#8 『異界』先輩を追って…
泣き出しそうな表情で走り去った『先輩』。
『僕』は引き止める事もできず…
今回の話に登場する列車(汽車)は、
FF6に登場する魔列車をイメージしています。
やっぱり、当時のスクウェアは凄い!
凄すぎる!
以上、個人の感想でした(^_^)
見慣れない場所で、見知った人に会う。
それだけで安心感という物が生まれる。
だが、もしその人が目の前からいなくなったら?
『答え』
前にも増して不安になるでしょう。
まさに僕は不安とやらの真っ只中にいた。
先輩が走り去った先には、列車が止まっていた。
いつの間に到着していたのだろう。
だけど、誰かが降りて来るでもない。
駅の構内にアナウンスが流れるのでもない。
相変わらずの静寂、人の気配がまったくない。
帰り道も分からない。
たった一人、どこかも分からない場所で
途方に暮れる、それが唯一僕にできる事だった。
道と駅敷地を分ける階段に腰掛け、割と大きなため息をつく。
息を吐き出した拍子に頭部が下がり視線が自然と下を向く。
砂礫の様な物が表皮に浮かぶ荒いアスファルト、
そこに一冊の本が落ちているのを見つけた。
とても丁寧な作りの一冊の本。
表側には何かの動物の革が貼られ表層されており、
作られたのはものすごく古い時代のようだ。
水色の綺麗な栞がはさんである。
どこかで見た事があるような…。
「…ユニーク」。…あっ!
先輩が読んでいた本…、大事そうに持っていた本。
落ちているその本を見ていると、一つの言葉が浮かんだ。
『後悔』。
ここでこのまま何もせず、泣きそうな表情で立ち去る先輩の後を追わなければ、僕は一生この言葉の虜になるのではないかと。
「行こう!!」
先輩に本を届けに!
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本を手にとって、駅に急ぐ!
入り口をくぐって入るが改札口もなく、
駅員さんの姿も見当たらない。
入ってすぐのホームを駆ける!
ホームに止まる列車は、まさにいかつい『鉄のカタマリ』、
そんなものが煙突から黒い煙りを吐き出しながら佇む。
我々の日常に見る列車よりもやや横に太く、ずんぐりとした印象を受ける。この先頭車両はSLのような汽車だろうか…、初めて見たので断言はできないがまず間違いはないだろう。だけど入り口は…、ここには無い。
後ろにはさらに3両の列車が続いている。
乗り込む為の入り口は…、あそこか!
1両目、2両目には乗り込めるような入り口はなく、
一番後ろの3両目の左側後方に乗車出来そうな足場スペースが見える。どうやらこのホームから乗り込めるようだ。しかし、そのホームやその入り口付近には誰もいない。
当然、先輩の姿も。
僕は考える。
先輩は泣きそうな顔で「行かないと」と言った。
例えるなら、魔法の終わりを告げる鐘の音が響く前、
王城から走って去りゆくシンデレラのように
何かを恐れるように、何かに追われるかのように。
僕に何が出来るという訳ではないが、
先輩をこのまま一人で行かせてはいけないような気がした。
きっと先輩は3両目から乗り込んだのだろうと、
確証は無いが根拠のない確信がある。
だから3両目に向けて走り出そうとした時に、
力強い音が響いた。
テレビなどでしか聞いた事がない
SLとかの汽笛の音だ。
が………しゃ…ん!
ものすごくゆっくり、しかしとてつもなく重く、そして力強い金属音が響く。
僕は乗車スペースに向かって走り出す、全速力で。
…が……しゃん!…が…しゃん!
汽車が駆動し始めたのろう。動き始めたのが走りながらでも分かる。
…がしゃん!が…しゃん!
音がだんだんとスムーズになり、力強くなっていく。
比例して汽車はスピードを上げ始める。
まだゆっくりだが確実に。
がしゃん!がしゃん!がしゃんっ!
音は早くなり始めると共に、跳ねるような音が聞こえ始めた。スピードがどんどん上がり始めたのが分かる。
ホームを走り3両目あたりに到達した時には
列車もまた僕のダッシュくらいの速度になっていた。
ぐんぐん近付いてくる、この車両最後尾にある乗車スペース。僕は走るスピードを緩め飛び乗る為に備える。
いや、回れ右だっ!
方向転換して全力ダッシュ。
前に向かって走ったままなら、僕が時速20キロで走り電車も同じ速度とすれば、時速40キロ以上になる『巨大な鉄のカタマリ』と正面衝突するようなものだ!
車にぶつかる交通事故よりヤバい!
後ろを向いて走り始めた判断は多分正解だと思う。
少しづつ僕を3両目の車両は追い抜いていく。
視界の端に最後尾、乗車スペースが見えた。
畳一畳くらいの広さ、乗り降り部分以外端落下防止の柵に囲まれていた。車両に触れるギリギリまでホーム端を走る。多少大きなカバンを持っていても楽に通れそうな幅を持たせた乗り降り部分、端にあるポールを死に物狂いで掴み列車に飛び込む。掴んだ片手、右手一本をぐいっと力を込めて体を引きつける。右足の裏が乗車スペースの床面に触れる。左足を続けて床面に着かせたが綺麗な着地はできない。
そのまま膝から落ちる、その衝撃でポールを掴んでいた僕は右手を離してしまう。支えを失った体は左半身を後ろに引かれるように投げ出される。
倒れて床とかに頭を打たないように、今日二回目のアゴを引き落下に備える体勢をとる。
左脇に抱えていた先輩の本を離さないように左手でしっかり握り、自由になった右手を急いで体の前に回し本を抱き締めるように包む。
ズダア〜〜ン!
