表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅髪の魔女─レディ・ローズ─  作者: 智慧砂猫
紅髪の魔女レディ・ローズと炭鉱の令嬢
54/234

第3話「悪魔の子」

 ペトラの言葉にローズの瞳が難色を示す。


「悪いが、危険を伴う仕事は引き受けるつもりはない」


 かつて一人旅をしていた頃であれば問題はなかった。だが、今はシャルルという仲間、あるいは家族と例えてもいい者がいる。魔法に頼ったとしても、不測の事態が起きないとは限らない以上、危機的な状況に自ら踏みこむ真似は避けたかった。


「そこをどうにかお願いできませんか。事情だけでも!」

「却下だ。命を狙うほどともなれば、大体相手がどんな地位かは予想がつく」


 食い下がるペトラの頼みを断って席を立つ。ローズには指先ほどの同情もない。


「助けたければ自分でやれ。行くぞ、シャルル」

「ええ……? いいの、話だけでも聞いてあげようよ」


 大きなため息が出そうになった。彼女は自分が守られている立場だといまいち理解できていない。いや、もしくはローズならば守ってくれる、必ず助けてくれると考えているのだろう。のんきなところは良くもあり、悪くもある。


「聞いてどうなる、それでも受けないとでも言えばいいのか? だったら今ここで断るのとなんら変わりないどころか、なおさら悪質だろうが」


「そりゃそうかもしれないけど……でもかわいそうだよ」


 今度はため息がもれてしまった。しかしながら、どうにもシャルルに対して甘いところの抜けない彼女は「仕方ない、聞くだけだからな」と、座り直してしまう。


 よほどのことであれば、今度こそ断ってやろうという気持ちは抱えていた。


「ありがとうございます……。どうしてもゾーイ様をお救いしたいのです」

「命を狙われていると分かっているなら連れ出せばいいだろうに」


 ペトラは首を横に振る。がっくりと肩を落として、視線は床のほこりに向く。


「できたら苦労はしません。私たちのように肌が日に焼けたような色をしている者はジャファル・ハシムの出身以外おりませんから、探そうと思えば難しいことではありません。……隠れているつもりでも、ディロイ様は必ず私たちを追ってくるでしょう」


 彼女の挙げたディロイと言う名前にローズが気付く。


「まさかとは思うが……ディロイ・トールキン・カスパールのことか」

「ご、ご存知なんですか。なら話がはやく進みそうで助かります」

「いや、待て。カスパールはジャファル・ハシムの大貴族だろう?」


 カスパール家はローズが過去に取引を交わした相手だ。そのときは単純に、ヴェルディブルグにおける貴族との橋渡し役として依頼を受けただけに過ぎず、大した仕事ではなかったが、いちど関わった人間を彼女が忘れることはなかった。とくにカスパール家当主のディロイは、いつも朗らかで草原を抜ける風のように爽やかさのある初老の男だが、それが作りものであるのを見抜いていたので印象が悪かった。


 もし誰かを殺そうとしているのだとしたら、本当にやりかねない。笑顔の裏にいつも何か真意を握りしめているような、複雑性のある存在。相手が魔女であろうと敵とみなせるだけの度胸を持った、したたか者。あまりに危険が過ぎた。


「いったいどんなヤツを守れって言うんだ。権力のある民衆派の貴族か、それともロクでもない仕事に余計な首でも突っ込んだ馬鹿か?」


 今すぐにでも断りたい気持ちに苛立ちながらペトラに尋ねる。彼女は、その人物を「貴族ではないです、現時点では」と答えてから。


「ただ、実は何年か前からミランドラの炭鉱で働いているみたいなんです」

「現時点では、と。何者なんだ、そいつは。放っておいても早死にしそうだが」


 炭鉱で働く人間で長生きした例を彼女は知らない。少なくとも生きてきた百余年ほどの話では。なにかしらのトラブルを抱えていたとしても、わざわざ殺意の念を抱くことがあるほどなのか? そう疑問に感じた。


 しかしペトラの話を聞いて、彼女の考え方はぐるりと変わる。


「ゾーイ様は優しい方です。でも白い髪に紅い瞳を持った女の子でして……」


 ああ、とローズは納得した。黒い髪に胡桃色の瞳が当たり前のジャファル・ハシムでは不吉の象徴として語られる──実際にどれほど信じていいモノかも分からないが──特異体質を持って生まれた者。彼女は、その名をこう呼んだ。


「なるほどな──〝悪魔の子〟か」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