みーんな、この不況が悪いんじゃーっ
ちょっと頑張ってみました。
私は今日もPCのモニターを見つめつつ、傍らのノートPCで教授に提出するレポートを
書いている。デスクトップのメインPCのモニターでは、露天を開いているアバターが
客待ちをしている。ヘッドセットからは露天街の喧騒が聞こえてくる。
最初はうるさくて集中できなかったが、さすがに4ヶ月目になるともう慣れた。
先週からの売上は、小金貨3枚と銀貨12枚、小銀貨32枚。
あ、この中から雇用賃金とギルドに収める税金を差し引くと実利はわずか小金貨1枚か。
1週間で小金貨1枚の儲け、ゲーム内の貨幣価値で言えば10万円位、現実では2千円か。
私が夜のバイトしてた時は1時間で稼げたなぁ等と考えながらため息をついていると、
モニターの中に佇むアバターに近づく二人組がいた。
一人は知り合いだ。
ボイスチェンジャーがONになっていることを確認して声をかける。
「おぉ、久しぶりだな、我が友リクよ。稼げているかな?」
うん、インチキアラビア系商人っぽいだろ?
「ついに、便利屋まで始めたのか、カルナルさん。」
アバターの頭上に浮かんでいるチャット板には
「仕事あります。紹介します。」と書いてある。
「いやいや、単なる口入れ屋だ。依頼を受けて、登録しているエージェントに回す。
客との間の報酬の交渉、面倒なやり取りなしに、安定した依頼を得られるってんで、
みなさんにも大変喜んでもらっている。リクは剣士だったな、登録しに来たんだろ?」
話しながら今請け負っている依頼で剣士向きな物をいくつかピックアップする。
全部で4件。その中でレベル帯がマッチしているのが2件、利益率が良いのは、
こっちの護衛系か、でも報酬はチョット低めだな。
「いや、人材派遣は間に合ったるよ。」
残念!成功すれば銀貨一枚の儲けだったのだが。
「なら、素材はいらんか?最近良いキラービーの羽が手に入ったんだが、
今なら格安で、友達価格でお前にだけ特別に譲ってやれるぞ。
儲けなしだ。どうだ?」
ん~インチキくさいだろぅ?怪しさ大爆発だ。
この怪しいイケメン少年アバターを選んだとき、
私はインチキ商人のロールプレイをしてやるって決めたんだ。
衣装もそれっぽいやつにして、
目立つように青いターバンハットも購入した。
上野あたりでカタコトで話しかけてくる外人さんがモデルだけどね。
さすがにカタコトは商売しずらいのでやっていないけどね。
「素材は間に合ってるよ。それより、マルカン草って手に入るか?」
リク君、それは今更でしょう。@ウィキ見れば分かりそうじゃん。
推定高校生もしくは中学生高学年っぽい剣士リクに、可愛い弟を優しく諭す姉気分で、
いいのよ、若い子かわいいもん。
「おいおいおいwわが友よ君まであんなガセネタに振り回されているのかい。」
それでも、あくまでインチキ商人だから、こんな感じで声をかける。
ついでに、極秘情報もちょっとだけサービスしちゃう。
「そもそも、噂の出処は、赤眼鏡らしいじゃないか。そんな噂を まに受けて、
全くいつも思慮深い我が友とは思えないな。」
そう、今回の噂の出処はあの女狐だ。
学科も一緒、バイト先は向かいの店、合コンでもかぶる、そしてゼミまで一緒になった、
そう、私がこんなゲームに貴重な青春の時間を割かなくてはならないのは、ゼミのせい。
「なんだ、赤眼鏡が噂の出処だったのか!、そりゃ信用できないな。
当然表板にも情報は乗らなかったんだろう?」
えっ!リク君、あの女狐知ってるの?!とっても意外だ。
っていうかどんな接点があるの?あいつ商人ギルドから出てこないのに。
あ~気になる!
「もちろんだ、と言いたいところだが、残念ながら表板も万能ではない。
悲しむべきことに、マルカン草の情報は表板に掲載されたんだ。
それがさらにあの女狐を増長させた。」
そう、「マルカン草の情報求む、報酬は小金貨1枚」これが商人専用掲示板、
いわゆる表板の載った最初のRESだったわね。
「じゃぁ、今の状況を赤眼鏡はどう思っているんだろうな。」
そんなの興味もないわ。
「あの女狐に興味があるのか?わが友よ、俺は友として忠告しておく、あの女狐は、
危険だ、男を狂わし破滅させる。魔性だ、今まで何人も知り合いがあの女に騙されてこのゲームを去っていった。あの女狐に装備の果てまで貢いだ犠牲者も何人か知っている。
さわらぬが良いぞ。」
そう、あのバカ女に貢いでボーナス半分つぎ込んだお客さんを私は何人も知っている。
まぁ残り半分のボーナスは、私に貢いでもらったんだけどね。
お客さんは、うちの店と、あいつの店をはしごとか、してたから。
まぁ当たり障りのない事言って、って後ろの子は誰なんだろう?
