1.崩壊
こんな人生こりごりだ。なんて、何度思ったことだろう。
人として生きている限り、一度は思うことはあるかもしれない。
だが、俺みたいにその人生に捨て置かれ、死の決意に至った者はそう多くはいないだろう。
しかし、そんな23歳の男の悲劇を語っていても、もう意味はない。
こうしてビルの屋上に立ってしまった以上、後戻りはできないのだ。
全ての事の始まりは、3か月前のことだ。
大手企業で働いていた俺、藤崎 蓮は自他ともに認める”できた社員”だった。
売上の向上に貢献、社長にも幾度となく誉めそやされた。
その日は約束があったので、仕事が終わるとそれに向かう予定だった。
「お疲れ様です。お先に失礼します。」
一通り挨拶を終え、エレベーターを待つ。
約束の時間が迫っていたので、急がなくては、と少し急いた気持ちでいると
「おーい、蓮! もう帰りか?」
少し離れた部屋から呼び止められた。
この急いでいるときに、と思いながら声をかけてきた主の方へ向き直る。
「よう、楓。さぼってないで働け。また怒られるぞ。」
幼馴染の園田 楓。たびたび上から怒られているが、根はまじめだ。
「おっと。お前は今日は真麻と約束してんだろ?」
「あ、ああ......。」
こいつは、どこまで知っているんだ。
全く教えていない情報ですら掴んでくる。探偵にでも転職したらどうだ。
「蓮。真麻と会うのが久しぶりだからって、急ぎすぎんなよ。」
「わかってるって。じゃあな。」
楓との会話を終え、ちょうど来たエレベーターに素早く乗り込んだ。
――真麻。荒木真麻。
俺と楓が幼稚園に通っていたころに、俺の家の隣に越してきた。
3人とも家を行き来したり、時にはイタズラして、ずっと一緒にすごしてきた。
しかし彼女が高校の時に転校してしまい、それもなくなってしまったが。
そんな真麻が、最近こっちに戻ってきたのだ。
久しぶりの再会、心が弾んだ。
今思えばその時の俺は、よほど浮かれていたのかもしれない。
――真麻と会うのが久しぶりだからって、急ぎすぎんなよ。
楓のなんでもない心配が、警告になるとも知らずに。




