↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不死の子供たち・設定集  作者: パウロ・ハタナカ
第九部・新たなる脅威 後編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
205/205

205 樹海〈運び屋〉


◆樹海


「こっちだ、運び屋」


 タカクラの声は、森のざわめきよりも低く、湿った土の奥底から響き上がるようだった。この異質な環境が、彼の声にまで影響を及ぼしているのだろう。


 視線の先には、古びた鳥居がぽつんと立っていた。周囲は鬱蒼とした植物に覆われ、巨大な葉が風に揺れるたび影が歪む。それなのに、鳥居へと続く細長い道だけが異様なほど真っすぐ伸びている。まるで植物が、そこだけを避けているかのようだった。


 人の背丈を越えるキノコが群生し、胞子は日の光を受けて淡く発光している。だが、昆虫の変異体は一匹も姿を見せない。その鳥居は、森の捕食者たちが本能的に近づかない空白地帯――あるいは〝絶滅領域〟と呼ぶべき奇妙な空間を形成していた。


 俺たちは今、辺境部族〈ミツバ〉の依頼で、若い戦士数名を森の深部にある監視要塞へ送り届ける任務の最中だった。危険な仕事だ。タカクラの部隊が運用する六脚式の自律走行型輸送車が先導し、俺たちはその車両に随伴するように進む。


 車体は枝葉を使った擬装で覆われ、昆虫のそれを思わせる脚部は、倒木や起伏を自動で読み取って進む。俺たちが〈侵食帯〉を越えて運んできた物資のおかげで、弾薬も部品も補給され、ほぼ万全の状態で移動できていた。


 さらに、タカクラの部隊に所属する技術者アンナが組み上げた特別仕様の機械人形が数体同行している。森での戦闘に特化した機体で、変異体の素材が使われていた。それはひどく奇妙な――厳密には、ひどく気色の悪い外観をしていたが、音ひとつ立てず森のなかを歩くことができた。


 装備と物資に不足はなかったが、人を喰い殺す変異体が徘徊するこの森では、どれほど準備を重ねても不安は消えない。俺たちは細心の注意を払いながら進んだ。幸い、コトネの新しい義手は完璧に調整されていて、動作は滑らかだった。


 イジュンの偵察ドローンも〈放射線嵐〉の影響を受けず、大樹の間を安定した軌道で飛行していた。それに、今日も豹人の若い戦士が同行してくれていて、耳を立て、風の流れを読みながら先頭を歩いていた。彼がいるだけで、森の気配がわずかに和らぐ気がした。


 倒れた鳥居の前を通るとき、森の空気が変わるのが分かった。湿気が薄れ、冷たい風が頬を撫でる。周囲は不自然に薄暗く、地面は異様なほど平坦で、まるで誰かが意図的に整地したかのようだった。


〈ミツバ〉の若い戦士たちは緊張した面持ちで鳥居を見つめていた。他の誰よりも森を知る彼らでさえ、それを恐れていた。この森には、まだ名前すら与えられていない脅威が潜んでいるのだろう。


 輸送車の脚がゆっくりと動き、鳥居の影に踏み込む。森のざわめきが遠ざかり、代わりに低い振動が地面の奥から響いてきた。まるで森そのものが、息を潜めて俺たちを監視しているようだった。


 やがて、鬱蒼とした緑の壁の向こうに、異様な構造物が姿をあらわした。それは、森の風景にまったく馴染まない巨大な円柱だった。


 林立する大樹にも劣らない高さがあり、表面は旧文明の合金で覆われ、腐食も苔もほとんど見られない。円柱は等間隔に立ち並び、森の地形に逆らうように真っすぐ並んでいた。自然の法則を逆らうように築かれた人工の柱廊を見ているようだった。


 タカクラが言うには、これらの柱は〈シールド発生装置〉で、複数の円柱が連動して巨大な結界を展開しているのだという。


 目的地の監視要塞では、高さ六十メートルを超える巨大な壁が、この円柱群のそばに聳えているという。そこでは各部族から派遣された戦士たちが常駐し、〈混沌の領域〉と呼ばれる樹海の奥を監視している。


 森の中で旧文明の人工物が〝未だ機能している〟という事実が、異様なほど不自然に見えた。円柱の表面には微細な振動が走り、空気がわずかに歪む。シールドが発生させる力場の残響だろう。森の湿気が円柱の周囲だけ薄れ、空気が乾いている。


 イジュンのドローンが円柱の上空を通過すると、センサーが一瞬ノイズを吐き、映像が乱れた。旧文明の技術が、今も生きている証拠だった。


〈廃墟の街〉で耳にしても、笑い話にしかならないようなことが、森では現実として存在する。森の各部族から招集された戦士たちが、異なる世界からやってくる化け物を監視している――そんな話を素面で信じるのは難しい。


 そこで何が起きているのかは、実際に目にしなければ理解できないだろうとタカクラは言う。それもそうだ。そんな異常な出来事は、〈データベース〉で無限に生成される娯楽映画で充分だ。


 とにかく、俺たちは円柱から適切な距離を取りながら進んだ。円柱の近くでは、森の生物が一切姿を見せない。昆虫の変異体も、獣の変異体も、まるでこの場所を禁域として避けているようだった。


 風が吹くたび、円柱の表面が微かに光を反射し、森の影が歪む。その光景は、文明崩壊後の世界特有の不気味さを孕んでいた。


 監視要塞は、この円柱群のさらに奥にある。森の深部にある〈混沌の領域〉の手前。そこは、脅威と旧文明の残響が混ざり合う世界の縫い目のような場所だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。