表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
14/14

5 クロウ視点

バタン、と勢いよく執務室の扉が開いた。

その瞬間、僕は思わず目を丸くした。

「お前、何のつもりだ!!」

静かな部屋に、鋭い怒号が響き渡る。

デスクの前には、シンくんとレンくんが並んで立っていた。

数日前まで泥の中で倒れていたとは思えないほど、その瞳には力が戻っている。

逃げ道を塞ぐように立ちながらも、どちらかが前に出るわけじゃない。

二人で同じ距離に立ち、同じ強さで僕を睨みつけている。

「四日だ。四日間も、俺たちをここに置いて、ただ飯を食わせ続けた!」

シンくんが、デスクを強く叩く。

「お前が、ここのボスのクロウだな」

レンくんが、冷たい声で言った。

「優しいフリして俺たちを飼い慣らして、一体何に利用する気だ!? 体ならもう動く、汚れ仕事でも何でも言え! 隠してないで、本当の目的を今すぐ吐け!」

……ああ。

やっぱり、来てくれた。

怖がって閉じこもるんじゃなく、自分たちの足でここまで来て、真正面から答えを求めに来た。

そのことが、たまらなく嬉しかった。

「あははは! すごいなぁ、君たちは! 裏で僕の名前も、この部屋の場所も、僕がこのアジトのボスだってことまで、全部調べちゃったんだねぇ。いやぁ、本当に頭が良くて最高にたくましいよぉ」

僕は椅子からゆっくり立ち上がる。

すると二人は、ほとんど同時に足を引き、拳を固めた。

その息の合い方に、思わず頬が緩む。

僕はそれ以上近づかず、デスクの向こう側で腕を組んだ。

「君たちが言う本当の目的、ねぇ……。利用目的、なんてそんな大層なものはないよぉ。たださ、僕は君たちの、そのお互いを思いやる絶対的な信頼関係が、もの凄く気に入っちゃったんだよねぇ」

「……俺たちの、関係だと?」

シンくんが低い声で返す。

「そう。僕のチームの仲間たちはさ、みんな大家族みたいで最高にいい奴らなんだけど……君たちみたいに、世界が敵だったとしても、隣にいる一人だけを絶対に信じて、並んで立ち続けてきた、そんな二人だけの純粋で強固な絆は、そう簡単に作れるものじゃないからさ。だから、そんな風に真っ直ぐお互いを支え合える君たちが、新しい身内として加わってくれたら、うちのチームがもっと素敵になるな、って思っただけなんだ。君たちにお願いしたいのは、うちのチームの生意気な新しい身内になってほしい、ってことだけだよぉ」

言い終えたあと、二人は黙り込んだ。

互いに顔を見合わせる。

僕の言葉に嘘があるのか、隠れた意図があるのか。

きっと必死に考えているんだろう。

長い沈黙のあと、シンくんが口を開いた。

「……いいだろう。そこまで俺たちの力を認めるなら、こちらにも条件がある。ただで飼われるなんて御免だ。俺たちをここに置くなら、今すぐ約束しろ」

僕は思わず身を乗り出した。

「お、交渉だねぇ。いいよ、聞かせて?」

すると、レンくんがシンくんと肩を並べたまま、一歩だけ前に出る。

「一つ、俺たちをどこにも売り飛ばさないこと。二つ、飯の代わりに、俺たちにできる仕事をさせること。ただでもらう飯なんて、いつ後ろから刺されるか分からなくて反吐が出る」

……ああ。

その言葉の重さに、胸が少しだけ痛くなる。

そうやって生きるしかなかったんだね。

でも、僕は笑った。

「いいねぇ、自立心旺盛で素晴らしいよぉ」

「三つ目だ」

今度はシンくんが続ける。

「部屋の鍵は絶対に締めるな。俺たちがここから出ていきたくなった時は、いつでも自由にここを出ていく。それを邪魔しないと、今ここで誓え」

その三つは、彼らにとって生きるための最低条件なんだろう。

優しい大人に裏切られ、閉じ込められ、利用されてきた過去があるからこそ。

絶対に譲れない境界線。

僕は、迷う理由なんて一つもなかった。

「うん。全部オッケーだよぉ。僕が君たちに求めたのはうちの『身内』になることだからね。それなのに飼い慣らしたり、逃げられないように閉じ込めちゃったら意味がないでしょ? 君たちの言う通り、仕事の対価としてここにいてよ。出ていきたくなったら、いつでもお見送りするからさ。……よし、それじゃあ取引成立だね!」

パン、と両手を叩く。

すると二人は、今度こそ完全に拍子抜けしたような顔になった。

あはは。

本当に素直で可愛いなぁ。

「……本当に、いいんだな」

シンくんが呟く。

「もちろん。じゃあ、まずは体力を完全に持て余してる君たちに、ぴったりな最初の仕事を頼もうかなぁ」

そう言った、その時だった。

バタン!

執務室の扉が勢いよく開く。

「おい、ボス! 何事だ――って、お前ら、もうそんなに動けるのか」

アベルだった。

僕たちの声を聞きつけて、急いで駆けつけてくれたらしい。

シンくんとレンくんは、並んだままアベルへ視線を向ける。

どちらかが庇うわけでもなく、二人で同じ温度の警戒心を向けていた。

「なんだ、ボス。こいつら、もうあんたの部屋に乗り込んできたのか?」

「あはは、そうなの。アベル、聞いてよぉ。この子たち、売らないこと、働かせること、鍵をかけないことを条件に、ウチの身内になってくれるってさ」

そう言うと、アベルは呆れたように肩をすくめた。

「売られないこと、ね。スラムのクソ大人を山ほど見てきたお前らにしちゃ、上出来な防衛線だ。安心しな、ウチのボスは間抜けだけど、身内を売るような真似は死んでもしねえよ。俺はアベル。このボスの相棒だ。よろしくな、チビども」

「チビって言うな。俺たちはシンとレンだ」

レンくんが即座に言い返す。

アベルは鼻で笑いながら、いつものように僕の机の資料へ手を伸ばした。

当然のように。

昔からそうしてきたみたいに。

僕も、何も言わない。

それを見ている二人の視線が、少しだけ揺れた気がした。

閉じた世界の中で、お互いだけを信じて生き抜いてきた二人。

そんな二人が、僕とアベルの関係を見て、何を思うんだろう。

……焦る必要はない。

まずは、一緒にご飯を食べるところから。

家族になるのは、それからゆっくりでいいんだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