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十章 第一話 五年という月日

じめじめと雨が降り続く雨の日。城下に一軒だけある楽器店は、繁盛しているわけでも、人気がないわけでもなく、五年前と同じようにたたずんでいた。しかし、ガラス戸には『open』と書いてある札が下がっているにも関わらず、客は人がいなかった。

店の中には三人の人間がいた。一人はだらしなくカウンターに寝そべっており、一人は黙々と掃除をしており、一人は作業に飽きたのか作りかけのトロンボーンを横におき、机にうつ伏せて眠っていた。

「どうする?今日はもう誰も来ないよ」

掃除をしていた黒髪の女性がカウンターの方に声を掛けた。が、誰も返事をしなかったので

「ねぇー!!聞いてるの?!」

今度は少し声に怒りを込めて叫んだ。すると作業を放り出していた金髪の男性が勢いよく起き上がった。

「えっ、な、なに?!」

あたふたとしながら質問をした。すると女性は呆れ気味に

「今日はもう、誰も来ないと思いますよ、雨だから!!」

と言った。

「だったら札を『close』に変えていいのに、シロイラ」

「その権限を持ってるのはハルヴィンさんなんですけど」

その言葉にハルヴィンはすごすごと起きだし、ガラス戸の札を裏返しにした。

「ほら、ヒロガも起きる!!」

ヒロガはあからさまに迷惑そうな顔をして、頭を上げた。そしてカウンターに戻ってきたハルヴィンに声を掛けた。

「ハルヴィンさん、またやられたんすか?」

「…ヒロガも最近、生意気になってきてない?」

ハルヴィンは少し怒りのこもった声で返した。



レールド王国史上最悪の内乱から約五年。ヒロガやシロイラなど当時を知る兵士で、いまだ軍に残り続けているものは僅かとなっていた。

あの日の裁判終了後、シロイラが団長、ハルヴィンが副団長、ヒロガが兵士長をそれぞれ務めることになった。三人が率いる新兵士軍は、内乱軍が拠点としていた場所を次々に殲滅していった。最終的にはシルが生まれ育ったと言っていた、元ラニューカ王国の城に攻め込んだ。城には王と妃と名乗るものが住んでいた。彼らを捕らえた兵士軍はいくつかの質問をした。質問の内容は、何故何百年にもわたって内乱を起こし続けたのか、結局シルは何者だったのかなどだった。

ある日、それらの質問を長老であろう人にぶつけた時だった。今まで誰もわからなかった質問の答えを知っていたのだ。

「ほう…カシミアか…。あれはシルの話した中で、唯一嘘でないと言い切れる部分じゃ。カシミアとハイザントは実在の人物じゃ」

そういって長老はハルヴィンを見た。

「そこの青年がハイザントにそっくりなんじゃ。確かわしの家にカシミアとハイザントの肖像画が残っておったはずじゃ」

「シルとカシミアの関係は」

「…シルは、フィオラティス家であることは本当じゃ。ラニューカ王国の生き残り。けれどもカシミアの生まれ変わりではない」

その後も調査は続いたのだが、それ以上の情報は得られなかった。



「そういえばハルヴィンさん、留置所で何があったのか、いい加減教えてくださいよ」

紅茶の入ったマグカップを両手持ちしているシロイラがハルヴィンに話しかけた。席について食事を待っているシロイラに対し、ハルヴィンは夕御飯の用意をしていた。スープをかき混ぜるハルヴィンの横で、ヒロガはジャガイモの泥を落としていた。

「こ…この、イモォ…」

しかし、たかがイモごときの泥に苦労していた。それを見かねたハルヴィンがイモを取り上げて泥を落とした。

「もう五年は教えてるのに、なんで二人とも料理できないかな」

ハルヴィンはため息をついた。

「む、無視な上に、私は多少はましになりましたよ!!」

「無視じゃないって。あと、塩と小麦粉間違える人に言われたくない」

言い返したシロイラにハルヴィンが冷静に返した。ハルヴィンの台詞にヒロガは「あぁ」と苦い顔をした。

先日、シロイラが食事を作ったのだが、それはクロイラの妹であることを疑うものだった。シロイラはムニエルと塩サバという謎の魚料理づくしを作ったのだが、ムニエルには小麦粉ではなく塩をまぶし、塩サバには小麦粉を大量にぶちまけるという珍料理を作った。勿論、味は最悪だった。

「それでよく二人は結婚したね」

ハルヴィンは皮肉を込めて言った。

実は三年前に二人は結婚していた。当初、報告されたハルヴィンは兄と姉が死んでおかしくなったのかと思ったのだが、全く違った。二人の言うには、空から二人の名が書かれた婚姻届が降ってきたそうなのだが、ハルヴィンは全く信じていなかった。式はまだ上げていない。二人は「まだ終わった気がしない」と言っていた。



「教えてくれないんですか?」

ご飯を食べながらシロイラはまたハルヴィンに尋ねた。ハルヴィンは難しい顔をした。

「そんなに気になるの?」

シロイラは肉じゃがに入っている人参を人の皿に移そうとしているヒロガの手を叩き、再びハルヴィンに話しかけた。

「はい、気になります」

ハルヴィンは自分の皿に入れられたヒロガの人参を返してから、シロイラに返した。

「…まあ、五年たったしいいか」

「二人とも人参どうにかしてほしいっす…」

「「うるさいよ、ヒロガ」」

ハルヴィンは留置所での出来事を話始めた。


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