悪戯の真相
「ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ………おいおい、両手の指より多い数は数えられないんだ。勘弁して欲しいじゃない」
エランは馬上から周囲を見渡す。
前方、側面、後背………決して得物の届くことのない距離で、相手の精神を鉋で削るように包囲の輪を縮める敵を前にして、ことさら大袈裟に頭を掻く。
「魔法で隙を作ります。エラン様はミナト様を助けに行ってください」
「二人で英雄になるって言っただろ?それに見てくれよ、揃いも揃って粘着質そうな顔してるじゃない。簡単に通してはくれないだろうねえ。仕方ない、歩哨続きで寝不足だろうし、一人残らずふかふかな土のベッドにご案内しようか」
槍の穂先を包む覆いを掴み、地面へと投げ捨てる。
兵士達は一つ一つ大きく威嚇するようなエランの挙動にも動じることなく、等間隔に間合いを取りつつ弓を引き絞る。
鏃が空気を切り裂く音が響き、エランが槍で飛来する矢を払い落とそうとした刹那、赤い霧が立ち込め矢が水を吸った紙飛行機のごとく勢いを失い、地面に突き刺さる。
「テオ、俺の知らない間にこんな魔法を習得してた………なんて事はないよねえ」
テオは青ざめた顔でコクコクと頷く。
腕の立つ魔法詠唱者であるこの少年にとっては、数十メートル四方の空間を一瞬で覆いつくし、土壁などの物理的媒介なしに矢を止めるという魔法がどれだけ現実的離れしたものか、容易に理解できたのだ。
それは敵も同様であった。
異変を察知した兵達はすぐさま陣形を変え、数人が前方に突出し、大きく退いたその他の兵隊は遠巻きに状況を見極める。
「へぇ、少し突っつけば巣を襲われた蜂みたいに飛び出してくるかと思ったけど、存外冷静ね。ポンコツばかりかと思ってたけど、南部軍の精鋭部隊なのかしら?それともこの機に乗じてミナトを暗殺しようとする悪戯好きの仕業か………」
霧に溶け込む囁きが像を結び、一人の少女となる。
「アルベラちゃん!?どうしてここに………というか、今の魔法は何なのって聞いちゃっていいものかねえ」
「お喋りしてる時間はないんじゃないの?貴方が戦おうとしていた敵の正体はコレよ。『緋色風刃』(ラーマ・スカルラッタ)」
空気中に漂う深紅の微粒子が鎌鼬となり兵の一人を両断する。
「なっ!!なにも殺すことは………………待ってくれ、嘘だろ!?」
上下に切り裂かれた上半身の断面から糸のようなものが這いだし、失われた下半身めがけ伸びていき、やがて上下がピタリと寸分の狂いもなく自主的に縫合され、一人の兵士へと戻っていく。
「私はジェベルの人間について詳しいわけではないけど、皆が皆ああなのかしら?」
「残念ながら、あんな丈夫な友人はいないじゃない。指を切っただけでも大騒ぎをするような軟弱で痛みに弱い奴らばかりだよ。今はそれが嬉しいけどねえ」
エランは震えるテオの手を掴み、微笑みかける。
「知り合いじゃないようだし、ちょうどいいわ。私がこの化け物の相手をしてるから、ミナトの所に向かってくれるかしら」
「こんなのがうろついてるのに、俺達にミナトを任せて大丈夫かい?」
「英雄なんでしょ、勇者を救うには適任だと思うけど?それに緊急事態とはいっても、あまり他国に人間がジェベルで大活躍するわけにもいかないもの。貴方達にも面子ってものがあるんじゃない??」
「ジェベルの問題をジェベルの人間が片づける好機を譲ってくれたってことかな、相変わらず気が利くねえ。お言葉に甘えよう。大丈夫だとは思うけど、アルベラちゃんも無事でいてくれよ」
エランの心のこもっていない言葉に微笑で応じると、アルベラは指先に爪を立て血を滴らせる。
「厄介な男と強制的にデートさせられてストレスが溜まってるのよ。付き合いなさい、聞きたい事もあるしね」
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