影を穿つ
「時間の無駄だった。私がやる。周りに誰がいようが遠慮しない。巻き込まれないよう工夫する気もない。死にたくなければ自分で頑張って」
「リオッ!!落ち着け………くそっ!!」
地面が大きく揺れ、デボラは数秒後にその振動がリオの跳躍によって生じたことに気づいた。
土塊で出来た尖塔の先には、フェルリオールの朽ち果てた身体を念入りに刻み込む狂気を孕んだ少女の姿が、太陽に照らされ濃い影を落としている。
「私は蘇ります、何度でも。それこそが私の物語の主題なのですから」
「何度でも潰す」
死体が消え、異なる場所に現れたフェルリオールが自らの決意を謳い終えるよりも先に、剣がその肉体を縦に切り裂く。
「まだ話の途中ですが………」
再び顕現したフェルリオールが、その輪郭すら曖昧なまま切り伏せられる。
復活し、斬られる。
現れては、殺される。
生まれ、死に、生まれ、死に、生まれ、死に………長い年月をかけて紡ぎあげられるだろう生命の螺旋が、瞬きする間に繰り返され、命が消費されていく。
どれほど経っただろう。
数分か、数時間か、膨大な繰り返しの後に立っていたのはフェルリオールだった。
無論リオに疲労の色は見えない。
表情に変化はなく、今この時も新たに復活した大悪魔を切り殺し、次に生まれる場所を探している。
しかし、この無限に続く鬼ごっこは、時間という人質を取っているフェルリオールに利するものであり、勝利の条件を『自らの手でリオを倒す』とするのではなく、『時間を稼ぎリオから大切なものを奪う』と定義づけるのであれば、勝敗を決する戦女神の持つ天秤は確実に六大魔公を冠する大悪魔へと傾いていた。
「リオ、目に見える敵を追うんじゃねえ!!そんだけ自信満々に姿を晒してんだ、本体は別にいるんだ!!」
「どこに。分からないなら処理し続ける。魔力は減ってる。すぐに死ぬ」
デボラの問いにリオは自分にしか聞こえないほど小さく呟く。
実際、魔法詠唱者でないリオでも明確に感じ取れるほど、フェルリオールが内在する魔力とも生命力とも呼ぶことの出来る力の波動は弱まってきていた。
だが同時にそれはこれまで以上の時間をかけなければ目の前の敵を倒せないという残酷な現実を示しており、リオの眉間には初めて深い皺が刻まれた。
「おかしいです。どれだけ練達した使い手だろうが、転移したならば必ず魔力の揺らぎが発生します。ですが奴が復活しても1ミリも揺らぎを感じません」
「復活ったって身体が違う場所から生えりゃ転移扱いってことか………つまり、魔力の揺らぎって奴が発生してない以上、奴の身体は一切動いてないってことになるな」
「となると、狙う場所は一つかな。でも、僕達の力じゃ到底敵の心臓部までは届かないだろうね。それにやっぱり最後の一撃は主役に譲らないと奴の言う『物語』が締まらないからね」
3人はそれぞれの意見を確認し、同時に頷いた。
「リオッ!!!地面だ!!!!テメエの馬鹿力でこの世界毎叩き割るつもりで大地をぶっ壊すんだ!!!!!」
フェルリオールがデボラを睨みつけ、その身を大地に溶け込ませる。
「本体に合流して転移するつもりだ!!早くしろ!!!!!」
デボラの叫びが鼓膜に到達する刹那、リオの手足を理屈ではない本能が突き動かす。
リオが剣を高らかに掲げ全身全霊の力で大地を斬りつけると、地の奥底から悲鳴を思わせる轟音が響き、世界はその姿を大きく歪ませた。
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