第10章:国境を越える果実、平和的革命の始まり
騎士団の武力接収を、経済制裁というカードで阻止した一件は、私の名とヴェリーナの価値を国際的に不動のものにした。アルドレア王国の貴族たちは、もはやレルナ村に手出しができなくなり、王太子レオナルドの権威は地に落ちた。
そして、この事件をきっかけに、私と隣国レミア帝国の皇女クラウディア様との関係は、さらに強固なものとなった。
クラウディア皇女自らがレルナ村を訪れた日、村は歓迎ムードに包まれた。彼女は私の案内でヴェリーナ畑や開発局を視察し、そのシステムと理念に深く感銘を受けたようだった。
「素晴らしいわ、アメリア。あなたはただ儲かる果物を作っただけではないのね。農業を中心に、人々が豊かになる仕組みそのものを創造した」
緑豊かなヴェリーナ畑を見下ろす丘の上で、クラウディア皇女は私に言った。
「私、感動したの。あなたが武力ではなく、経済的な連携で危機を乗り越えたことに。それこそが、これからの時代が目指すべき姿だわ」
「恐れ入ります、クラウディア殿下。私一人では何もできませんでした。殿下のご協力があったからです」
「いいえ、これはあなたの功績よ。だから、アメリア。あなたに提案があるの」
彼女は真剣な眼差しで私を見つめた。
「この素晴らしい仕組みを、レルナ村だけにとどめておくのはもったいない。我がレミア帝国と共同で、このヴェリーナ・プロジェクトをさらに大きなものにしないかしら?」
彼女の提案は、私の想像を遥かに超えるものだった。
「共同で、ですか?」
「ええ。『ヴェリーナ国際開発機構』を設立するの。目的は、ヴェリーナの栽培技術を、貧困に苦しむ他の地域にも広めること。もちろん、ブランド価値が落ちないように、厳格な管理のもとでね。私たちは資金と販路を提供し、あなたは技術とノウハウを提供する。そうすれば、もっと多くの人々を救えるはずよ」
それは、まさに平和的な革命だった。
武力で領土を広げるのではなく、一つの果実を分かち合うことで、共存共栄の輪を広げていく。食糧問題に苦しむ地域を助け、農業の担い手を育てるための教育支援を行い、加工や流通で新たな雇用を生み出す。
「素晴らしいご提案です。ぜひ、お受けいたします」
私は、クラウディア皇女の手を固く握った。利害が一致しただけのビジネスパートナーではない。同じ未来を見つめる、真の盟友ができた瞬間だった。
調印式は、レルナ村とレミア帝国の首都で、同時に盛大に行われた。アルドレア王国は、この歴史的な動きを、指をくわえて見ていることしかできなかった。
「ヴェリーナ国際開発機構(通称:VIDA)」の設立は、世界に衝撃を与えた。人々は、国と国とが戦争ではなく、農業という平和的な手段で協力し合う新しい時代の到来を予感した。
機構の本部は、レルナ村に置かれた。かつて最果ての貧村と呼ばれた場所が、今や国際的なプロジェクトの中心地となったのだ。
世界中から、農業技術者、経済学者、そして夢を持った若者たちがレルナ村に集まり始めた。
私は、機構の初代総裁に就任した。追放された悪役令嬢が、今や世界を動かす組織のトップに立ったのだ。
運命とは、なんと皮肉で、そして面白いものだろうか。私たちの果実が、これから国境を越え、多くの人々の人生を変えていく。その壮大な物語の幕が、今、上がったのだ。




