戦では男も女も獣(けだもの)12-1 挿絵あり
心眼を手伝うためと言う大義で伊賀衆の舞、百地正永、正西親子に連れられお菊は六角義賢の近江石部城に着いたのである。しかしお菊だが到着早々がっかりしたのである。顕如の重臣、下間頼総から六角義賢への目付として送り込まれた杉浦玄任だが今回の本願寺の指示をこなしているようには見えなかったのである。
本願寺だが義賢への支援条件として義賢が信長に従い近江の門徒衆も信長に従いつつ本願寺にも従うよう条件を付けていた。しかし義賢は石部城では満足できず拠点だった観音寺城の返還を信長に求めていた。信長は近江の新しい主は自分であるので応じなかったが。義賢はこれを不満として門徒衆をも煽って反旗を翻そうとしていたのである。杉浦も義賢を咎める事も無くむしろ一緒に門徒衆を煽っていたのである。
義賢と杉浦だが近江の地侍で門徒衆の志村氏、小川氏に声を掛けに門徒衆を集めて盛んに説法をしていた。顕如の檄文を盾に何かあったら義賢に味方するように声を掛けていたのである。
信長もその辺りの情報は掴んでおり義賢の恩知らずな振る舞いに怒っていたが放っていたのである。信長からすれば近江の名門の六角氏であれ実力がなければすぐに見せしめで潰してやろうと考えていただけである。
杉浦玄任は武の道はいまいちだが饒舌であった。石山本願寺の上層部のお気に入りでもあったので本願寺で地位を得たのである。
ただお菊は杉浦は男としては嫌いであった。口だけで威張って生きてる男に見えたのである。
杉浦は石部城の城下の浄土真宗の寺の小さな本堂に門徒衆を集めて説法をしていた。小さい本堂は門徒で埋まり熱気が湧いていた。
杉浦は顕如の檄文をいつも掲げそれを得意の饒舌な喋りで唱えていた。
顕如の檄文とは簡潔に言うと 本願寺の破却を命じた信長は仏の敵である 織田信長を討て 進むは極楽 退くは地獄 である。これは各地の浄土真宗の寺に送られて熱心な門徒衆の心の支えになっていた。そして彼らは戦いに出向いたのである。
ただ本願寺の中、門徒衆の中でもこの檄文が 本物 かどうか意見が割れていた。
特に 本願寺の破却を命じた信長 は現代の世でも真相は不明である。
杉浦の説法を素直で熱心な門徒衆は目を輝かせて聞いていた。満足そうな顔の六角義賢が杉浦の左横に居た。そして右横かなり間を空けて苦い顔で立っていたのは心眼である。杉浦を苦い顔で見ているのは心眼だけでなく地元の信長との争いを好まない門徒衆の一派もである。
心眼だが門徒衆を煽るなと杉浦を何度か咎めたようだが杉浦に言わせれば部下の心眼の意見など聞くに値せずと聞く耳を持たなかった。元々杉浦と心眼は不仲で心眼を杉浦は完全に無視していたのである。
お菊も本堂の入口で杉浦の説法を厳しい顔で聞いていた。お菊だが檄文の 本願寺の破却を命じた信長 は信じていなかった。
「お菊!口が尖がっているわよ」
「舞!」
「いつになく厳しい顔ね?」
舞はいつもの軽い口調で言ったが
「みんなを煽ってどうするんだろと思ってさ」
お菊は真面目に返したのである。
「顕如様の檄文ね。良く出来てるわよね。本物かどうか分からないけど」
舞の言い分は聴衆に聞こえたのか何人かが舞に振り返ったのである。
杉浦の耳にも入ったらしく杉浦が舞を睨んだが舞は気にも留めてなかった。
杉浦はそのまま説法を続け説法を終えると拍手が起こったのである。
その時である。
「おい!女!詫びをいれろや!」
聴衆の一人の舞やお菊と年齢が近い若い僧兵の見習いのような男が振り返り声を荒げたのである。
しかし
「諸君!今回の説法も結構だが顕如様は近江に関しては信長公に従いつつ事を荒げず静かに阿弥陀如来様にご加護を祈って欲しい」
心眼が横から入ったのである。
聴衆の怪訝そうな視線が心眼に注がれた。
