訓練所
ミラーとゼーラは次のギルドメンバーに会うため、廊下を歩いていた。ゼーラは興味津々な様子で周囲を見回していた。
「ミラーさん、次はどこに行くんですか」
ゼーラは興奮した様子で尋ねた。
「そうだね、この時間帯だったらあそこがいいかもね」
ミラーはニヤリと笑いながら言った。
二人は階段を下りて地下へと向かった。地下の廊下は薄暗く、いくつかのドアが並んでいた。
「ここだよ」
ミラーは一つの大きなドアの前で立ち止まった。
「ここは?」
ゼーラは興味深そうに尋ねた。
「訓練所さ。このギルドのメンバーは基本的にここで訓練をしているんだ」
ミラーはそう言ってドアを開けた。
瞬間、大きな衝撃音が鳴り、部屋中の埃が立ちこもる。
ゼーラは咳き込みながら目を細めた。部屋の中には二人の男女が立っていた。一人はパイプを口に咥えた男性、もう一人は乱雑に髪を後ろで纏めた赤髪が特徴的な若い女性だった。二人はゼーラたちの姿を見て驚いた表情を見せた。
「おい、誰だ?」
赤髪の女性が声を上げた。彼女は全身に汗をかき、戦闘の痕跡が見られた。
「やぁ、フェイにルーカス。訓練中だったかい?」
ミラーは二人に声をかけた。
「ああ。ミラーか」
パイプを咥えた男性が答えた。彼は体格が良く、筋肉質な身体を持っていた。
「で、そっちの子は?」
赤髪の女性がゼーラを指差した。
「この子はマスターが連れてきたゼーラさん。グリム・ライトの新しい仲間だよ」
ミラーはゼーラを紹介した。
「初めまして。ゼーラと申します」
ゼーラは丁寧に頭を下げた。
「おや、これはご丁寧にどうも。私はルーカス、以後お見知りおきを、お嬢さん。」
ルーカスはニヤリと笑いながら握手を求めてきた。ゼーラは少し緊張しながらも手を差し出した。
「私はフェイ。よろしく」
フェイはぶっきらぼうに言った。
「こちらこそよろしくお願いします」
ゼーラは少し戸惑いながらも答えた。
それを見たフェイは何を思ったかゼーラに近づき、突然彼女の頭に顔を近づけ匂いを嗅ぎ始めた。
「ちょっと!何してるんですか!」
ゼーラは慌てて身を引いた。その顔は赤く染まり、明らかに動揺していた。
「あー悪い。別に変な意味じゃないんだ。ただ……」
フェイは眉をひそめながら言った。
「この匂い……知り合いに同じようなのが居た気がするんだよな」
「え?」
ゼーラは驚いた表情でフェイを見つめた。
「おいおいフェイ君、あまり彼女を困らせてはいけないよ」
ルーカスがパイプを口から離し、二人の間に割って入った。
「悪い悪い。気になったもんでね」
フェイは肩をすくめながら謝った。
「それより、どうして訓練所に?」
ルーカスがミラーに尋ねた。
「ああ、実はゼーラさんにギルドの案内をしていたんだ。ついでに君たちにも紹介しようと思ってね」
ミラーはゼーラの肩に手を置きながら言った。
「なるほどね」
ルーカスは納得したように頷いた。
「それなら、稽古の様子でも見ていくか?」
ルーカスは提案しながら部屋の隅にある椅子を指さした。
「はい!是非見せてください!」
ゼーラは興奮した様子で答えた。
「じゃあ、始めるぞおっさん!」
「ああ、どこからでも」
フェイは拳にメリケンサックを握りしめ、構えを取った。それに対しルーカスは口に咥えたパイプを吸いながら堂々とした姿勢で立っている。
「じゃあ僕はここで解説しようか」
ミラーはゼーラの隣に座りながら言った。
「よろしくお願いします」
ゼーラは緊張した表情で二人の戦いを見つめた。
フェイは距離を取りながら動き始めた。二人の間には緊張感が漂っていた。
「さて、ゼーラさんは魔導師の戦いを見たことはあるかな?」
ミラーはゼーラに尋ねた。
「はい、ゼロが私を助けてくれた時に聖騎士と戦っているのを見ていたので」
「あはは、あの人の戦い方は特殊だから、あれを一般常識で考えたらだめだよ」
ミラーはニヤリと笑いながら言った。
その言葉にゼーラは少し恥ずかしそうに頷いた。
「通常、魔導師の戦いは【マナ】と【固有魔力】の二種類の魔力を使って魔法を発動させて戦うんだけど、そのことは知っているかな」
「はい。そのことについては小さいときに母から教えてもらったことがあります。」
「なるほどね。じゃあ次の話だ。実は魔法を使うにはこの二つの魔力を組み合わるんだけど、その時に必要になる物はなんでしょうか?」
「え?えーと……杖でしょうか?」
ゼーラは自信なさげに答えた。
「惜しいね。確かに魔導士と言えば杖を持っているイメージだけど、別に絶対に杖が必要という訳じゃない」
「え?そうなんですか?」
ゼーラは驚いた表情を見せた。
「そうだよ。魔法を使う時に必要なのは【媒体】だよ。まぁ、媒体っと言っても様々だけどね」
「バイタイ……?」
ゼーラは考え込んだ。
ミラーは頷きながら説明を続けた。
