第3話 『巻物』との出会い
グラサンをかけたまま、わたしは情報収集に乗り出した。
目覚めた室内を物色し、調べる。
そうして分かったことは。
「ここ、どっかの廃墟かと思ってたけど――ちっちゃな小屋だったのか」
ここは、ぽつんと建った小屋だった。
しかもかなり古びていて、木製の壁や柱は虫食いや破損が目立つ。
こんなボロ小屋には誰も寄り付かないだろう。
その理由は簡単だ。
扉を開けて外に出る。
「うわー……めっちゃ樹海だなぁー……」
辺りに広がるのは、薄暗い樹海。
まだ太陽は空に昇っているはずなのに、背が高い木々が密集しているからか大部分は影に覆われている。
それに加えて雑草や茂みなんかも逞しく成長しているもんだからマジで鬱蒼と生い茂る森といった感じだった。
セリエーヌちゃんは幼女の足でどうやってこんな所まで来たのか純粋に疑問だ。
「ちょっと外の様子を探ってみようかと思ったけど、これは一旦避難かな~?」
太陽があるとはいえ、すでに空のてっぺんは通過している。
となればあと数時間で日が暮れてしまうだろう。
こんな森の奥深くで、さらに深夜に取り残されるなんて死亡フラグも良いとこだ。
さっさと小屋に戻る。
「それにさっき小屋を漁ってた時に色々と見つけたしね~」
この小屋は、大きく二部屋に分かれている。
一つは、私が倒れていたセリエーヌちゃんの私室。
そしてもう一つは、リビングっぽい小さな空間だ。
小屋の正面扉を開けて真っ直ぐ進めば、リビングらしき空間はすぐに到達できる。
ていうか、この小屋にはリビングと私室くらいしかない。
そして、六畳間くらいの狭いリビングの隅っこには、一台の冷蔵庫があった。
わたしはその冷蔵庫に向かう。
「この冷蔵庫っぽいブツ。こいつを開けると――!」
ガララッとオープンすると、中にはぎっしりと非常食が詰め込まれていた。
内訳は主に乾パンや瓶詰めなど。
ちょっとひんやりしているもののこの冷蔵庫もそんなに冷却されていない。
鑑定してみる。
―――――――――――――――――――
【魔動冷蔵庫】:物を冷やすことができる魔道具。一部壊れているので、冷却効果はいまいち
―――――――――――――――――――
「あ、やっぱこれ壊れてるんだ」
だから生鮮食品とかが入ってなかったのかな?
まあ、そもそも生肉とか生野菜とかゲットできる環境じゃないってのもあるかもだけど。
「でも、これでひとまず食料は問題ないかな。あとはトイレとお風呂なんだけど……」
はい、どちらもありません。
どうすんねん!
ただ、小屋からちょっと行った場所に川が流れているっぽい。自分で見に行ったわけじゃないけど、何となく確信できているのだ。セリエーヌちゃんの記憶の欠片から得られた知識かな。
え、つまりトイレはその川で済ませろってこと?
あの、わたしいちおう幼女なんですが??
