場内放送
『ファンの皆様にお知らせいたします。さきほど落馬いたしました9番マサル号は馬体検査の結果、疲労が著しいため、競争能力に影響が認められます。よってこの競争より除外いたします。尚、9番マサル号に関する馬券――』
放送が流れると場内はざわめいた。
奈々子は放送の意味が分からず、キョロキョロと視線を動かしていた。
とりあえず声を掛けてみる。
近くにいる白いシャツを着た男性に、
「あのー、これってどういうことですか?」
「取り消しです」
白いシャツの男性は、どこかに魂が飛んでいってしまったかのように茫然と立ちすくんでいたが、前を向いたまま淡々とした口調で答えてくれた。
「取り消し……? すいません。初めてなもんで、よく意味が分からないのですが」
遠慮がちに言うと、魂がやっと今戻ってきたかのように、奈々子のほうを向き、
「あっ、えっと、なんでしたっけ?」
「いや、競馬が初めてなもんで〝取り消し〟の意味がよく分からないもので」
「あぁ、そうですよね。要するに9番のマサルという馬はレースにはでないということです。9番に関係する馬券も買った金額がそのまま戻ってきます」
「マサルが……でない」
奈々子の言葉に、男性の口からも言葉がもれた。
「そう。マサルはでないんだ……」
☆
二人の後ろで一人の男が崩れ落ちた。
信一は地面に膝をついてうずくまった。頭の中では目の前の二人の会話が駆け巡っている。
(取り消し……)
勿論、ある程度、競馬を見てきた信一は、放送を聞いて意味は分かった。でも、うまく頭が回転してくれない。意味は分かるけど理解が出来なかった。
すぐ目の前で話す男の生の声を聞いてやっと――
(お金が戻ってくる。お金が戻ってくる!)
急いで胸ポケットを探った。そして、馬券を手にすると、両手で包み込むように抱えた。
☆
貫太郎は放送を耳にすると、マサルのほうに目を向け、「お疲れ」と頭を下げた。
胸には様々な思いが巡っている。それらを抱きしめ、貫太郎はその場を後にした。




