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追放先の辺境で前世の農業知識を思い出した悪役令嬢、奇跡の果実で大逆転。いつの間にか世界経済の中心になっていました。  作者: 緋村ルナ


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第5章:見えざる敵、ブランドという名の城壁

 王都の食通貴族の間で、「レルナ村で採れる奇跡の果実」の噂は、瞬く間に広がった。あの日、ヴェリーナを口にした行商人が、懇意にしていた伯爵に献上したのが始まりだった。

 伯爵はその味に驚嘆し、夜会で自慢げに語った。そこから話は枝葉をつけ、「不老不死の果実」「食べれば恋が叶う」などという、尾ひれまでついて広まっていった。

 当然、抜け目のない者たちがレルナ村に目をつけた。

 ある日、村に立派な馬車が数台乗り付けてきた。降りてきたのは、王都で最も大きな貴族商会の一つ、「オルティス商会」の支配人だと名乗る男だった。

 男は尊大な態度で私とエリオット村長の前に立つと、金の入った袋をテーブルに叩きつけた。

「この村のヴェリーナが育つ土地、すべて買い取らせていただこう。この金でどうだ? お前たち貧乏人には十分すぎる額だろう」

 その傲慢な態度に、隣にいたカイルが食ってかかろうとするのを、私は手で制した。

「お断りします」

 私はきっぱりと告げた。支配人は、信じられないという顔で私を見る。

「……断るだと? この私、オルティス商会の申し出をか?」

「ええ。このヴェリーナは、レルナ村の宝です。誰にも売り渡すつもりはありません」

「愚かな女め! ならば、お前たちの育てたヴェリーナ、すべて我々が言い値で買い取ってやろう。逆らうことは許さん。我々の後ろには、有力な貴族の方々がついているのだぞ!」

 これは、買い占めと価格操作の常套手段だ。一度、生産の主導権を彼らに渡してしまえば、あとは言いなりになるしかない。農民たちは買い叩かれ、儲かるのは商会だけ。そんな未来が目に見えるようだった。

 だが、私はすでに手を打っていた。

「残念ですが、ヴェリーナは、私たちと契約を結んだ農家でなければ栽培も販売もできません」

「契約だと? なんだそれは」

 私は、前世の知識を元に作成した契約書を取り出した。そこには、ヴェリーナの栽培方法の機密保持、品質管理の徹底、そして販売は私が設立した組合を通してのみ行うこと、などが明記されていた。村の農家とは、すでに全員この契約を結んでいる。

「これはレルナ村独自の“農地の自由化”ですわ。土地の所有権は村や農民たちにありますが、そこで何をどう育てるかは、私たちのルールに従っていただく。これは、ヴェリーナという果物の『ブランド』を守るためのものです」

「ぶ、ぶらんど……?」

 聞き慣れない言葉に、支配人は目を白黒させている。

「ヴェリーナは、ただの果物ではありません。最高の品質と、希少性、そして物語があって初めて価値が生まれるのです。その価値を、金儲けのことしか考えないあなた方には渡せません」

 私の毅然とした態度に、支配人は顔を真っ赤にして怒鳴った。

「小賢しい真似を……! 覚えておれよ! お前たちのような田舎者が、王都の商会に逆らってどうなるか、思い知らせてやる!」

 捨て台詞を残して、オルティス商会の一行は去っていった。カイルが心配そうな顔で私を見る。

「アメリアさん、大丈夫なのか? あいつら、何かしてくるんじゃ……」

「ええ、きっと妨害してくるでしょう。ですが、心配はいりません。私たちには、彼らにはない武器がありますから」

 それは、ヴェリーナそのものの圧倒的な価値と、団結した村人たちの力だ。

 私はこの日、レルナ村の農家を集めて「レルナ・ヴェリーナ生産組合」を正式に立ち上げた。私が組合長となり、カイルを副組合長に任命した。

 私たちは、目先の金に惑わされない。自分たちの手で、自分たちの未来を守り、育てるのだ。

 オルティス商会との戦いは、まだ始まったばかり。だが、私は絶対に負けるつもりはなかった。ブランドという名の城壁は、金や権力よりも遥かに強固なのだから。

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