エピローグ
東北の夏は涼しいと思っていたのに、この街にも暑さはしっかりとやってきた。
「昔もこんなに暑かったっけ? これってきっと、最近流行りの温暖化のせいだと思うの」
昔を思い返し芙美は顔を手でパタパタと仰ぐが、特に効果を得ることはできなかった。
「まぁ、しょうがないんじゃないのか? 夏なんだし」
寮を出るとき、ばったりと修司に会った。
メグが祐の恋人になってしまい、芙美は毎日一人で登校している。
登校とはいえ校舎までのたった数百メートル。芙美にとっては大した問題ではないが、メグにとっては貴重なひと時なんだとか。今朝も彼女はヘアセットに15分も掛けていた。
弘人と薫が魔法使いを放棄してから数日。五月を過ぎて、制服は待ちに待ったセーラー服へと衣替えした。
あの日以来二人からの連絡は途絶えたままだ。
ミナはあの日、予告通り高熱を出して三日間も寝込んでしまった。その期間、授業が空くたびに夏樹が足しげく寮母室へ通い、男子たちのブーイングを受けていたのは言うまでもない。
ミナは満更でもない様子だが、その真意は誰にもわからなかった。
昇降口を潜って靴を出したところで、先に履き替えて待っていた修司が「そういえば」と切り出した。
「ミナに聞いたけど、町子のおばあさんに会いに行くんだって?」
「そうなの! ミナさんが夏樹に頼んでくれたの」
もしやと思ってミナに相談したら、彼女の一声で夏樹は二つ返事で了承してくれたのだ。恋のパワーは偉大だと感心してしまう。
「良かったな」
「うん。ミナも一緒に、って条件付きだけど。それでも良かった」
両親が亡くなって、町子も夏樹も祖母に育てられた。芙美が生まれ変わって、弘人の次に会いたかった人だ。
「ねぇ修司、生きてると叶う夢ってあるんだね」
「年寄り臭いこと言ってんな」
「この世に三十年以上生きてるんだから仕方ないでしょ? それでね。おばあちゃんに会えたら、ただいまって言ってみようかな、って思って」
悪戯っぽく笑って、芙美は歩き出した修司の横にぴったりと並んだ。
「そうだな。今すぐは無理だけど、俺も町子の弟に過去の事を全部話して謝りたいって思うよ」
「修司……」
町子と類の話をいつか夏樹に出来る時が来るだろうか。
「ありがとね」
見上げる視線に、修司は少し驚いた顔をしつつ「あぁ」と返事する。
ひゅう、と風が吹いた。
キィキィ、と声が混じる。
ボンという破裂音と共に現れたのは、二人の身長をゆうに超えた、壁のような魔翔だった。
今までの奴等とは比べ物にならないレベル。
けれど、もう恐いとは思わない。
「行きますか」
横目に修司を見上げて、芙美はポケットから杖を取り出した。
end