背中から落ち、派手な音を立てたが大した痛みは無い。仰向けになり息を整える、体を休ませ心を落ち着かせる。背中に感じる振動が激しい、というかむしろ痛い!
色んな意味で寝てる場合じゃない。
慎重に立ち上がり、もう一度先輩の本をしっかりと抱える。
気合を入れ直し、入り口に向かう。
先に乗車したであろう先輩を探しに。
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命からがら…、という言葉が当てはまるレベルかも知れない、大変な思いをして乗り込んだ列車はあまりにも質素とか簡素というような印象だった。
3号車…とでも呼ぶべき最後尾の三番目の車両に進入した僕は、周りを見回す。
車内の壁面は木造であり中央に通路、その通路両側には二つずつ向かい会うように座席が設置されている。手すりや網棚などはなく、まるで数十年前…下手すれば百年近く前の旅客列車のようだ。
座席を見てみると木の椅子に布等を貼り付けた様なもので、中綿の無い背もたれや尻を付ける座席はとても堅く、長時間乗り続ければ間違いなく尻や腰、背中が悲鳴を上げるだろう、そんな座り心地だった。
全ての座席を見て回ったが誰も乗っていなかった。
お目当の人物に会えなかった僕は、前の車両…2号車の扉を開けた。
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2号車に入った僕は、やはりお目当の人物に会えなかった。3号車との違いは向かい合う座席スペースはやや広めに取られており、向かい合う座席の間には備え付けのテーブルが据えられている。
通路は先程のような車両中央部ではなく、車両の左側に伸びている。明らかに先程の車両より乗り心地は良い気がする。
何というか3号車よりおそらく乗車賃は高くなるような…、この列車の3号車と2号車は船の二等船室と一等船室のような関係にあるのではないかと思った。
改めて2号車の全ての座席を見て回ったが、やはりここにも先輩はおらず、おそらくは特等席とか特等船室にあたるような1号車に続く扉を開けた。
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予想は当たっていた。
1号車はきっと特等車なんだろう。
2号車と同じように通路が車両左側に伸びていた。
しかし、2号車と明確な違いがある。
座席スペースは個室になっている。
3号車、2号車共に先輩はいなかった訳だから、
きっと…ここにいる。
通路に出て一つ目の客室の扉を開ける。
中を見るが誰もいない、…ノックするの忘れていた!
焦っていた…かな。一応、中に入る。
備え付けのベッド、手紙くらいは書けそうな机、
そして椅子。洋服タンスもある。
もしかすると、この列車は泊まりがけ前提の長距離列車なんだろうか…?昔、日本にもあったという寝台列車のように。それにしても…、なんか古いというか、アンティークというか…、歴史を感じてしまう。
思わず変な感心をしていると、汽笛の音が響いた。
わざわざ汽笛を鳴らすのは何かの合図のように思えた僕は…、一回目は発車の合図…、二回目になるこの汽笛の意味は分からないけど何かがあるような…そんな気がした僕はとりあえずこの客室から出てみる事にした。
ドアを閉め、通路を進もうと前方に視線を向けると、1号車前方にある扉を開け先に進もうとする人影が見えた。黒いドレスを着た女性…!
そして、透き通るような白い肌に背中まである銀色の髪!
扉の向こうにその姿が消える。
急いて走って後を追う!
車両左側の通路の先にある扉を開け、外に踏み出す。
カツン。
踏み出した足の靴音が響く。
今までの通路は2号車と3号車の板張りの床か、1号車の絨毯張りの床だったが、この先頭車両のSLのような車両は鉄張りの床のようだ。
扉を出たその場所は通路のようになっていた。
幅は1メートル弱くらいか、直ぐに右に折れている。
右に向かって走る!向かって左側は機関スペースになっているのか鉄張りの壁で視界はゼロ、先輩はどこッ!?
カン!カン!カン!カンッ!
走る!鉄張りの床が音を立てる。
車両の左側から右側へ、左を向き先頭車両の前方に体を向ける。
「先輩ッ!!!!」
ほんの数歩先にノースリーブで裾が足首まである黒いドレスを着た先輩がいた。
先輩がこちらに振り向く…。
その白い肌と銀色の髪がドレスとの対比にもなり美しさが際立つ。真紅の瞳がこちらを見つめる。
先輩がもう数歩進んだらSLの機関部に入る扉がある。
なぜか僕は間に合った、そんな事を思った。
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列車はひたすらにスピードを上げ、先輩の髪を、着ているドレスを向かい風が激しく舞わせている。
何かヘンな感じがする、空が赤い。
夜なのは間違いないのに。黒い夜空に所々赤い絵の具を撒き散らしたように、不自然な混ざり方をしたような空。
不気味な違和感が心に積み上がっていくのが分かる。
いるだけで苦痛に責めらるように。
苦しい…、早く戻りたい。
その時、先輩がまた泣きそうな表情を見せた。
「どうして…」
先程までの先輩とは何かが違う。
「どうして来てしまったのッ!?」
「えっ?」
先輩が落とされた本を届けようと思って…、
僕はそう回答ようとした。
しかし、今の先輩にはそう告げる事が出来ないような雰囲気があった。鬼気迫るというか…、
「このままではあなたまで死んでしまうのよッ!」
先輩の語った衝撃の一言。
この列車は…?
長い本文になってしまいました。
お付き合いいただいた皆様、本当にありがとうございました!
感想とかいただいけると嬉しいです。
よろしくお願いします。