悲劇に捧ぐ喝采
パチパチパチ。
どこからともなく、乾いた拍手の音が響いた。
静まり返った戦場に、その音階は奇妙なほど高く、鋭く突き刺さる。音は徐々に重なりを増し、やがて万雷の拍手となって天から降り注いだ。
何事かと空を仰いだ将兵たちは、すぐに一つの異様な事実に気づき、困惑の色を浮かべた。
一定のリズムで、機械的に、そして傲慢に響くその音は、雲の合間………つまりは遥か頭上から聞こえていたのだ。
「おい………あれは、なんだ………!?」
兵が指し示した空。
そこには漆黒の翼を広げた巨大な悪魔が、悠然と羽ばたいていた。
悪魔は眼下の光景を至高の見世物であるかのように見据え、その両の手を打ち鳴らしている。
「素晴らしい!! 実に、実に見事な茶番劇でした!! 新王にあまりに都合の良い『真実』とやらを、己の保身のためだけに飲み下す貴方たちの滑稽さ………。重厚な悲劇を期待していた私に、これほど上質な喜劇をお見せいただけるとは。何とも粋な趣向と褒めるべきでしょう!!」
悪魔は醜悪な容姿からは想像もつかない、毒を孕んだ蜜のような美声で言葉を紡ぐ。
「金も払わず特等席で見物とは、随分と行儀の悪い観客だ。やや儀礼的ではあるが、名を聞いておこう。貴様は何者だ」
誰もが恐怖に凍りつく中、若き宰相だけは最初からそれの到来を予期していたかのように、至極平然と問いかけた。
「流石は並み居る貴族を舌先三寸で丸め込み、その地位を掠め取った宰相殿。良い質問だ。聞かれて答えぬは我が礼儀に反します。我が名は六大魔公が一柱、詐略公『変幻のフェルリオール』。この悲劇の主賓として身なりを整えておりましたら、あまりにお声がけが遅いゆえ、痺れを切らして参った次第」
フェルリオールはあるはずのないタイを直す仕草をし、唇を三日月のように歪めて嗤った。
「ほぅ、こちらの手違いで地獄にまで招待状を届けてしまったようだな。臣下の不手際、宰相たるこの俺が詫びよう。謝意として、これを受け取れ」
クライスの背後に巨大な魔法陣が展開される。
刹那、フェルリオールを目掛け、純白の閃光が放たれた。
漆黒を白銀が焼き払い、天に陽炎のような聖なる炎が舞う。
「なるほど、準備に手間取っていらっしゃるかと思えば、このような細工を………小賢しい策を弄するのは、相変わらず得意なようですね」
大悪魔はその身を焼かれる苦痛に微かに口の端を歪めた。
その歪みは、果たして苦痛によるものか、あるいはさらなる歓喜の証なのか、判別できる者はいなかった。
「神託の勇者の誕生、そして新王の即位。長年にわたり築き上げた怨嗟という名の芸術………気の遠くなる時間をかけ作り上げた作品が、このような結末を迎えることになるとは、慚愧の念に堪えません。私は再び眠りにつきます。しかし、それは詐略公『変幻のフェルリオール』の最後を意味するものではありません。私は復活します、何度でも………私の存在を、私自身が否定するまで」
フェルリオールの身体が、翼の先から灰となって崩れ落ちていく。
だが同時に、空を無数の漆黒の球体が埋め尽くす。
「………これは良い芝居を見せて貰った御礼です。どうぞ、お受け取りください」
崩れ去るフェルリオールが指を鳴らす。
空の黒球が、一瞬にして鋭利な槍の雨へと姿を変え、重力に従い流星の如く降り注ぐ。
それは敵味方の区別なく、安堵に胸を撫で下ろしたばかりの将兵たちを、頭の先から足の裏まで一息に串刺しにしていく。
「魔法の使える者は防壁を張れ!! 盾を持つ者は斜めに掲げよ!! 死にたくなければ動け!!」
クライスの怒声が響く。
将兵達はその是非を問う間もなく、本能で指示に従った。
「新王エルフリーデ陛下。これは私からの即位祝いです。なかなかの逸品でしょう?是非貴方の心臓を飾る装飾品としてお納めください」
最後に残った黒球が指先を残して消え失せたフェルリオールから投じられる。
エルフリーデに向け一直線に伸びる漆黒の軌跡は、肉を裂き、心臓を貫いた。
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