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あの日、アインリッシュに拒絶されて走り去った後追いかけてきたナタリアに連れられベリッシュは生徒会室に向かった。
もちろんその場にはハインデルト様と、何故かエリーゼ様もいらっしゃったらしい。
ナタリアがアインリッシュの件を伝えるとハインデルト様はサッと顔色を変え部屋を飛び出そうとした。
しかしアインリッシュの部屋を知らないハインデルト様はナタリアに案内を頼み、ベリッシュとエリーゼ様だけが残された。
「…アインリッシュ様は、何故、付け込まれたのかしらね…」
「わかりません…最近、ずっと悩んでいたのは知っていました。でも、何時か話してくれるだろうと、聞かずじまいで…っこんな、事にっなるだなんてっ…」
ポロポロと涙を流すベリッシュを痛ましげにエリーゼ様が見つめ、ふと思い当たる事があったのかベリッシュに問いかけた。
「学院では、お二方は相思相愛なのだと噂されていたけれど、事実ですか?」
「…いいえ、私とアインリッシュは、まだ、お互いの気持ちを確かめ合っておりません」
「そうですか…」
確かめ合っていない。
傍から見れば、アインリッシュはベリッシュに夢中なのは間違いない。
ベリッシュも、アインリッシュを想っているのだろう。
二人の間にはそんな雰囲気があり、他者を寄せ付ける隙も与えていない。
恐らく、二人は無意識であろうけれど
エリーゼはふと思う。
恋焦がれすぎた者は、同時に心に大きな闇を落とす。
アインリッシュ程、ベリッシュに執着しているのなら、あり得るのではないか。
何がきっかけとなったのだろうか。
何が、アインリッシュの心に闇を落としたのか。
「アインリッシュ様は、ベリッシュ様について何か仰っておりませんでした…?」
「何か…? そういえば、もう恋人がいるんでしょう、と言われましたわ。違うと言おうとしても、聞いてもくれませんでした」
エリーゼは考える。
恐らくアインリッシュは何らかの理由でベリッシュに恋人がいるのだと勘違いした。
ベリッシュを他人に取られた
しかもそれは自分の不甲斐無さのせいで
でも認められなくて
他の方のものになってしまったベリッシュを見たくなくて
「恐らくですけれど…アインリッシュ様は、そこに付け込まれたのかもしれません」
「そこ、とは何ですか?」
「ベリッシュ様が、他のお方のものになられた、とお思いになった事です」




