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女子(おなご)も梟雄(きょうゆう)であれ 9-1 挿絵あり

 挿絵(By みてみん)

 おいちとお凛だが年明け1571年の正月明けから無事に石山本願寺の修行に復帰したのである。

 道場はようやく賑やかさを取り戻したのである。

 ただ、心眼と弥生は本願寺で大きな会議があるとかで不在であったが。


 ある日、みずながしょげていたのである。

「みずな、どうしたんや!新兵衛と喧嘩かいな!」

「違うよ!」

 おいちの言い方にみずなは膨れたが

「新兵衛が織田へのお預かり(人質)になるんだって」

 再度みずなは悲しそうに言った。


 前年の1570年の滋賀の陣で織田信長は朝倉義景、浅井長政、延暦寺、六角義賢と和睦した。篠原長房、三好三人衆、石山本願寺も摂津茨木城で織田方の和田惟政、松永久秀と衝突したが信長が朝倉義景らと和睦するとこちらも戦う意義を失い和睦したのである。

 和睦交渉は篠原長房と松永久秀が行ったが2人とも元は三好長慶の家臣である。信長だが松永久秀の実力は買っていたが全幅の信用は置いていなかった。久秀も信長のそのような視線は感じて居た。

 そこで今回の和睦交渉に当たり人質の交換を申し出たのである。


 裏切り癖がある久秀に人質を預けて何かあった場合を恐れて長房は躊躇したが久秀が自分の養女(実子ではないが)を送り込んで来たので渋々返す事になったのである。

 そこで最近長房の配下の阿波衆になった新兵衛とみずなの内、新兵衛が選ばれたのである。ただ長房は新兵衛の世話役を名分に腕自慢の配下衆を3人も付けたのである。久秀が裏切った場合に備えて万全の体制で(新兵衛が脱出できるよう)久秀に新兵衛を預けたのである。

 新兵衛たちは久秀の居城の大和多聞山城に向かったのである。


「新兵衛に何かあったらどうしよう」

 みずなはしょげていたが

「長房様は腕利きを3名付けたから心配無用や!」

「ウチは大和の出やから何かあったら大和の門徒衆が味方するで!」

 こずえとまえこが励ました。

「こっちは久秀公をびびらせたお菊が居るんやで!」

 お凛も続いたが

「みずな、心配しなくて良いよ。久秀公は長房様と組もうとしてるのさ。久秀公は強圧的な信長公とは合わないんだよ。信長公に目を付けられないように 振り をしてるんだよ」

 平助が冷静に返した。

 この平助の見方が石山本願寺の大人たちの久秀への大まかな見方であった。


 数日後、新兵衛と入れ替わり久秀の元から長房の元にやって来たのはまだ15歳の女子(おなご)だった。世話役も付けずにひとりで来たのである。


 ある日だが珍しく篠原長房が道場に来たのである。若い女子を連れていた。彼女を連れて阿形、吽形、清澄と悠然と長房は少し話をした後、

「諸君。修行中にすまないが久秀公から預かった女子だがみんなと修行したいそうだ。良いかな?」

 突然でみんなきょとんしていたが。

「久秀公の娘(養女)で生まれも育ちも伊賀の舞(まい)です。よろしくお願いします!」

 舞はすらりとした体形で黒い長髪を腰で束ね口調も快活で爽やかで男子受けが良さそうな雰囲気を持っていた。

「むむむ!ウチの強敵登場や!」

「あんた自意識過剰でしょうが!」

 勝手にうなったおいちにお菊は突っ込んだが。


 本願寺側も各々自己紹介を終えると

「今日は久々に組み合いの修行をしましょう。舞ですが修行は慣れているので順番に組んであげてくださいね」

 清澄と悠然がいつものように仕切ったのである。

「こずえ!良いかしら?」

「構わないよ!」

 舞は初の相手にいきなりこずえを選んだのである。こずえは本願寺の女子では背が高く組み合いは得意の方である。

「はじめ!」

 清澄の掛け声で始まると最初は2人とも互い襟袖を掴みながら足を掛けようとしてもなかなか決まらなかったがこずえが焦って舞に足を掛け損ねた一瞬、舞は素早く足を掛け返しこずえを押し倒したのである。

