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不死の子供たち・設定集  作者: パウロ・ハタナカ
第九部・新たなる脅威 後編

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166 危険地帯〈運び屋〉


◆危険地帯


 乗員のためのコンテナは、想像していたよりも広かった。とはいえ、快適性とは程遠いものだった。


 壁は鉄板で補強され、ところどころ溶接の跡がむき出しになっている。床には古い振動吸収マットが敷かれていたが、長年の使用で薄くなり、多脚車両が動くたびに足元から微かな震えが伝わってきた。金属の錆と油の臭いが混ざり合い、コンテナ内部に独特の刺激臭が漂っていた。


 乗客は数名ほど。傭兵にスカベンジャー。誰もが場慣れした顔つきで、揺れに合わせて自然に身体を預けている。誰も無駄口を叩かない。もとより、ソロで活動する者たちは群れることを好まない。誰もが己の仕事に専念し、互いの存在を必要以上に意識しないようにしていた。


 車両の脚部が瓦礫を踏みしめる重い音が響いた。揺れは抑えられているが、それでも廃車が放置された通りや陥没した道路を移動するたび、コンテナ全体がぐらりと傾く。鉄板がわずかに軋み、荒れ果てた地形を必死に踏破していることを思い出させた。


 幸い、鉄板で補強されているおかげで、どこからともなく銃弾が飛んできても致命傷を負う心配は少ない。ただし、空調設備なんてものはない。夏場は後部ハッチを開けたまま移動することになるし、最悪、熱中症で倒れる者もいる。


 銃座としても機能する銃眼の隙間から、ちらりと外の景色が見えた。瓦礫の山、崩れた高架道路、骨組みだけになった建物。〈廃墟の街〉は、どこを切り取っても死の臭いが漂っている。そして――危険は常にそこにある。


 変異体の群れに遭遇することを避けながら、車両は慎重に進んでいく。〈人擬きウィルス〉に感染したばかりのゾンビめいた変異体は動きが緩慢で、車両に追いつくこともなければ、多脚で踏み潰せるほど脅威度は低い。


 けれど、そのなかには恐ろしく素早い個体も潜んでいる。〈追跡型〉とも呼ばれる四足歩行する〈人擬き〉は、車両の速度に合わせて並走し、隙を見て飛びかかってくるような奴らだ。油断はできない。


 さらに厄介なのは、旧文明期の遺産――暴徒鎮圧用に都市に配備されていた〈アサルトロイド〉だ。戦闘用の機械人形は、いまや制御不能のまま街を徘徊している。武装や戦闘システムが生きている個体に遭遇すれば、人間だろうが変異体だろうが関係なく攻撃してくる。


 都市は危険だらけだ。車両が大きく揺れ、乗客のひとりが舌打ちした。どうやら道路の一部が崩落していたらしい。多脚車両は姿勢制御を調整し、ゆっくりと瓦礫を乗り越えていく。俺は壁にもたれ、深く息をついた。〈侵食帯〉の手前まで、この車両に身を預けるしかない。


 それに、ここから先は、さらに危険が増す。そう思いながら、俺は揺れる車内で瞼を閉じた。


 どれくらい時間が経っただろうか。揺れに身を任せていた俺は、ふいに、うなじがぴりっとするような嫌な気配を感じて目を見開いた。空気が変わった――そう直感した。その異変に気づいているのは、どうやら俺だけではなかったようだ。


 傭兵たちが、コンテナの銃眼から外の様子を確認しているのが見えた。緊張が車内に伝播し、乗客たちの呼吸がわずかに荒くなる。金属の軋みが、まるで不吉な予兆のように響いた。


 飛翔体が飛来してきたのは、ちょうどその時だった。迫撃砲弾が砲筒を離れるときに鳴る、「ポンッ」という独特の音が聞こえた。それは風に紛れるような小さな音だったが、耳に残る嫌な響きを残した。


