29.聖夜の桜
夜に映えるさまざまな光があちらこちらに出そろい、軽快な音楽が街に流れている。
サンタの恰好をした人が、目に留まるだけでも10人はいるだろう。
昼間アルバイトに出ていた時は気が付かなかったが、クリスマスというものはこんなにも鮮やかだっただろうか。
俺はそんな愉快な雰囲気をかきわけて、目的の場所へと走っていた。
――どうかどうか、間に合いますように。
そんな淡い期待を抱いて、ようやくたどり着いた目的の場所の扉を開く。
「いらっしゃいま……せ……」
「藤崎さん……!?」
勢いよく扉を開けたせいか、皐月さんはとても驚いた顔をしている。
そんなこともおかまいなしに、俺は彼女に詰め寄った。
「桜はっ……、彼女はどこに……!」
はあはあと息を荒らげながら言った俺に向かって、皐月さんが不思議そうに答える。
「……桜なら、ここから歩いて10分くらいの、遊園地の近くまで行くって……さっき出て行きましたけど……」
「わかった、ありがとう!」
「あっ……」
何か言いたげにしていたが、俺はすぐに店を出て再び走り出した。
「……藤崎さん。桜を、お願いします……」
蓮が走り去ったあとに、皐月はポツリとつぶやいた。
――それが、ここにいない彼に届くことはなかったが。
――こんなに走ったのはいつぶりだろう。
以前にもこんなことを言っていた気がする。……そうだ、桜から逃げた日のことだ。
もう二度と後悔はしたくない。
花屋から続く1本道を、ひたすら走り続けた。
長いと感じていた10分も、今日は一瞬にして過ぎ去った。
「……は、はあ……はあ」
以前と同じように、息を整えながら歩く。
大型遊園地の入り口ゲートの前。満面の笑みを浮かべた人々でにぎわう中、視線の先に1人の少女が立っていた。
――変わらない清楚さ。綺麗な栗色のストレート。以前より少し弱々しくなった後ろ姿。
間違いなく”神崎 桜”だった。
「……桜」
ゆっくりと彼女に声をかけた。
その言葉に反応したのか、その少女は様子を伺うようにこちらを向く。
{れ、ん、く、ん}
俺の姿をとらえた彼女は、いまにも目玉が飛び出そうなくらい瞳を開き、そう口を動かした。
言い終えると同時に、桜の目から一筋の涙が零れ落ちた。
「……ごめん。もう、会えなくなるかと思った。でも、これからは1人にしないから」
なんとも気障な言葉をつぶやいたあと、俺は彼女のそばにかけよって、その小さな身体を腕の中に収めた。
――やっと、届いた。そんな気がした。




