番外編:新たな日々9
「ふぅ、どの料理も美味かったな」
「ふふっ、少し飲み過ぎてしまったぞ」
二人して大満足のディナーであった。
船から見る都市の夜景も最高である。
その他にもピアノの演奏などもあり素晴らしい時間だった。
む、どうやらそろそろ下船の時間のようだ。
楽しい時間というのはあっという間である。
「さて、宿に戻ってからが〝本番〟だな? クロノちゃん♡」
おお、見事に酔っ払っておるな。
今のセリフを聞いて隣の紳士が口から酒を吹き出しておる。
【本番と本番とかけたわけですね。さすが元貴族のご令嬢、素晴らしい教養です】
ええい! カレンよ、黙っておれ!
【ちなみにスミレが望んでいるプレイはシェリルとした〝わんわん〟です】
だからやかましいわ!
というかシェリルのやつめ、吾輩たちとの情事を共有しておったのか!?
女同士の隠れた会話というのは恐ろしい……。
【かばんの中に借りてきた首輪も忍ばせているようです】
だからやかましいわ!
◆
翌朝――
「ふふっ、昨日はすごかったな……クロノちゃん♡」
「……そうだな」
目覚めとともに甘い声で話しかけてくるスミレ。
あられもない格好……なだけでなく、その首には例の首輪がしっかり付いておる。
またマニアックなことをやってしまったなぁ……。
「酔っていたし深夜だったとはいえ、首輪を付けてお散歩させられた時はとんでもなくドキドキしたぞ♡」
やってしまったなぁ!?
それはさておき。
「スミレ、出かける準備をするぞ」
「む、そうだったな。ふざけたことを言っている場合ではない。さすがに緊張してきたぞ」
だろうな、何せこのあとはスミレのご両親にご挨拶である。
吾輩も前回のシェリルの時と同じくそれなりにしっかりとした格好をせねば。
ご挨拶に行くというだけで緊張するのに、没落したとはいえ元貴族の方たちが相手であるからな。
「その前に、クロノちゃん」
「む、どうした?」
「少し緊張をほぐしてから行くとしよう♡」
お、正気か?
これからご挨拶なのにおっ始めるのか?
というか、なぜ今度は吾輩に首輪を付けようとしておるのだ!?
「ふふっ、私の方が年上……お姉ちゃんであるということをそろそろわからせてやるっ♡」
【スミレが〝目覚めた〟……気でいるようです。返り討ちにされるのが関の山ですが突き合ってあげましょう】
ええい、だからやかましいわ!
というか最後のイントネーションなんか気になるな!?
……って、うお!?
カレンの相手に気を取られていたら完全に首輪を嵌められてしまったではないか。
よし、返り討ちにしてやろう。
◆
小一時間後――
「さて……出かけるぞ、犬」
「ひゃうっ♡ そ、その呼び方で通す気なのか、クロノちゃん!?」
「なんで犬が人の言葉を話しているんだ……?」
「……っ! わ、わんっっ♡」
おお。鳴いたかと思ったら〝お座り〟まで……すばら――いや、やり過ぎたな。
盛り上がり過ぎるのも考えものである。
というか本当に急いで準備をせねば。
遅刻したら大変である。
どうやら吾輩が興味を失ったのを察したのか、スミレが「くぅ〜ん……」と寂しそうに鳴いておる。
正気に戻さねば。
◆
宿を出てゴンドラに乗り揺られることしばらく――
スミレ家の前に着いた。
意外であるな、綺麗な家ではあるが普通の範疇に収まる規模だ。
考えてみればザックの家に借金してそれを利用されるほどに追い詰められていたのだから当たり前か。
「きききききき、緊張……本当に緊張してきたぞ……!」
「なぜ吾輩よりも緊張しておるのだ」
「い、一生に一度のことなんだぞ! 騎士隊長とはいえ、この前クロノちゃんと自主規制! するまでは処女だったんだぞ!」
実家の前で何を大声で言っておるのだ!
それはさておき。
「よし、行くとしよう」
「う……よし、いくぞ!」
む、スミレが震える声で手を握ってきた。
……彼女に恥をかかせぬよう、そして恥ずかしくない男でいられるよう改めて努めよう。
◆
「クロノさん、よく来てくださいました」
「わたくしたちの娘をどうかよろしくお願いします」
家に入った瞬間、朗らかなご両親に暖かな言葉で迎えられてしまった。
「お、お父さま、お母さま、私はまだ話があるとしか……!」
「スミレ、お前から話があると聞いた時から何となくわかっていたさ」
「ふふっ……男勝りなあなたが、まさかこんなにも早く素敵な旦那さまを連れてくるなんてね」
素敵な旦那……
そんなふうに恋人の母君から呼ばれるのは何というかこそばゆいな。
「クロノさんはこの都市の英雄だからね。その強さ、そしてその人柄はどこでだって噂になっている。まぁ、有名勢というべきか、変な噂を流す者もいるいたいですが……」
「む、お義父さま、変な噂……ですか?」
「……! お義父さま……素晴らしい響きだね。……ああ、すみません、噂についてですが、ちょうど今朝近所の人から妻が聞いてね」
「ええ、何でも昨日の深夜、クロノさんが女性に首輪を付けて散歩をさせていたとか……有名税とはいえ、あんまりな噂でびっくりしてしまいました」
ほんっっとうに申し訳ない!!
おい、スミレは何を頬を染めて太ももをもじもじとさせておるだ!
見ろ! ご両親が((え、まさかこいつら本当に……??))みたいな目を向けてきておるぞ!
【めっちゃ面白いですね】
は? カレンお前今ナビゲートというかただの感想言わなかったか!?
バカにしてるだろ!
……いや、今はこやつの相手をしている場合ではない。
話題の舵を切らなければ……!!
「お義父さま、お義母さま、改めて本日はお時間をいただき感謝する。改めて、スミレを吾輩の花嫁としていただきたい。一生をかけて幸せにすると誓う」
「う、うむ! 実に男らしくて素晴らしい、さすがこの都市の英雄!」
「そ、そうね、あなた! スミレを本当に素敵な旦那さまを見つけましたね!」
うむ、かなり無理やりではあるが丸め込むことに成功したようだ。
【ご挨拶成功おめでとうございます。このあとは性交ですね】
ええい! カレンよ、本当に黙っておれ!
それはさておき。
せっかくだからとご両親に食事に誘われ、昼食をともにさせていただいた。
スミレの子どもの頃の話やら何やらを聞くこともでき、充実した時間であった。
◆
その日の夜――
「ふふっ、今夜もたくさん可愛がってくれ、愛しの旦那さま……♡」
ベビードール姿で、甘い声を漏らしながら誘ってくるスミレ。
旦那さま……か。
ご両親に認められたのが本当に嬉しかったのだな。
もちろん、嬉しいのは吾輩も一緒である。
しかし、いくら嬉しいとはいえ昨夜のように羽目を外し過ぎてはいかんな。
まさか誰かに見られていた上にご両親にまで伝わるとは思わなんだ。
今夜は真面目に(?)楽しむと……
「だ、旦那さま……」
「む、どうした? スミレ」
「こ、今夜もお散歩に連れていってほしい……わん♡」
いかん、完全に〝目覚めて〟しまっておる……!
これにてスミレパート終了です。
次回はアリアフィーネたちと合流してわちゃわちゃ予定でございます。




