ミナトの責務
カラカラカラ
大型の幌馬車の車輪が回る心地良い音色が轍に鳴り響く。
「こんにちは、お嬢さん。女性の一人旅は危険ですよ。ご一緒しませんか」
すれ違いざまに馬車の御者席から声が降ってくる。
「お気遣い感謝いたします。ご好意を無碍にするようで心苦しいのですが、一人で考えたい事もありまして、遠慮いたしま………ミナト様!?」
シャルロッテが視線を上げると、そこには照れくさそうな笑みを浮かべ、耳を真っ赤にしたミナトの姿があった。
「本当ならエルフリーデ陛下にも挨拶をしないとなんだけど、二人の時間を邪魔しちゃ悪いと思ってさ。そうしたら、声をかけるタイミングを見失って………エランさんの真似してみたんだけど、ボクにはまだ難しいな」
ミナトはふわりと馬車から飛び降り、気恥ずかしさを誤魔化すように何度も服についた砂埃を払う。
「ふふっ、そんな事ありませんわ」
「シャルロッテ、ボク達の国に来ないかい。歓迎するよ」
「………ミナト様、ワタクシのためにわざわざご足労頂き申し訳ありません。ですが、ご一緒するわけにはいきません。ワタクシは国を追われた身。一つ所に留まれば、必ずや災いをもたらします。お心遣いは嬉しいですが、皆様を政争に巻き込むわけにはいきません」
「シンギフ王国のためにシャルロッテの力が必要なんだ。ほんの少しの時間だけど、国王として国作りをして気づいた。ボクには知識も経験も才能も心構えも何もかも足りないって。領主として、王女として政治に携わってきた君の能力が今一番ボク達に欠けているものなんだ。迷惑なんかじゃない。より良い国を作るために協力してくれないか」
「んっ、色気ゼロの誘い文句。中途採用並みのスキル重視感。ハイクラス転職の謎CMレベル」
「ミナトの真面目さが悪い方向に出てるわね。女を口説く時はごちゃごちゃ言わずに『君がいないとダメなんだ!一緒に来てくれ!!』だけでいいのよ。理屈じゃなく、情熱で誘って欲しいわ」
「そうですね、私に対しての勧誘の方が遥かに情熱的でした。まぁ、それから2カ月近く放って置かれてるんですが」
「ごめん、皆はちょっと黙っててくれる!?」
ミナトが幌馬車から次々と顔を出し、好き放題悪態をつく仲間達に向かって叫ぶと、シャルロッテは口を手で押さえ声を殺して笑った。
「やはりワタクシは皆さんが大好きです。同じ夢に向かって、力を合わせて進んでいく。例えその歩みが少々遅くとも、僅かに道を外れても、ミナト様なら皆さんと一緒にきっと夢を叶えられます。ですが、そこにワタクシの夢はありません。全てを捨てようとしたワタクシは、皆様と同じ道を歩む資格などないのです」
「シャルロッテ………」
「そんな悲しい顔をしないでくださいまし!!ワタクシは暫し旅に出ようと思うのです。帝国、そして海峡を越えて共和国、噂に聞くエルフやドワーフの国にも。土産話を山と持ち帰り、ついでに伴侶も連れ帰ってシンギフ王国に遊びに行きますわ!!案外、大国の王子に見初められ、皆様を国賓として招待するなんてことも!?オーホッホッホッホ、夢は広がりまくりですわ~~~!!」
街道を少女の高笑いが駆け抜けていく。
「………ですから、どうかワタクシのことはお気になさらないでください。海の向こうで、皆様の幸せを願っております。それでは………」
「待って!!」
咄嗟に掴まれた腕をシャルロッテは振り払えなかった。
「失礼を承知で申し上げます。今のミナト様は一時の感情に流され、王として重要な事を見落としておいでです。王女であるワタクシと誼を深めることは、シンギフ王国にとって理と利がございました。それはジェベルの王女であるワタクシにとっても同じです。国政とは理と利によって為されるもの。そこに感情がはいる隙間はあってはなりません。冷静になれば分かるはずです、ワタクシという人間も危険性が。南部と北部の対立は一時的には収まるでしょう。しかし、それは仮初めの平和。いつかはまた争いの種は芽吹き、ワタクシを担ぎ上げようとする者が現れます。帝国や他国も同様です。国家という理性なき猛獣に、大義名分という餌を与えてはならないのです。もし、それでもワタクシを迎え入れるというのであれば、国よりも一時の衝動を選んだミナト様に幻滅いたします。………命を救って頂きながら、このような非礼心よりお詫び申し上げます」
「それは違うよ、シャルロッテ。ボクは種族や生まれや貴賤に関係なく、皆の居場所になれる国を作りたいんだ。誰もが平等に暮らせる、誰も拒むことのない国を。もし君の事をジェベル王国の元王女だからって理由で拒まなければいけないのだとしたら、ボクの夢に賭けてくれた皆への裏切りになる。シャルロッテは言ったよね、奪う者の責務を果たさなければならないって。君を狙う猛獣がいるなら、ボクと仲間達が全部追い払う。君の過去も、背負った罪も、これからの危険も、全部奪って一緒に背負う。それが、シンギフ王国を理想の国にするためのボクの責務なんだ!!」
「ミナト様………」
「ボクに夢の叶え方を示してくれたのはシャルロッテだ!!王としての責務を教えてくれたのもシャルロッテだ!!君がいたからここまで来れた!!理想の国を夢見ていいんだって信じられた!!君が自分をどう思うかなんて関係ない!!ボクの夢にシャルロッテが必要なんだ!!いてくれなきゃダメなんだ!!嫌がられたって、拒絶されたって、この手は離さない!!ボクが見た夢を、君が見た夢を、一緒に叶えたいんだ!!」
「………でも、ワタクシは………っ!?」
ミナトはそう言うと、再び反論を紡ごうとしたシャルロッテの腕を強く引き寄せ、その言葉ごと自らの唇で塞いだ。
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