#7 『異界』 先輩との再会と別れ
声にならない悲鳴をあげながら人が倒れかかってくる。
少し急角度気味で後頭部や背中側から落ちてくる。
クリ◯ンの声の人が『親方、空から女の子が!?』
そんなことを言う場面を思い出す。
キャラクターとしてはパ◯ーだけど…。
そう、倒れてくる人は長い髪をしていた。
きっと女の人だ。
【このままじゃ、危ない】
う、受け止めなきゃ!
この段差を頭から落ちたら大変だ!
背中を向けて落ちてくる人に向かい両手を軽く広げ
僕の胸で受け止めるようにする。
無理に踏ん張るような事をせず、彼女に合わせて
後ろに倒れ込む。両手は体を両側から軽く挟み込む、
横に体勢がずれ投げ出される事がない様に。
僕はアゴを引き、自分が後頭部を打たないようにする、
多少痛くても良い、こんな硬いコンクリートの地面に
まともに叩き付けられたらこの人はタダでは済まない。
だったら、今いる僕が守るんだ。
不恰好でも、そのぐらいはしたい。
背中から地面に落ちる。
思っていたより低い音が響き、衝撃からか
肺の中の空気が『こぽっ』と口から漏れた。
そのショックで胸が苦しい。
必死に呼吸をしようとするが肺が浅くしか動かないのか
過呼吸の人のように荒い呼吸音だけが響く。
まるで肺に空気が入らずに喉だけでする空気の行き来、
焦りがさらに呼吸を不確かにさせる。
この世の終わりかと思う程の苦しさ、
体の力が抜け四肢を投げ出される。
しかし喉元は呼吸を意識している為か
強張っていくのが分かる。
何かマズイのではないか、素人の僕でも分かった。
…ころん。何かが転がるような感覚。
そして、冷たくしなやかな何かが僕の左手を包む。
額や頬を同じような何かが優しく撫でる。
いつの間にか僕は目をぎゅっと閉じ続けていた。
うっすらと目を開けると、銀髪の女の人がいた。
まだ、はっきりとは見えないが、なんだかとても
安心できる。少しずつ、少しずつ空気が入っていく。
落ち着こう、ゆっくりゆっくり…、
いつもの呼吸を取り戻そう。
また目を閉じていたようだ。
元通りの呼吸を取り戻したとき、
僕はもう一度四肢を投げ出し、体を硬い路面に預けた。
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落ち着きを取り戻し、今度はしっかり目を開ける。
制服のブレザー、深緑のリボン、長い銀髪…。
そして、美人としか言いようのない顔立ち。
また、目と目が合う。
間違いない、また会いたいと願った先輩だ。
なで…。なでなで…。
先輩は優しく撫で続ける。
表情は…、何かの感情を訴えてはいない。
無表情、だけど無感情という訳ではないような気がした。
…なでなで。
ゆっくりと撫で続けてくれている。
あれ、なんだかこれはとても嬉しいんだけど、
とてもとっっっても気恥ずかしい事ではなかろうか?
「す、すいませんっ!」
慌てて飛び起き、正座のような姿勢になる。
起きた事で優しく握っていてくれた手が解けた。
なんかとても惜しい。
見れば先輩も正座の姿勢で僕を介抱してくれちいたようだ。
「先輩が…、僕を介抱してくれてたんですね、
ありがとうございます」
先輩はふるふると首を横に振る。
「あなたが…、私を」
先輩が頭を下げる。
「…受け止めてくれた。お礼を言うのは…私」
「い、いえ、そんな…」
まっすぐに見つめられ、僕は照れに照れ俯く。
気恥ずかしくて、とても正視していられない。
先輩が静かに立ち上がる、
見上げた僕に手を差し出してくれている。
僕はその手を取り立ち上がると、
先輩はつないでいた手にもう一つ手を重ね…
両手で包むように僕の手を取る。
先輩の顔が間近にあり、思わず見入ってしまう。
その時、初めて先輩は、表情らしきものを浮かべた。
悲しむような、寂しがるような…。
「…行かないと」
「え?」
先輩が駅の方をちらりと見る。
駅舎の入り口入ってすぐがホームとなっており
いつの間にか列車が止まっているのが見える。
「…行かないと、いけない」
僕の手を離し、先輩はニ、三歩後ずさる。
僕から距離を取るように、そして、
なんだか泣き出しそうな、そんな表情を浮かべて。
「…さよう…なら」
消え入りそうな声を残し、先輩は駅に向かって
走り出してしまった。
どうする事もできなかった、僕一人を残して。
初めて、先輩の表情らしい表情、
感情らしい感情が溢れだしました。
彼女が何を抱えていたのか?




