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信長を包囲せよ 17-2

 越前大浦湊を目指す船団はその日の夕方に京の南の巨椋池に到着するとここで休んで翌朝、支援物資を馬の背中や牛の引く荷駄車に乗せ換えたのである。

 巨椋池は宇治川瀬田川を介して琵琶湖に繋がっているが急流で船で登るのは危険なので京と大津坂本の間にある逢坂の関を馬や牛の荷駄車で運んで越えるのである。

 お菊とおいちは重い荷駄を船から馬や牛の荷駄車への乗せ換えに四苦八苦してたが。

 乗せ換えを終えると一行は逢坂の関を超えその日の夕方には坂本の南の琵琶湖畔の大津までやって来たのである。

 ここで休んで翌朝だが今度は琵琶湖を走る船に再度乗せ換えである。

 翌朝だが既に琵琶湖の水運を牛耳る堅田衆の船が湖畔で待っていた。この船団に荷駄を乗せ換えて出発するのみである。お菊とおいちは重い荷駄の船への積み替えに悲鳴を上げていたが。


 あと心眼とお菊には大津は嫌な思い出の地だった信長配下の明智光秀の支配地域になり戦乱からも解放され町も復興し物資の搬送で大いに賑わっていた。

 ここまでの経路でも信長も約束を遵守し順調であった。今晩は高島で休憩しいよいよ明日の昼には越前大浦湊に入ると言う。

 ただ、お菊とおいちはもうこの時点で荷駄の乗せ換えばかりでへとへとであったが。


 船団は順調に進み高島で休憩した後、4日目に予定通り越前大浦に到着したのである。ようやく最後の荷下ろしである。

「雑賀の姫のウチがなんでこんな事すんねん」

「筋肉痛で戦えないよ」

 おいちとお菊はぼやいたが

「ははは!姫様、お菊殿、修行と思ってくだされ!」

 船団長がにこやかに言ったが。

「こんな か弱い女子(おなご) に重い物を持たすな!」

 おいちとお菊は膨れたが。


 ようやく船から荷駄を降ろすとお菊もおいちも一段落である。

 後は加賀越中衆の引き取りを待つだけである。おいち、雑賀衆、お菊らは荷駄を加賀越中衆に引き渡したら任務完了である。

 一方、心眼だが阿形、吽形、小次郎と甲斐の歩き巫女と朝倉義景の越前一乗谷、浅井長政の小谷城を経由して武田領の飛騨高山城に向かう準備をしていた。


「気を付けてね!この面子なら大丈夫と思うけどさ」

 お菊は出発する前の小次郎を気遣った。

「アンタのかわいいお菊が待ってるんやからな!必ず帰ってや!」

「もう!うるさい!」

 横からいきなり挟んで来たおいちにお菊は怒ったが。

「当たり前だ!俺は必ず大阪本願寺に帰るさ。でも予定変更だな」

「どうしたの?」

「浅井長政公の小谷城だが羽柴秀吉とか言う織田の武将に押されて小谷城に近付くのが難しいらしい。だからあの巫女と一緒に一乗谷に向かってそのまま飛騨高山城に向かう」

 小谷城の浅井長政だが羽柴秀吉に押されて滅亡寸前まで追い詰められていた。

 そのため朝倉義景に救援の兵を出すよう催促の目的もあったのである。

 小次郎もこの件は知らなかったが武田信玄も義景に兵を動かすよう催促していた。


 浅井長政だが家臣たちも次々と信長に降伏していた。信長だが小谷城を力押ししなかったのは兵力不足もあったが長政の正室は信長の妹のお市で信長も長政を評価していたので長政が降伏するのを待っていたのである。


 数日後、加賀越中より荷駄の引き取りの部隊が越前大浦に到着したのである。

「心眼!久し振りだな」

 宿所にやって来たのは近江で六角義賢にゴマを擦っていた杉浦玄任である。

「わ!」

「生きてたんかいな?」

 お菊とおいちが思わず変な声を出すと杉浦はかなり苛立っていたが。


「軍艦様!ご希望の物をお持ちしました」

 心眼が杉浦に言うと杉浦に運んできた物を見せたのである。

 大量の鉄砲、硝薬、弾が木箱に詰められ保管されていた。

 杉浦は満面な笑みになり

「これで上杉を倒せる。ふふふ。ははは!」

 嬉しそうに笑ったのである。

「心眼。今回は礼を言う。上杉を倒せば信玄公は安心して遠江から三河に攻め込める。三河が信玄公の国になれば三河の門徒衆は自由を手に入れる!三河が手に入れば長島願証寺と海で戦線を張れる!」

