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聖女に呼び出されたベリッシュは王宮の一室に通された。
間もなくして聖女がやってくると早々に口を開く。
「弟君の事は好きか?」
「え?」
「好きかと聞いている」
「……好き、ですわ、この世の誰よりも、愛してるわ」
ニンマリ笑った聖女を不気味に思いながら、ベリッシュは続けようとした。
「今夜だ」
「今夜?」
「明日、浄化の旅に出発する。今夜しかチャンスは無い。アインリッシュの元に行くぞ」
「え!?」
アインリッシュに会える嬉しさと、しかし急な展開に着いて行けず混乱する。
会える
アインリッシュに会える
怖がってないかしら
泣いてはいないかしら
拒絶されたあの日から、ずっと考えていた
言われるのを待つばかりでなく、自分自身からも行動を起こすべきだったと。
今の関係が壊れてしまうのを怖がっていては駄目だったのだと。
会えたら、伝えるのだと
「行くぞ」
日が沈み、空が暗くなった。
聖女の後ろを歩きながら、不安に苛まれる胸を抑える。
でも、アインリッシュの感じている不安は、こんなものではないわ……
聖女が一室の前で止まりこちらを振り返る。
その目は少し楽しそうに細められていた。
「覚悟はできてるかい? ベリッシュ」
「……できているわ」
「よしっ。では、呼んだら入ってきてくれ」
扉の向こうへと消える背中を眺めながら、目を瞑る
大丈夫
大丈夫
そう自分に言い聞かせるように呟く
「……愛していますよ」
「だ、そうだぞ、ベリッシュ」
扉を、くぐる
まだ一週間も離れていなかったのに、現れたアインリッシュの姿に泣きそうになった。




