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黄金伝承こぶしおう  作者: 木村さねちか
その男、神代流
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赤城ウォーレン・クラウス

 その日の晩、俺はトレーニングがてら外に出た。天寿台は天寿山山麓に広がった町だ。天寿台は明治新政府がつけた地名で、旧名は天呪台、妖術と武芸を合わせた総合殺人技、葉山破局流ゆかりの地だ。代々破局流に支配されていたこの要衝は、会津に向かうには避けて通れない要害であり、会津、旧米沢を治めていた伊達家に仕えた神代家と、徳川家に能楽を奉納し、また忍者でもあった葉山家は元々は敵対していたが、徳川家が天下を取ると、両家は、呪術と武術の舞心流、妖術と武術の破局流として交流を持ち、遠縁でもあった。

 神代家と葉山家が舞踊に秀でていたのは、忍者として各地に潜伏し、情報収集や偽報の流布、調略のためだった。俺は天呪山山頂の展望台に行った。暇があればここに来ている。その目的は、一人のさむらうびとと会うためだ。サムライではない。さまよい、舞うからさむらうびとと、代々の赤城家当主はそう呼ばれた。その実態は、あくまでも表向きの当主。神代、影成両家の捨て駒。古くは戦国時代の源氏平家の時代から、占星術で常に負ける側に赤城家は仕え、勝つ側に神代、影成家は仕えた。その戦国乱世も徳川260年後の明治維新、時代の陰になりその男はいた。

 赤城・ウォーレン・クラウス。

 先代の赤城家舞心流伝承者。

 中国由来の高一族とともに海を越えてきた、もう一つの舞心流伝承者。


 天呪台の展望公園からその西洋甲冑の男は眠らぬ街を見ていた。

 俺はその隣に立つ。周囲には数名のカップルや家族がいるが、このクラウスは俺にしか見えていないようだった。


「赤城・ウォーレン・クラウス、なにをみてるんだ?」


 甲冑の男は涼しい笑顔で言った。


「平和な世界を……。ひどい時代もあったが、その結果がこの光景ならば、先人たちの死も無駄ではなかったと思える」


「そうか。で? あんたはなんでここにいる?」


「わからない。死ねば地獄に堕ちるものと、この世では修羅となった。それを悔いたこともないが、少なくともジーザスはわたしを天国に招くつもりはないらしい」


「やりのこしたこともなく、やるべきこともなく、死ぬこともできない。それは拷問だよ。そんなジーザスは偽物だ。捨てちまいな」


 俺は男の胸当てに刻まれた十字架を叩いて言った。


「それはできない。わたしの信じるジーザスは、無慈悲ではないと思うが?」


「死の安らぎを得ることもないあんたは十分神様に見捨てられているよ」


「変わった死生観だな、流。サムライというのは皆そうなのか?」


「無限に後悔し続けるよりは、死んで眠った方がいい。死後の世界があろうとなかろうと、休息は必要だ。クラウス、あんたは十二分に働いたよ。神のためではなく、この国のために。皆が知らないだけだ」


 クラウスは真顔に戻って言った。


「流、そう言ってくれるお前がいるだけでもわたしは十分に救われてる。残念なのは君がその救いのなかにいないということだ」


「そうかな?」


「そうかどうかではなく、そうであるべきだ。わたしの知る限り、カミシロ・ショウ・マクファーレンは外道だが、同時に君の父でもある。憎しみは捨てたほうがいい」


「別にうらんではいないさ。それほど今の俺に取ってショウは重要じゃない」


「なら、いいが。わたしは君に会うたびに考える。今日までゴーストとして天呪台にいたのは、君に会うためかも知れない……それがジーザスの思し召しだと」


「俺が赤城家を継げと? 俺はあんたたちを利用するだけ利用した神代の一族だぞ?」


 そう思うだけで、俺の心は沈む。深く暗い心の深海に……


「いつか自分を赦せる日が来たら、その時は君が赤城家を継ぐべきだ。そう思う。そして、私利私欲でも天下泰平のためでもなく、君にしか救えないものの為に、舞心流を使ってくれ」


「わかったよ、クラウス」


 俺は、クラウスの隣で、徐々に消えていく街の明かりを見ていた。



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