 つぎの瞬間、多脚車両の足元で砲弾が炸裂した。轟音とともに車体が大きく揺れ、外で警備していた傭兵のひとりが、爆風によって手足を吹き飛ばされるのが見えた。鉄と血の臭いが一気に車内へ流れ込み、乗客たちの表情が凍りついた。


 真っ黒な煙と粉塵が舞い上がり、視界が一瞬で灰色に染まる。多脚車両は悲鳴のような金属音を上げながら停止した。


 襲撃だ。廃墟の影から略奪者たちが姿をあらわした。腰だめに構えた小銃を乱射し、弾丸が鉄板を叩く乾いた音が響く。傭兵たちは多脚車両の背後に身を隠し、よく訓練された動きで反撃を開始した。短く、正確な射撃は無駄がなく、彼らの練度を物語っている。


 もちろん、乗客だからといって戦いを免れるわけではない。この街では、命が惜しければ自分で身を守るしかない。ソロの傭兵たちは慣れた手つきで銃を構え、スカベンジャーでさえ腰のホルスターから拳銃を引き抜いていた。


 俺もライフルに手を伸ばし、コンテナの外に飛び出す。車両内は安全のように見えるが、砲弾が飛んできたら、搭乗員用のハッチが歪んで脱出できなくなるリスクがある。


 外では、さらに状況が悪化していた。略奪者たちは闇雲に小銃を乱射し、撃ち終えるとすぐに瓦礫へ身を隠す。その瞬間を逃さず、護衛の傭兵による正確な狙撃が行われる。乾いた破裂音が響き、哀れな略奪者は脳漿をぶち撒けるようにして瓦礫の影に崩れ落ちる。


 傭兵たちの攻勢は続き、自爆ドローンも投入され、略奪者たちが身を隠していた廃墟から黒煙が立ち昇るようになる。


 けれど、対戦車擲弾発射機を構えた連中が潜んでいたのか、あちこちからロケット弾が撃ち込まれるようになる。爆発のたびに砂煙が巻き上がり、視界が一気に白く濁る。金属片が車体を叩き、耳鳴りが残った。世界が一瞬、音と光だけの無機質な暴力に変わる。


 どうやら、連中は初めからこの運送屋を狙っていたらしい。ツイていると思っていたが、最悪の車両に乗り合わせたようだ。


 そのとき、数十発の銃弾が飛んできて、身を隠していた遮蔽物に直撃した。周囲を見回したが、どこから撃ってきているのか見当もつかない。視界は砂煙で曇り、敵の位置を把握できない。


 そこで、ふと片目に移植した〈人工眼球(バイオニック・アイ)〉の存在を思い出した。情報端末を操作し、システムを立ち上げて廃墟の並ぶ通りに視線を向ける。すると煙の向こうに、赤い線で輪郭を強調された人影が浮かび上がった。


 瓦礫の隙間、横転した廃車の影、廃墟の窓――隠れているつもりの略奪者たちが、次々と視界の先でタグ付けされていく。


「……なるほど、こいつは便利だ」


 思わず感心しながらも、俺は略奪者たちに銃口を向けた。赤い輪郭をひとつ、またひとつと捉え、引き金を絞るたびに標的が倒れていく。〈人工眼球〉の補助が入るたび、世界がわずかにスローモーションになるような錯覚すらあった。


 連中はうまく隠れているつもりだったが、この眼球の前では、もはや逃れる術はなかった。傭兵たちも反撃を強め、やがて銃声がまばらになり、敵の気配が薄れていく。


 しばらくして掃討が完了した。けれど最悪なことに、多脚車両の脚部が損傷していた。爆風で関節部が歪み、油圧ラインが破断している。修理が必要だが、すぐに直せるような損傷ではない。そしてもっと厄介なのは――敵の増援が来る可能性が高いということだ。


 俺たちは、停止した車両の影に身を寄せ、つぎの襲撃に備えるしかなかった。鉄錆の臭いと焦げた空気が混ざり合い、〈廃墟の街〉の静寂が、不気味なほど深く感じられた。

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