「う、うん、まぁ、今頃は地に落ちた信用の回復にやっきになっていることだろう。
良い気味だ。ところで、その後ろのご婦人はどなたかな?」
「あ、あぁこいつは。」
「私は、美香といいます。戦士なんですが、始めたばかりなんですよ。」
あ~声の感じが若い、推定高校生もしくは中学生高学年、
しかもこの子リク君のこと好きだな。お姉さんレーダーは騙せないのよ。
「なるほどなるほど、いや、美しいですなぁ、これは今日は最良の日ですな、
久しぶりに友と出会い、また、美香殿のような美しい女性と知り合う機会を得た。
私は、商人をやっておりますカルナルと申します。
いつもこの辺で露天を開いておりますゆえ、何か、お困りのことがございましたら、
気軽にお声をお掛けください。と、そのお召しになっている鎧や、篭手は課金アイテムではありませんか?」
怪しい商人を演じつつ、アバターを見れば、豪華な課金アイテムざんまいですよ。
「えぇ、初心者なもので、まずは、装備にお金をかけましたの。」
ん~大好きな彼と一緒にゲームをするために、そして、彼について行くために、彼に貢がせないで、健気に課金アイテムを購入する。は~若いね。純愛だね。
私にもあったなぁ、そんな甘酸っぱい思い出。ま、眩しすぎるわこの子。
いやーお姉さん目が開けられなーい。
「なるほど、いや、ご聡明な方でいらっしゃる。このゲームアイアンゲージは、
残念ながら初心者の方にはあまり優しくはありませんので、
始めたはいいが、すぐやめてしまう方が多いんです。
まぁゲームの進め方はもちろん、戦闘においても、
初心者の方が初心者の装備でおこなうのは大変難しい上、
ランクアップにも時間がかかる。
その点お嬢様のように、初めから初期投資と割り切って、
課金アイテムの購入をご決断なされる方は結果的に、
このゲームを楽しみ、大金を掴むことができる。
素晴らしいご慧眼でいらっしゃる。」
ともあれ、心と口は違うわけで、とっても褒めちぎっちゃう。相手が引くくらい。
「あら、そんなにお褒めになっても、何も出ませんわよ。」
さすがに白々しすぎちゃった?
「あ~姫、そろそろ行きませんか?」
リク君、もう少しこの娘と話させてよ。
お金持ちならなんか買ってくれそうだし。
「あら、リク、もうしばらくお話していきたいのだけど?」
そうよね、もっと話しましょ。何がいいかしら、素材?アクセサリー?
あ、リク君にプレゼントさせちゃうってのも有りよね。
「そういえば、カルナルさん。商人という職業は
このゲームの本質だと聞いたことがありますが、
どんなご職業なんですか?
あ、ゴメンなさい、チョット電話が入ったのでお待ちいただけますか?」
えっ商人ってどんな職業かって?
私はゼミの卒論のためにやってるだけだから、そんなこと聞かれてもねぇ
「お待たせしました。」
「いえいえ、ご婦人を待つことは男にとって至上の喜び、こと、美しいお嬢様であれば尚更です。」
さて、どう答えるのがいいかな?
「お上手ですね。」
「商売柄、口は回るのです。
そのため、真実であっても嘘っぽく聞こえてしまうらしく、
悲しい思いも、しているんですよ。」
言葉遊びは大好きなのよね。女優って呼んで。
「あら、そんなことありませんわ、とても誠実そうでしてよ。」
なんかとってもノリがいいのね、この子、好印象よ。
「あの、お姫様、そろそろよろしいでしょうか?」
「え、そうですね、それより、カルナル様、」
「カルナルと呼び捨てで構いませんよ。」
「では、カルナルさん。カルナルさんはどのような商品を
取り扱っていらっしゃるんですか?」
これが聞きたかったのね。それなら。
「私の取り扱っている商品ですか?そうですね、ありとあらゆるものですかね。
当然対価となる値段にもよりますが、正当な報酬を頂けるという事であれば、
このカルナル、ドラゴンでさえお持ちいたしましょう。」
決め言葉よ。
「それは素敵ですね、でも、裏を返せば
特になにも取り扱っていないということかしら?」
ぐっ、意外と鋭いわね。
でも、接客業は商行為の基本でしょ。
「まぁ、そうとも言えますね。お嬢様は、何かお探しなんですか?」
「えぇ、実は農業をやろうかななんて思っていますの。」
「農業というと、畑とか?」
いが~い、ゲームの中で畑?そんな戦う気満々のアバターで?
「はい、畑いいですね。できるようなところご存知ありません?」
ほんとに農ガールなの?土地かぁ、何人か不動産の売買をしている商人はいるけどね。
「そういうことでしたら、友人をご紹介できると思います。しばしお待ちを。」
「よろしくお願いします。」
時計を見ると23時、きっとまだバイトとかだわ。
「えーと、大変申し訳ありません、今はチョット難しいですが、
リアルタイムで明日のこの時間にもう一度来て頂ければ、紹介できると思いますょ。」
まぁ、明日はゼミで合えそうだから話をしてみましょ。
一応、メールは入れておこうかな?
「そうですか、それでは明日また。ごきげんよう。」
二人が去っていってから、私はゼミの先輩にメールを入れる。
「仁科先輩、かっわいぃ女の子紹介しますから、
明日はアイアンゲージにログインしてくださいね。ハート」
これで良しっと。
ノートPCに向かい、レポートの続きをまとめ始める。
私のテーマは、「ゲーム世界の派遣産業の成立可否について」よ。
ゲームで出会う人は当然中の人がいるわけで、それぞれいろんな理由でゲームしてるんですね。
今回大学ゼミグループがどう絡んでくるのか。これから考えます。




