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八章 第三話 裁判の翌日

裁判の翌日、家に帰り眠っていたシロイラは目を覚ました。内乱で怪我をした日からずっと帰れていなかったシロイラにとって、家のベッドで眠るのは久しぶりだった。上半身を起こし、部屋を見渡す。部屋にはシルのものがたくさん残されていた。机の上には化粧品、本棚にはシロイラには難しい本、壁に掛けられたマントやコート。それだけでなくシルの大切にしていたアクセサリーでさえも残されていた。このあと、これらはどうすればいいのだろうとシロイラは考えた。シルのことは殺してしまいたいくらい憎かった。しかし、ここで暮らした9年分の思い出が邪魔をした。あにだったらどうするのだろう。シロイラは思い出して涙を流した。

どのくらい時間が経ったのだろう。気がついたようにシロイラは時計を見た。時刻は午前6時。いつもなら起きて開店準備をするのだが、三人だけだとお店は出来るのかわからない。シロイラは再び眠ろうとベッドに横になり目を瞑ろうとした。

『ガサッ』

紙を押し潰したような音が部屋に響いた。紙の音はベッドの枕元から聞こえたが、シロイラはそこに何かを置いた記憶はなかった。顔をそちらに向けると横に茶色の紙袋が置いてあった。

(こんなもの、うちにあったっけ)

再び上半身を起き上がらせたシロイラは、袋の中を覗いた。



シロイラとシルの部屋の隣、つまり男子組が寝ている部屋で、ヒロガは目を覚ました。確か昨日は裁判所の控え室で眠ってしまったな、と思い出した。首を捻り、あちこちをみると、自分達の部屋だということを理解した。ヒロガはベッドから立ち上がろうとしたが、「ウッ」と声をあげて座り込んだ。どうやら足を痛めているようだった。するとヒロガはストレッチを始めた。

ストレッチをしていると、クロイラのベッドが見えた。ヒロガは普段からストレッチをする方なのだが、ヒロガが起きた後にクロイラも起きるのでいつも一緒にやっていた。ヒロガはふとストレッチを止めた。周りに目を向けると少ないクロイラの私物が目に入った。クロイラは無駄に物を買うことはなかったので、置いてあるものこそ少ないがやはり目に入ってしまうのだ。ヒロガの視界が霞む。思わず目をそらし、ゴシゴシと目を擦った。顔を天井に向けて「はぁー」っと息を吐き、

「もう泣かないって決めただろ」

と誰もいない部屋に呟いた。しかし、その声は誰に届く訳でもなく、壁に吸い込まれるように声は消えていった。

ヒロガは扉を見た。そこに紙が一枚貼ってあった。

『留置所行ってくる。朝ごはんよろしく』

紙にはそうかかれていたのだが、ヒロガはかなり時間をかけて読んだ。

「ハルヴィンさん、字汚いから走り書きやめてほしいっす…」

そう呟いたヒロガは台所へ入り、朝ごはんを作り始めた。



袋の中身を見たシロイラは「あっ」と声を上げた。なくしたはずのイラが入っていたのだった。自分のものとクロイラのものが入っていて、シロイラは何だか懐かしくなり思わず微笑んだ。

「リオナさんに貰ったんだよね」

イラを袋から出すと、クロイラの衣類が入っていた。シロイラは驚いた。てっきり、亡骸と共に埋葬されたとばかり思っていたからだった。そして、シロイラは兄との思い出を思い出していった。



しばらく思い出に浸っていたシロイラだったが、焦げ臭い臭いが漂っているのに気付き、ハッと我に返った。涙を拭い冷静に考える。しかし、火事という可能性があり、シロイラは慌てて部屋を飛び出した。階段を駆け下りると一階には黒い煙が漂っていた。煙の元を辿ると台所が発生源であることがわかった。シロイラが台所に駆け込むとそこには、フライパン片手に泣きそうな顔のヒロガが立っていた。

「シ…シロイラさぁん…」

シロイラはフライパンの中身を見た。そこには黒焦げの目玉焼きと炭のようになったベーコンが入っていた。

「ハルヴィンさんが、朝食よろしくって…」

するとシロイラは怒らずに、ヒロガの頭をよしよしと撫でた。

「朝食、作ろうとしてくれたのよね」

「うぅ…でも、作るの初めてで…シロイラさんも料理苦手っすから…」

シロイラはヒロガを慰めながら片付けを始めた。換気をするために部屋の窓を開けてまわった。コンロの周りには割るのに失敗した卵が沢山落ちていた。シロイラは一つ一つ丁寧に拭き取り、殻を箒ではわく。クロイラがいつも言っていたように、シロイラは料理以外の家庭科は出来るので、案外直ぐに終わった。ただ、ベーコンが焦げ付き剥がれなかったフライパンは捨ててしまった。

「さて、ヒロガ」

「はい」

「私とヒロガは料理ができない。いつも用意してくれたお兄ちゃんはいない。答えは?」

「俺たち、朝食抜きっすね」

台所に二人のため息が響いた。






朝早く、出掛けていたハルヴィンは今出てきた留置所を見上げた。外にまで聞こえるバカでかいサイレンが鳴り響いていた。ハルヴィンはゆっくりと帰路についた。


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