「……絶対夜中にトイレ行きたくならないように、夕方以降はあんまり飲み食いしないでおこう」
冷蔵庫をそっ閉じし、しみじみと心に刻む。
そして再び私室へと戻った。
「ひととおり見て回ったけど、やっぱりここが一番情報収集には適してそうだなぁ」
わたしが目覚めた部屋へ戻る。焼けた姿見はまだ焦げ臭さがあるけど、我慢するしかない。
「よく見ると、本がぎっしり詰まってるな」
部屋の端には本棚があって、そこにはびっしりと西洋風のハードカバー本が敷き詰められていた。
適当に一冊手に取って中を開いてみるけど――
「……うーん、なに書いてるのかさーっぱり」
筆記体のような走り書きで記された数百ページの分厚い本。
女神様が配慮してくれたのか、文字を読むことはできるんだけど、書いてある内容が難しすぎてちんぷんかんぷん。例えるなら、高度な数学の専門書を読んでいるような。
セリエーヌちゃんの記憶からもいまいち引っ張りだせないし、魔法関連の知識はわたしじゃ理解できないのかな。
ただ、雰囲気的に『魔法』に関する高度な文献なのではと思う。
「これも、これも……これも同じようなやつか」
本棚に納められた本を片っ端からぺらぺらとめくっていくけど、どれも似たような雰囲気の本だった。
例によって何が書いてあるのか、わけわかめ。
「ん? なんか上の方に違う種類の本がある?」
本棚の上の段に、異なる形状の何かがあった。
背伸びして手に取ってみると、それは――
「……巻物?」
円柱状の軸に何周も巻き付けられた、古い羊皮紙のような横長の紙だ。
まさしく忍者が懐に忍ばせているような、あの『巻物』である。
「え、もしやセリエーヌちゃんって忍者の末裔なの!?」
まさか異世界にも忍者が!?
驚きつつ、ゆっくりと巻物を開けてみる。
ぺりぺりとかすかに糊が剥がれる感触を楽しみながら、するすると横に長い羊皮紙を広げていく。
と、中には魔法陣のようなイラストが描かれていて、そこに何やら色々と解説文みたいなものが載っている。
「なんだろうこれ。さっきのいかにもな専門書よりかは分かりやすいけど……何かを封じ込めるための魔法陣の解説?」
小首を傾げながら巻物を広げていくと、やがて最後のページになってしまった。
だらんと垂れ下がった巻物の紙を床に広げてみると、出だしの左上にタイトルが記載されていた。
"『魔力ノ暴発ヲ抑エシ書』 ―火の巻― "
「えっと、魔力の暴発を抑える魔法陣を解説する巻物……ってことかな?」
それに『火の巻』って章立てがあるけど、もしや『水の巻』とか『風の巻』とかもあるの?
「よく分からないものに遭遇した時は、鑑定!」
―――――――――――――――――――
【火の巻物〈下級〉】:火属性に関する魔法が描かれている。内容は巻物によって異なる
―――――――――――――――――――
巻物の上に表示されたウィンドウ画面を読み、むぅ、と唇をとがらせる。
「火の、『巻物』……? この巻物は、スクロールって言うのか」
内容は巻物によって異なるらしい。
この書き方だと、火属性以外にもそれぞれ対応する巻物がありそうだね。
でも、どうしてこんなに大量の巻物があるんだろう……?
「っ、そうか! もしかしてこの子、『魔眼』の力を抑え込むためにこの巻物を使ってたのか!」
さっきわたしも経験した、『虹の魔眼』による魔法の暴発。
どうやら感情の高ぶりがトリガーとなって発動してしまう魔眼らしいけど、この厄介な体質にはセリエーヌちゃんも悩んでいたんだ!
「でも、本棚に納められている巻物は全部【下級】って書いてあるな」
残りの巻物を引っ張り出して片っ端から確認してみる。
水属性や風属性、雷属性など、他属性の巻物がゴロゴロと掘り出された。
だけど、その全てが【下級】と記された巻物だ。
わざわざ等級を記載しているということは、この巻物にもランクがあるってことだよね?
「……もしかして、『【上級】の巻物』を集めて魔法陣を学べば、魔眼の暴発も克服できるんじゃ!? 暴発が起こらないなら、もうこんなサングラスを常時着用する必要もないってことだよね!?」
ガバッと立ち上がる。
カチャリとグラサンに指を添えた。
キラーン☆とグラサンのレンズが光る。
この異世界で生きていく上での、大きな目的を確信した!!
「決めた! わたしは必ずや上級の巻物を回収して、この魔眼の暴発を自力で克服してみせる! そのためなら、この異世界を隅から隅まで探検することも辞さないぞっ!!」
見知らぬ森にポツンと佇む山小屋。
そこに暮らすグラサンをかけたワイルド幼女が、燃える闘志に任せて生きる希望を叫ぶのだった。