「顕如様は近江に関しては戦続きで疲弊しているみんなを気遣っておるのだ」
心眼の横に居た地元の僧正も続いた。
「でも信長は俺たちを敵視してるぞ!」
「長島の門徒衆を攻めたじゃないか!」
「禁教令が出たらどうするってんだ!」
熱心な門徒衆の聴衆は反発したが
「信長公は従えば信仰を許してくださる。確約してる」
「争う必要はない。顕如様も承知だ」
僧正と心眼が言っても聴衆は納得していなかったが。
「みんな!ワシに力を貸してくれ!ワシが近江を取り戻したら何も心配せず阿弥陀如来様と暮らせる!」
義賢が言うと聴衆は拍手して盛り上がったのである。杉浦も満面の笑みである。
心眼と地元の僧正は渋い諦めの顔であったが
「顕如様の 今の お言葉の方が大事よ!」
舞が大声を上げたのである。
聴衆は再度舞に振り返った。
「顕如様の 今 のお言葉は 六角支援は信長公への忠節を 近江門徒衆も信長公に従いつつ本願寺の教えも守る 以上よ!」
舞が言うと
「顕如様の檄文が全てなんだよ!教義の敵め!」
先ほどの若い僧兵だが舞に突如、殴り掛かったのである。
しかし舞は素早くかわすとこの男に蹴りを入れて倒したのである。
「生意気なんだよ!」
もうひとりも舞に襲い掛かったがこの男は蹴りでは倒れなかった。
「う!」
逆に舞の両腕を掴んで舞を壁に圧し付け捻じ伏せようとしたが
「女子相手に男2人でなんてさ!」
突如お菊が叫ぶとこの男に飛び蹴りを食らわせたのである。
この男は聴衆たちに頭から突っ込み聴衆は悲鳴を上げたが。
「ごめんね!お菊!煩わせて!」
舞はお菊に礼を言ったのである。
「いかん!やめんか!」
僧正が慌てて止めようとしたが
「僧正。構わんさ。あの小娘はちょっと生意気だから世の厳しさを知った方が為になる」
杉浦が言うとお菊は猛然と反論したのである。
「世の中を知らないのはあなたでしょうが!あなたは前の戦いで候補生を3人も失った!口先ばかりでさ!人を扇動してさ!自分では何もできない癖にさ!」
「おのれ!小娘の分際で!」
杉浦が激高したがその時であった。
「顕如様の檄文を侮辱する輩には死を!進むは極楽!」
さっきの男の1人が隠し持っていた脇差を抜いて目の前に居たお菊に襲い掛かったのである。
脇差を見て聴衆は悲鳴をあげたがお菊はこれを素早く避けると逆にこの男の脇差を持つ腕を両手で渾身の力で握ると
「分からず屋!」
お菊は叫ぶと普通とは違う方向に腕を思いっきり曲げたのである。何か折れる音がすると男の腕は普段と違う方向に向き男は白目を向きながら絶叫し倒れたのである。
「この野郎!」
もう1人も脇差を抜くとお菊を襲おうとしたが
「なめんじゃないよ!」
舞は叫ぶとこの男の前に立ち塞がり自分の脇差を抜くとこの男の肩を斬り付けたのである。この男は太刀打ちの訓練を受けていなかったので避けられず舞にそのまま肩を斬られたのである。
この男も絶叫し倒れたのである。
この男の飛び散った血を見て聴衆は我に返ると同時に恐怖を感じみんな悲鳴を上げたのである。
「やめんか!お菊!舞!」
心眼が慌てて間に入ったのである。
「伊賀の百地(丹波)党の舞をなめるんじゃないよ!六花仙の前にしゃしゃり出るんじゃないよ!戦場に行った事が無い分際でさ!」
舞だが普段と全然違う口調で凄んだのである。
男たちは泣きながら退散して行った。僧正は唖然としていた。
「あいつが伊賀の百地党の女?嘘だろ!」
「あの小娘が六花仙やと?本当に六花仙は居たんか?」
我に返った聴衆の動揺が収まらなかったが
「貴様ら!本願寺に帰ったら法世会議で裁いてやる!」
杉浦が叫んだその時であった。
心眼が黙って杉浦の近くに寄ると心眼は渾身の力で杉浦を殴ったのである。杉浦は変な声を出しながら気を失い倒れたのである。
六角義賢は唖然と立ちすくんでいた。




