叫び
マサルが取り消しとなった最終レースは不思議な雰囲気の中で行われた。異様な盛り上がりの後のこのレースを、観客は様々な気持ちで目を向けていた。
そんな中で、彼らもレースを見つめていた。
スタンド下の端にいる奈々子には、最終コーナーを回ってくる馬たちを見ることができた。その最終コーナーに地鳴りとともに一頭、二頭と馬が現れ、その後を集団が一気に現れてくる光景に息をのみ込んだ。
地鳴りはどんどん大きくなり、空気を震わせながら近づいてくる。ライトに照らされた馬たちは汗で輝き、脚音は和太鼓のように小気味よく鳴り響く。舞いあがる白い砂が輝きながら舞っている。
そして、馬が近づくにつれて、背後の観客席からは大歓声があがってきた。
大歓声は気持ちを蒸気させ、馬たちが奏でる和太鼓の乱舞は心を躍らせる。奈々子は懸命に走る全ての馬に向けて、力の限り叫んでいた。
「ガンバレ! ガンバレ!」
☆
「いけ! いけー」
大歓声の中、坂本は馬たちに向けて叫んでいた。
いや、自分に向けて叫んでいた。もう一度、立ち上がった自分に向けて、新たな道を歩きだせと叫んでいた。
☆
「負けるな! 負けるな」
大歓声の中、信一はある決意を胸に叫んでいた。もう迷いは何もない。ゆるぎない決意を胸に自分に向けて叫んでいた。
☆
「よーし、やるぞ!」
大歓声の中、健太はこれからも、自分を見守ってくれる、この競馬場に誓うように叫んでいた。
◇ ◇ ◇
ボクも叫んでいた。小さな口を精一杯広げ、力の限り叫んでいた。
ボクはレースが終わると、すぐに走りだした。
細いところを走り抜け、スタンドの馬場とは反対側へやってきた。
スタンドの高い位置から辺りを見渡した。やがて、視界の中にパラパラと人々の姿が映りこんでくる。その姿はどんどん増えていく。
人々の波が出口に向けて、一気に流れ込んでいる。
彼らもその中にいた。
ボクは気になる彼らに目を向け、気持ちを集中させると、心を覗きこんだ。そしたら見えてきた。彼らの心の中が。




