番外編2-3 同じではない
(同一条件、異なる結果)
昼間。
「ねえキリくん、ちょっといい?」
リコの声。
キリは振り向く。
「……なんだ」
「髪、きれいだよね。ちょっと触ってもいい?」
一瞬の間。
「断る」
即答。
だが——
「えー、ちょっとだけ!」
にじり寄る。
距離が近い。
キリは一歩、後ろへ下がった。
(……不快だ)
明確に、そう感じた。
触れられていないのに。
近づかれているだけで。
(なぜだ)
理解できない。
同じ人間だ。
種としての差はない。
だが、感覚が違う。
明らかに。
「冷たーい」
リコが笑う。
「減るもんじゃないのに」
「減る」
キリは短く返した。
「集中力が」
「えー、なにそれ」
納得していない顔。
だが、それ以上距離を詰めてこないのを確認して、キリは視線を外した。
* * *
(……不合理だ)
思考を巡らせる。
接触。
距離。
視線。
どれも同じ条件のはずだ。
なのに。
拒否反応が出る対象と、出ない対象がある。
ふと。
別の光景が浮かぶ。
「キリ、これ持って」
結衣の声。
自然に、近づいてくる。
距離が近い。
肩が触れる。
腕が触れる。
だが——
(……問題ない)
むしろ。
違和感がない。
(……なぜだ)
思考が止まる。
再度、整理する。
条件を並べる。
比較する。
・人間である
・女性である
・距離が近い
同一。
完全に一致している。
(……結論が出ない)
わずかに、眉が寄る。
* * *
「キリ?」
結衣の声。
すぐ近く。
顔を覗き込まれる。
距離が近い。
視線が合う。
「……顔、ちょっと赤くない?」
「問題ない」
即答。
だが——
「ほんとに?」
結衣は少し眉を寄せると、迷いなく手を伸ばした。
ひたり、と。
額に触れる。
一瞬。
思考が止まる。
(……接触)
温度。
やわらかさ。
距離。
すべて、認識しているはずなのに。
拒否反応が、出ない。
(……なぜだ)
むしろ——
(……離れるな)
一瞬、そう思った自分に気づく。
遅れて、鼓動が強くなる。
どくん、と。
やけに大きく響く。
(……これは何だ)
理屈を探す。
だが、見つからない。
不調ではない。
危険でもない。
それなのに。
制御できない。
「……熱はなさそうだけど」
結衣がほっとしたように言う。
そのまま、手を離そうとする。
その動きを、無意識に目で追った。
(……)
ほんの一瞬。
惜しい、と思う。
(……理解不能だ)
「疲れてるなら、ちゃんと言ってね?」
やわらかい声。
近い。
距離が。
空気が。
さっきまでと、同じはずなのに。
まるで違う。
「……問題ない」
かろうじて、それだけ返す。
声が、少しだけ低い。
(……同じではない)
結論だけが、残る。
理由は、まだ分からないまま。




