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中途採用の人

お借りしたお題は「補欠要員」です。

 米山米雄、三十五歳。その年にして営業課の課長になったのは異例の出世なのだが、それには理由がある。彼の妻はつい先日就任した新社長の姪なのだ。その強力なコネクションでなれたのである。

 

 そのため、米山は毎日が憂鬱だった。それでも、年上係長だった梶部次郎が次長に昇進したので、少しはホッとした。それを切っ掛けに課の部下達とも次第に交流を深める事ができ、彼の気持ちは少しずつではあるが、安らぎ始めた。


 ところが、課のリーダー的存在であった優良社員の香が、米山の義理の弟である力丸拓海と結婚して、力丸の転勤を期に退職してしまったのだ。そこからまた米山の悶々とした日々が始まった。


 香の退職の前に出島蘭子が同じ課の須坂津紀雄との結婚が決まり、寿退社していたので、米山のショックは大きかった。顔には出さなかったが、胃に穴が開きそうだったのだ。


 そこに更に追い討ちをかけたのが、ようやくまともに仕事をするようになった律子のできちゃった結婚だった。


 米山は思い余って、実情をよく知る梶部に報告した。すると梶部は米山に大いに同情してくれた。


「彼女達が一斉に抜けるとなると、大混乱だね。私も手を貸そう」


 次長職とは飾りのようなものだと実感していた梶部は、かつての営業魂が甦ったのか、現場まで出向いてしゃにむに働いた。


 米山もそれに刺激されて、今まで出歩かなかったのを反省し、部下達と同行した。


 研修を終えた武藤綾子が営業事務に加わり、課は一気に持ち直した。


 米山は胃薬が二箱なくなりかけるほど苦しんだが、何とか先が見えたのでホッとした。


 


 課の情勢がすっかり落ち着きを取り戻した頃。


 部長に昇進した梶部が、一人の中年男性を伴って課に現れた。


「紹介しよう。彼は先日親会社の倒産で連鎖倒産になってしまった建設会社に勤務していた巻貝まきがいつとむ君だ。仕事はよくわかっているから、即戦力になると思う」


 以前、米山が、課のエースである藤崎にたびたび要望されていた人員の補充が今になって叶ったのだ。


(だからと言って、私より年上とは……)


 米山の胃がまたキリキリと痛み始めた。


「よろしくお願い致します」


 巻貝は物腰の柔らかい男で、すぐに藤崎や須坂、杉村達と打ち解けていた。


(羨ましい……)


 米山は自分にない社交性を持ち合わせている巻貝を羨望の眼差しで見ていた。すると巻貝が、


「米山課長、年上ですが、新参者ですので、ビシビシしごいてください」


 大きな声で言ったので、米山は思わずビクッとして、


「あ、はい」


 間の抜けた返事をしてしまった。


(胃薬、また補充しておかないといけないかな……)


 顔を引きつらせて巻貝の話を聞く米山だった。

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