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白河翼が始まるための物語  作者: ゆきち


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6話 獣の統治者


 頭上の烏のカァ、カァと、乾いた声が街の騒音を切り裂く。それに同調したかのように一羽、二羽と電線の上に集っていく。

 普段なら気にならないのだが、今日は何故かその烏たちがこちらを見ているような気がしてやまない。


「なんなんだよ!いったいさ!」


 そんな頭上のことは視界に入らないままに主はガンっとコンビニの前に設置されていたゴミ箱を蹴り飛ばす。その近くにいた野良猫が驚いて回避行動をとる。


 「お、落ち着いてください!主!!」


 「落ち着けって!?訳がわからないままに殺し合いをしろと言われて、……大州おじさんには銃を向けられて。どうやって落ち着けって言うんだよ!」


 言い終わると、主はもう一つ残っていたゴミ箱を再び蹴り飛ばした。

 ゴミ箱はその勢いのままにコンビニのガラスにぶつかり中身が散乱する。常識的に考えれば異常な事態に陥っているというのに通行人やコンビニのスタッフは全く気にする素振りはない。まるで主が透明人間になってしまったかのようで、それがさらに焦燥感に拍車を掛けてしまうのだろう。


 「なんで誰も気にしないんだよ!おかしいだろ!こんなこと!?」


 どんなに暴れても叫んでも誰も気にも留めない。

 これがこの世界の常。何億といる人間の中で生きているのはたったの十四人だけなのだから。

 

 「…………おかしいよ、こんなこと。俺は死んでなんかいないのに……」


 「…………主」


 もはや慰めの言葉は見当たらなかった。

 本来ならばプレイヤーは皆このウォーゲームに違和感なく参加するように刷り込まれている。だが、何の因果か、主のみがその刷り込みをされていなかった。

 その結果、自身の死を認められないという絶望感は計り知れないものとなり、気安く気遣うことなどは出来ないでいた。


 「クーン……」


 近くにいた犬が細く甘えるような声で主に近づいてくる。

 ここで気づくべきだった。NPCは人間だけではない。動物もNPCのはずなのに、と。


 「…………なんだ、お前。慰めてくれるのか?」


 主は笑みすら浮かべることができないままであるがそれでも心配してくれるように近づいてくれるのが嬉しいのか、犬の頭を撫でようとする。

 しかし、近づいてきた犬は豹変したかのように突然その腕に噛み付いてきた。


 「痛っ!痛い!!離れろ!!」


 「主!このッ!!」


 犬の牙は深々と主の腕に食い込み主が手を思い切り振っても離れず、犬の首根っこを引っ張って漸く払いのける。その噛まれた痕は痛々しく、血が止まらない。


 「さすが日本だよな。狂犬病でも患えばいいもののそんな犬一匹もいないんだぜ?」


 コンビニの屋根の上から声が聞こえ、バッと見上げる。そこにはオークル色のレザージャケットを着た男が立っていた。

 それを見た瞬間、主の前に出て『砕界玉臂クラッシュハンド』を展開する。


 「ここまで接近しても気づかない上にその武装、近接戦闘にステ振りされたポーンか」


 男は躊躇なく飛び降り重力に身を任せたま右足を振り下ろす。


 「これなら楽しめそうだな!」


 「くッ!」


 左手を上げてガードするが予想外の重さだった。

 踏ん張っている地面にもヒビが入る。


 「まだまだッ!」


 男は未だ地に足をつけていないというのに続けて左手で連撃を繰り出そうとする。


 「甘い!!」

 

 だが、その拳を空いている手で受け止め、その勢いのまま男を受け流して反対方向に投げ飛ばす。

 しかし、男は難なくと着地し余裕そうな笑みを浮かべる。


 「大丈夫ですか!?主!」


 後ろを振り返ると翼は両膝をついて苦し気な面持ちで噛まれた痕を抑えているが、流れでる血が止まる気配はない。

 本来ならば一刻も早く腕を治療しなければならないのだが突如現れた正体不明のフレイムを相手にこれ以上目を背けることができなかった。


 そして、男はピィッと口笛を鳴らす。

 するとどこにいたのか烏や犬、猫だけでなく鼠までが現れ私たちを取り囲んだ。


 「貴様の異能は動物を操るのか……」


 「半分正解だ。俺に与えられた異能は『獣の統治者アニマル・ラングラー』。だが別に俺はこいつらを操ってなんかいない。ただ頼んだだけだ。ーーーーお前らを殺してくれってな!!」


 男の咆哮が合図となったのか周りの動物たちが一斉に襲いかかる。

 

 「くっ!……主!失礼します!!」

 

 急いで主を抱き抱え、周り180度全てから襲ってくる動物たちの群勢の厚薄を見極め離脱する。

 しかし、それでも動物たちは追いながら囲もうとする。


 「ッち!」


 思わず舌打ちをしてしまう。

 抱えてる主に負担がかからないようにするために最大速度で逃げることが出来ない上、道にはNPCの人間という障害物が多数いるため避けながら走っている。

 だが、追い掛けてくる動物たちは小回りが効く上に時が進むにつれて動物の数が増えていき徐々に私たちを囲む包囲網は形成されつつある。

 

 「ッな!?」


 大通りから外れ、ビルとビルの間の路地裏を通る。しかし、一分もしないうちに行き止まりに着いてしまった。

 

 「籠手使いのポーン。お前はここでゲームオーバーだな」


 取り囲む動物たちの中から男が悠然と現れる。

 だが、そんな男よりも憂慮すべき事態は腕の中にあった。

 時間の経過とともに抱えられた主の息は荒くなり、顔色も悪くなっている。

 先ほどまでの精神的な疲労と極度な肉体的苦痛によりもはや主はいつ気を失ってもおかしくない状態だった。


 しかし、最早逃げ場はない。

 ゆっくりと主を下ろし壁にもたれて座らせる。そして、自らの服の袖を破り主の腕の傷口に当て縛った。


 「主……。少し待っていてください。すぐに家に帰って治療しますので」


 「…待て、ポーン。僕は……これ以上……」


 意識が朦朧としてるのかしどろもどろだ。


 「主、私は貴方の手となって未来を掴み取る。それでも尚、その先に見出せるものがないと言うのであれば私は貴方とともに地の底に堕ちることも厭わない。がーーーー」


 立ち上がり、全ての敵に殺気を放つ。


 「ーーーーまずは主を傷つけたあの痴れ者を打破してからにしましょう」

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