 杉浦はお菊が言うには壮大な夢を語っているよう見えた。ちょっと呆れ気味にお菊は見ていたが。

「あのオッサン、本気やで」

 おいちが小声で言うとお菊はきょとんとしてしまったが。


 杉浦玄任だが六角義賢の支援に失敗後は後ろめたかったので大阪石山本願寺には戻らず加賀の一向宗の配下になり尾山御坊(石川県金沢市)を拠点に活動していた。

 顕如の配下なのと実戦経験を買われて加賀では評価され大将として振る舞っていたのである。


「我々は夏になれば越中で上杉軍と戦う。上杉謙信を足止めしている間に朝倉義景公と浅井長政公で美濃に攻め入り信玄公が三河を奪い長島願証寺や伊勢衆で尾張を叩けば信長は終わりだ。延暦寺を焼いて近江の門徒衆を撫で斬りした報いを今、受けるのだ!ふふふ!」

 杉浦は上機嫌に言った。

「心眼、しかと役を果たします。阿弥陀如来様は我らとあり。勝利と栄光も我らにあり。進むは極楽、退くは地獄」

 心眼が杉浦に返したのである。


 お菊は杉浦や心眼が本気なのか冗談なのかは分からなかったが。


 杉浦玄任は本願寺からの大量の鉄砲を受け取ると部隊を率いて尾山御坊に戻って行った。

 心眼らも杉浦を見送ると越前の朝倉義景の一乗谷を通って武田領の飛騨高山城に向おうとした矢先、甲斐の歩き巫女だが突如、織田領の近江長浜で降ろして欲しいと言い出したのである。

 理由だが最近武田領になったばかりの飛騨は彼女が地理に疎く危険で美濃から信濃への道なら熟知しており安全に確実に甲斐に戻れると言ったのである。


 心眼は悩んだが彼女の意見を優先し彼女を近江長浜に送る事にしたのである。

 歩き巫女を近江長浜に送る任務だがおいちの船に任されたのである。

 おいちは面倒な仕事に変な声を上げていたが。


 おいちだが近江長浜へ船を準備すると歩き巫女はおいちの船に乗り移ったのである。


 心眼、阿形、吽形、小次郎らの心配そうな顔を置いておいち、歩き巫女、お菊を乗せた船は越前大浦を発ったのである。

「2時間程度で着きますので」

 船長が言うには越前大浦から船だとかなり近いのである。

 歩き巫女は市女笠と虫の垂れ衣に少し凝った派手な巫女衣装を着ていた。彼女は船に乗ると市女笠と虫の垂れ衣を脱いだのである。

 お菊の彼女の印象だが標準的な背丈に黒い長髪で無表情な少しいやらしい言い方だが目力がある男が好みそうな美少女である。

「何だろう?」

 お菊だが彼女を見て何か感じたのである。すごく弱い法力のような物を感じたのである。

「あなた、お名前は?」

 歩き巫女の女子は突如、お菊に聞いたのである。

「お菊だけど」

「よろしくね。あなたの噂は聞いたわ。あたしは梓(あずさ)って呼んで」

 彼女は無表情とお菊は思ったがにこりと笑ったのである。

「あなた、私と同じ気配を感じるわ」

「そうだね。でもちょっと違うかな。血生臭さはあなたには感じない」

 お菊も梓に正直に返したのである。

 梓は再度にこりとなぜか一瞬笑ったのであるが。


「ところでアンタ大丈夫かいな?長浜城は敵さんの真っただ中やで?」

 おいちが聞くと

「歩き巫女は捕らえたらいけないのが暗黙の決まりよ」

 この暗黙の決まりはお菊とおいちが知らなったが。

「そうかもしれんけど女に飢えた男だって世の中たんまり居るで」

 おいちは乱暴粗野な末端の傭兵らを言ったが

「いざ危なくなったら男の家に泊めてもらって一夜を明かせば軽いわよ」

 梓の予想外の返しにお菊とおいちは固まったが。そんな風な事をするように女子同士であったが彼女は見えなかったのである。


「なぁ、お菊。あの娘(こ)、見た目と違ってすごいな!ウチは真似できんわ」

 おいちが小声でお菊に言ったが

「あんたが言うなっての。あんただって地元の川で裸で男と泳ぐんでしょうが」

 お菊が返すと

「なんやと!その言い草は聞き捨てならん!雑賀の郷の川で仲間の男子と泳ぐのと夜に知らん男と川の字になるのは全然意味が違うわ!」

 おいちが思わず大声を出してしまったのである。


 梓はお菊とおいちに振り返るとくすりと一瞬笑うとまた無表情に黙ったのである。

「うわぁ。ウチ、ああいうの苦手や」

 おいちが変な小声を出したが。

 お菊も梓が読めなくてちょっと戸惑ったが。

「割り切ってるんですよ。己の運命(さだめ)とね」

 船長が横から突如入って来たのである。

「割り切り?運命(さだめ)?」

 お菊とおいちがぽかんとすると

「我々には立ち入れないかな?もうすぐ近江長浜です」

 船長はそう言うと甲板に出て行ったのである。

 お菊はおいちと互いに顔を見合わせたのである。


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