……?」
女性は首を傾げた。
「ああ、そうだよ。そこの酔っ払いに絡まれているのがゼーラさん。今日からこのギルドの仲間になったんだ」
ミラーが説明した。
「なるほど……」
女性はゼーラに視線を向けた。
「初めまして。ゼーラと申します」
ゼーラは丁寧に頭を下げた。
「私はリオン・アルベルト。このギルドの魔道具を作っている魔導士だ」
リオンは簡潔に自己紹介をした。
「よろしくお願いします」
ゼーラは少し緊張しながらも答えた。
「フフ……それにしてもリオン君、今日は随分と遅かったじゃないか」
スザクが尋ねた。
「ああ……山奥を探索していたら珍しい石を見つけてな。採取に夢中になってしまった」
リオンは少し疲れた表情を見せた。
「フフ……そうか。まあ、ゆっくり休むといい」
スザクは優しく言った。
「ありがとう」
リオンは礼を言った。
「さあ、みんなで乾杯しよう!」
トラマルがグラスを掲げた。
「乾杯!」
全員が声を揃えて言った。食事は和やかに進み、みんなが楽しそうに話していた。ゼーラも徐々に打ち解け、笑顔を見せるようになった。
「あらあら、ゼーラさん、楽しそうですね」
マリアが微笑みながら言った。
「はい。皆さんとても親切ですし、楽しいです」
ゼーラは笑顔で答えた。
「フフ……それはよかった」
スザクは満足そうに頷いた。
「そういえば、まだ君の話を聞いていなかったね……。もし、よければ聞かせてくれないかな?」
スザクはゼーラに尋ねた。
「え?」
ゼーラは少し戸惑った。
「君が何者なのか……、君がこのギルドに来た理由……、君がここでで何を求めるのか……」
スザクはゼーラの目をじっと見つめた。
「私は……」
ゼーラは言葉に詰まった。彼女は自分が何者なのか、何を求めているのか、自分自身でもよくわかっていなかった。
「フフ……焦る必要はない。ゆっくりと話してくれればいい」
スザクは優しく言った。
「はい……」
ゼーラは小さく頷いた。
「それに、君のことをもっと知りたいと思っているのは私だけじゃないと思うよ」
スザクはそう言うと、他のメンバーに視線を向けた。
「そうだね。僕も聞きたいな」
ミラーが言った。
「にゃはは!私も!」
トラマルも賛同した。
「あらあら、私もぜひ」
マリアも微笑みながら言った。
「俺もちょうど気になってたんだ」
フェイも頷いた。
「私も気になっていましたぞ」
ルーカスはパイプに火をつけて言った。
「私もなのです!」
ポチも元気よく言った。
「……私も」
リオンも静かに言った。
「フフ……みんな君のことを知りたいみたいだね」
スザクは微笑んだ。
「はい……」
ゼーラは少し照れながらも答えた。
「では、まずは君のことを聞かせてくれるかな?」
スザクは優しく尋ねた。
「私の……こと……」
ゼーラは深呼吸をしてからこれまでの自分の人生を話し始めた。
期間が空いてしまいましたが生きてます。




