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兄とサエ  作者: 栗栄太
12/23

11 最低最善の友人と最低最善の兄



「 その顔止めろ。死ね冬之助」 

善太郎は今日も憮然としていたが、こっちは唖然としている。

「 だって・・・、お前その時サエちゃんいくつだったんだよ?」 

「 すでに好きだったんだからサエの年は関係ねえ。俺が性に目覚めたてで我慢がきかねえ時期だったのが問題なんだ。お前が男なら分かるはずだ」

善太郎は不貞腐れた調子でそう言った。 

「 ・・・それにしたって、普通必死で隠すだろう?それじゃお前がサエちゃんに欲情してたってばれて当然じゃないか」

子供相手に、お前にさわるとと興奮する、十年後に抱いてやると言ったも同然だ。 

「 サエの年じゃ分かるわけねえと思ったんだろうよ。そん時の俺が」 

「 子供だと分かってたんじゃないか。変態呼ばわりされるもの無理はないな」 

「 呼ばわりしてんのは梅だけだ。サエにはされてねえ。口きいてくれねえだけだ・・・・」 

善太郎は言いながら目の前の台に突っ伏した。


「 やっと気持ちが本気だって伝わったのに勿体無いな」 

「 言うな」 

台に突っ伏したままの善太郎の頭に向って言うと、顔を伏せたまま答えた。

「 大体子供相手に欲情するなんて・・・」 

「 子供にじゃねえ。サエにだ。現にサエ以外の子供に何かを感じたことは今も昔もいっぺんもねえ!」

善太郎が勢い良く身体を起し言った。 

「 いや、普通だからそれ。自信満々に言われてもな」 

「 サエは早熟だったんだ。腹がちっと出てるだけで、身体は俺と同年の女とそう変わらなかったんだよ」 

善太郎はその頃十四、五だったらしい。

もし自分のその年代の頃に、同年の好きな子が抱っこしてと膝に乗って抱きついてきたならと思い返してみる。

「 ああ、まあ、それなら少しは気持ちが分かるかな。・・・少しね」 

「 おめえ、予防線はってんじゃねえよ。男だろ?男の味方しろ」

善太郎ががしと私の肩を掴んで揺さぶった。

「 しかし身体がそうだったとしても、中身は子供だったんだから」 

「 分かってるよ。子供だからさわらねえようにしてたんだろ。おったてたの隠してさわってる方が変態だろうが」 

そう言われて瞬時に納得した。

「・・・・ ああ、賛成だな。口が悪かっただけで、お前の行動はサエちゃんにとって最善だった。サエちゃんも落ち着けば分かってくれるさ」 

「 お前やっぱりいい奴だな。お前梅をどうにかしろ。あいつが俺を変態扱いしてるうちはサエの態度も戻らん」

善太郎は私の肩をばしと叩くといつも通り勝手なことを言った。 

「 いい奴に対してどこまで偉そうなんだよ・・・・」




「 梅ちゃん」 

冬之助様がいらっしゃった。

「こんにちは。冬之助様」 

笑顔ではいらっしゃるけど何かぎこちない。

「 どうなさったんですか?あ!兄さんに言われていらっしゃったんですね?」 

冬之助様が困ったお顔をされておっしゃった。

「 ああ、まあ、そうかな。でもあいつのかわりに弁解する気はないよ。梅ちゃんの話を聞こうかなと思ってね」


私は頬を膨らませて訴えた。

「 冬之助様も兄さんが変態だと思われるでしょう。信じられない。サエをあんな子供のうちからいやらしい目で・・・」 

言いながら涙が出そうになって来た。

兄さんが最低な人間だったことも哀しかったし、何よりサエがそういう目で見られていたことが辛かった。

「 ああ、泣かないで。やっぱり善太郎の話じゃ分からないね。君も随分衝撃を受けたみたいだね」 

冬之助様がよしよしと頭をなでてくださる。

「 泣きません。サエが泣いてないのに私が泣く訳にはいきませんし」 

唇を噛んで嗚咽をこらえる私の口元に、冬之助様が手を伸ばしおっしゃった。

「 噛まないで。サエちゃんは今いないし泣いても良いと思うけど、泣くなら夜にしよう。暗くなったら抱きしめてあげられるからね」 

からかう様な調子でそう言って、落ち着くまで優しく私の頭をなでてくださる冬之助様を、やっぱり好きだなあと思った。


「 サエちゃんは泣いてなかった?」

縁台に腰掛けられた冬之助様が、穏やかな調子でそう尋ねられた。 

「 ええ・・・。ものすごく怒ってましたけど」 

「 今、泣いていると思う?」 

「 うーん、どうかしら。まだ怒ってるかも」 

冬之助様はほっとしたように微笑まれた。

「 君がそう思うなら確かだと思うよ。良かった。善太郎も救われるかも知れないね」 

首を傾げる私に冬之助様がおっしゃった。

「 きっと、君のほうが辛かったんだよ。ふたりが善太郎のことを変態だと感じるのは当然だけど、サエちゃんにとってはその変態性が、嫌われてたと思ってたのに本当は好かれてたってことの証明にもなったわけだろう。辛いばかりでもなかったんだと思いたいけどね」 

「 そうでしょうか?」 

確かにサエは、落ち込んだり兄さんを嫌悪するというよりは、怒り狂っていた。

「 まあ、本人に聞かなきゃ分からないけど。それに君はそれほど兄さんにがっかりしなくても良いよ。善太郎に話を聞いたけど、あいつは善意ある変態だよ。サエちゃんを傷つけないように頑張った変態少年だったんだよ。まあ結果口の悪さと態度の悪さで傷つけてはいるけどね」

私は冬之助様を見た。

「 では冬之助様は、兄さんは悪い人間ではないと思う?」 

「 確かだよ」

「 良かった」 

冬之助様がにっこり笑って言い切ってくださったので、心底安心した。








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