「だは!やられた!」

 こずえはうなったが舞はにこりと笑ってこずえを起こしてあげたのである。

「こずえを倒すなんてやるやん」

「くうう!ほんまにウチの強敵や!」

 お凛は感心しおいちはうなっていたが。


「あなた?次、頼んで良いかな?」

 舞だが今度は小次郎に頼んだのである。

「俺?」

 小次郎は驚いていたが

「少しは手応えありそうだからね」

「むかっ」

 小次郎はいらっとしたので受けたのである。


「はじめ!」

 再度清澄の合図で始まると2人は互いに襟袖を掴んで組みあったがなかなか互いに隙を見せなかった。

「ふうん。やるわね」

「あんたもな!」

「でも女子(おなご)の扱いには慣れてないわね」

 そう言うと舞はわざと小次郎の懐に飛び込んで体を押し当てて思いっきり引っ付いたのである。

「い!」

 小次郎は顔を赤らめて体勢を崩してしまった。

「隙あり!」

 舞はそう叫ぶとそのまま小次郎に足を掛けて押し倒したのである。

「くそ!女の武器を使うな!」

 小次郎が赤くなりながら怒ったが

「ふふふ。修行不足!」

 舞は軽く返したのである。


「なんや!小次郎の奴、舞に引っ付かれて赤くなって!ウケるわ!」

 おいちが大笑いすると小次郎は余計に怒っていたが。

「小次郎!ださ!」

 お菊も口を尖らせたのである。

「お前らうるさい!」

 小次郎は怒りが収まらないようだったが。

「お菊がちゃんと小次郎の相手をしないから女子に引っ付かれただけで赤くなって隙だらけになるんやで」

「なにおぉ!」

 今度はおいちとお菊が揉めだしたのであるが。


「小次郎!ちょうどええわ!今度はウチと勝負や!」

 おいちが嬉しそうに言うと

「すぐに倒してやる!」

 小次郎がいらいらしながら言うと

「あたし、おいちが勝つと思うな」

 舞がにこにこしながら返したが。

 お菊は口を尖らせたままだったが。


「はじめ!」

 清澄が合図をするとおいちと小次郎は互いに襟袖を組んだが小次郎が足掛けを連発しておいちを押していた。ただ、おいちは上手くかわしていたが。

「くそ!もうちょい!」

 小次郎が焦ったその時であった。

「小次郎!」

 おいちはそう言うと突如、小次郎に抱き付いたのである。

「どわあ!何をする!」

 小次郎が赤くなって焦って体勢を崩したその隙だった。

「もろうた!」

 おいちは小次郎に足掛けし思いっきり押し倒したのである。

「むぎゅう」

 畳に叩きつけられて小次郎は伸びていた。

「なはは!小次郎を倒したわ!」

 おいちは小次郎に抱き付いたまま喜んでいた。

「ふふふ!言った通りね」

 舞は嬉しそうに言ったが

「こら!おいち!いつまで小次郎に抱き付いてんの!小次郎!ださ過ぎ!」

 お菊は怒っていたが。


「ふふふ。面白いの見せてもらっちゃった!今日の締めはあなたにお願いしたいな?」

 舞はお菊と組み合いをしたいと言ったのである。

「良いけど」

 お菊はちょっといらっとしながら返した。


「くう!お菊が出て来たか!楽しみや!ようし!向かい合って!始め!」

 清澄を押しのけておいちが合図をしたのである。 


 2人は互いに襟袖を掴んで押したり引いたり時々足を互いに出して牽制していたが決め手に欠けていた。

「思ったよりも隙がないわね。さすがね」

「あなたもね!」

 お菊も舞に返したのである。

「あなた、私と同じ匂いがするのよね」

「へ?匂い?何の?」

 お菊がきょとんとすると

「血の匂いかな?」

 急に冷静な顔で舞は言ったのである。

「!」

「そこ!」

 舞はお菊が動揺した隙に一瞬で左手をお菊の右裾に掴み変えると自分の右手でお菊の左の襟袖を逆に上に押したのである。そして自分の左手でお菊の右袖を思いっきり自分の腰下まで引き寄せたのである。

「う!」

 お菊は体勢を崩されて前にのめって倒れそうになったが

「あなたも一緒!」

 しかしお菊はそう叫ぶと倒れながら舞の腰に無理やり抱き付いたのである。

「え!」

 舞は予想外にお菊が倒れる勢いのまま腰に抱き付かれたのでそのまま体勢を崩しお菊と一緒に倒れてしまったのである。

「いたた」

 一緒に倒れた舞は腰をさすったが。


「引き分け!」

 清澄が判定したのである。


「くう!さすがお菊や!」

「すげえ」

 おいちは喜び小次郎は呆気に取られていたが。


「さすがお菊。噂通りね」

「噂って何さ!」

 ちょっとお菊はいらっと返したが

「久秀様が恐ろしい娘(こ)がここに居るってね」

 舞はにこりと笑いながら言ったが。

「あの人こそあたしの因果なのさ!」

「知ってるわ」

 舞はまた冷静に返した。

「!じゃああなたは何なのさ!匂いが同じとか!」

「あたしも何度も戦場に居るから。嫌な匂いが染みついてるの。あなたと同じね」

 舞はにこりと再度笑ったのである。

「あたしは違う!あいつらが向かって来たから戦っただけよ!」

(あたしと同じ?嫌な言い方だ!嫌な奴だ!) 

 お菊は少し怒りながら舞を睨んだのである。




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