「そう。例えば杖を使っている魔導士の場合、その杖が媒体となって自分の体内にある固有魔力を抽出して、それを大気に漂ってるマナと掛け合わせて魔法を形成するって仕組みさ」
「なるほど……」
ゼーラは少し納得した表情を見せた。しかし、彼女の頭の中にはまだ疑問が残っていた。
「でも、杖以外の媒体ってどんなものがあるんですか?」
「それこそ多種多様さ。」
そう言うとミラーは、フェイとルーカスを指差す。
「例えば、ルーカスが口に咥えているパイプ、あれが彼の媒体さ。そしてフェイの場合はメリケンサックだね」
「え?あれがですか?」
ゼーラは驚いた表情で二人を見つめた。
「そうさ。魔導士はそれぞれ自分に合った媒体を使って魔法を使うんだ」
「なるほど……」
ゼーラは感心したように頷いた。
「それに媒体は物じゃなくたっていい」
「え?」
ゼーラは驚いた表情を見せた。
「例えば言葉を媒介にすることだってできる。俗に言う【詠唱魔法】ってやつだね。」
「詠唱魔法……」
ゼーラは興味深そうに呟いた。
「戦ってる時、技名を叫ぶだろ。あれが詠唱だよ。ああいうのは初心者や未熟な魔導士がよく使うんだ。まぁでも熟練の魔導士なら無詠唱でも魔法は使えるけどね。逆に熟練の魔導士が難易度の高い魔法を使うときに詠唱を行ったりするけどね」
「なるほど……」
ゼーラは感心したように頷いた。
その時、訓練所に大きな衝撃音が響き渡った。ゼーラが驚いて視線を向けると、フェイがルーカスに向かって攻撃を仕掛けており、フェイの蹴りをルーカスが腕で受け止めていた。
「ほらほら、そんなもんかおっさん!」
フェイは笑いながら言った。
「今日は一段と気合が入っているじゃないか、フェイ」
ルーカスは余裕な笑みを浮かべながら、フェイの足を払いのける。
「当たり前だろ!新入りに良いとこ見せないとな!」
フェイはニヤリと笑いながら言った。
「『竜人拳』…」
フェイがそう唱えると、彼女の拳が激しい炎に包まれる。
「さて、君がその気なら私も少しばかり本腰をいれるとするかな」
ルーカスはパイプを咥え直し、大きく息を吸う。それと同時、フェイは地面を蹴り、一気に距離を縮める。
それを見たミラーは不意に言葉を漏らした。
「あ、ヤバいかも」
「え?!」
ゼーラは驚いてミラーを見た。
「『竜の一撃』!!」
「『スモーク・ナックル』」
フェイが炎に包まれた拳をルーカスに向けて放つ。それに対しルーカスはパイプから吐き出した煙が巨大な拳となりそれを迎え撃つ。
互いの拳がぶつかり合った瞬間、訓練所全体に凄まじい衝撃が走る。壁には亀裂が走り、床には深いヒビが入る。
「あちゃ~。訓練所が壊れちゃったな~」
ミラーは頭を掻きながら呟いた。
「ちょっ!ミラーさん!止めるべきじゃ……」
ゼーラは慌てて立ち上がった。
「大丈夫だよ。彼らもギリギリのところで加減はしているはずさ」
ミラーは落ち着いた様子で言った。
「それに……」
ミラーがそう言うと、訓練所の扉が開き一人の男性が姿を現した。その男性は白い髪に白い髭が特徴的な老人であったが、黒いスーツに身を包んでおりその姿は老人と言うより執事のような雰囲気であった。
「フェイ様、ルーカス様、原則ギルド内での魔法での戦闘行為は原則として禁止となっていることをお忘れでしょうか」
その声は落ち着いていたが、どこか威圧感を感じさせた。
「げっ、ウォルクさん……」
フェイは青ざめた表情で呟いた。
「申し訳ないウォルグ殿、少々熱が入ってしまった」
ルーカスは素直に謝罪した。
「まぁ、今回はこの程度で済んでいますが、ルールはルールです。今夜の食事抜きにさせていただきますね」
ゲイルは冷たい目で二人を見つめた。
「はい……」
二人はしょんぼりとした表情で答えた。
「それで……」
ゲイルはゼーラに視線を向けた。
「そちらのお嬢さんがマスターが連れてきたという?」
「ああ、彼女は新入りのゼーラさんだよ」
ミラーがゼーラを紹介した。
「初めまして。ゼーラと申します」
ゼーラは丁寧に頭を下げた。
「私はウォルグ・イースリット。このサファイア様の専属の執事を務めています」
ゲイルは落ち着いた声で自己紹介をした。
「よろしくお願いします」
ゼーラは緊張した表情で答えた。
「それでは、ゼーラ様、ミラー様。食事の準備が整いましたので、食堂の方までお越しください」
ゲイルは二人に案内を促した。
「ああ、わかったよ」
ミラーは頷きながら答えた。
「じゃあ、僕たちも行こうか」
ミラーはゼーラに声をかけた。
「はい」
ゼーラは頷きながら立ち上がった。
「では、我々も失礼しようかフェイ君」
「そうだな、おっさん」
フェイとルーカスも二人の後を追うように訓練所を後にしようとしたが、ウォルクは二人の襟を掴み引き留める。
その瞬間、二人の顔は真っ青になった。
「貴方方は私と共に訓練所の修繕と清掃をお願いします。」
ウォルクは冷たい声で言った。
「はい……」
二人は肩を落としながら訓練所に残った。
まだまだ、続きます




