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講評、出ました。連絡お待ちしております



『………………

 と、今回もかなりの力作が多数寄せられましたが、惜しくも大賞の該当作品はありませんでした。あと少し、というものは多かったのですが、どれも決定打に欠けていた、つまり、作品独自にキラリと輝く何かがやや不足していたのでは、との意見がほとんどでした。


 そんな中、別の意味で目を引く作品がありました。ここで冒頭の一部を御紹介します』



『タイトル 転校生は棒棒(Bang-Bang)ジェイ!  作・KA☆NA☆CO


 それは、恋。

 であった。


 貴美子・フォン・ダライラマⅢ世はその四つ角で彼と衝突した。

 その時……彼女のプラグにラヴの火花がとんだのであった。


 今朝が来た。

 いつものごとき一日が始まる。貴美子はショッキングピンクの目ざまし時計を手探りして、目の前に持ってくる。


 目覚まし時計の針は、七時四十分を指していた。


「南無三!」

 叫んで飛び起きる。「ママ、大変トースト焼いてちょうだい! 初日で遅刻よっ」


 キミコは今日から通うことになる、聖カタストロフィ学院の制服をあわてて壁からひきはがす。


 やや紙面を割いて娘の様子を語るとしよう。彼女は長い髪を耳の上で切りそろえそれをツイン・テールに結んでいた。目は二つ鼻はひとつ可愛い穴は二つ空いて口もあった。

 次、制服。ピンクのブラウスは春霞のごとき、ジャケットは黒のオストリッチ、ミニスカートは緑の美濃和紙でできていた。ふわりとフレアーが春の風にそよぐ。和紙なのに。

 何故かはわからないが、次章でその謎が解ける予定である。大あわてのまま、彼女は((編集部注:詳細中略))ブラウスに腕を通す。そしてそのまま0コンマ三秒で階下のキッチンに到着。言い忘れたが彼女には特殊能力がある。瞬間移動と見つめたネコの柄を瞬時に変える技。今は役に立てていない。後に火星人が大挙して押しかけた時に真の威力を発揮することになろう。特に猫の柄チェンジは。


 ママがちょうどミディアムに焼き上がった食パン一斤の1/6をフリスビーの要領で投げよこす、階段の一番下の段からハイジャンプを見せて娘は見事、ダイビングキャッチ。

「ひっへひはーふ」

 きっちりと食パンを加えたまま、娘は玄関から飛び出した。


 ダッシュ、ひたすらダッシュあるのみ。瞬間移動をすればよいのに。


 事件は、自宅から三百メートル先の住宅街、とある十字路で起こった。


  どっし~~~~~ん!!!


「あいだだだ~~~」食パンはがっちりくわえたまま頭をさすっている。 

「おいっ、オマエっ!」高飛車な声が頭上から降り注ぐ。

「どーしてくれんだよ、制服がドロドロじゃねーか!」


 ふと顔を上げると、背の高さは貴美子より頭1つと半は大きい、すらりとした黒のオストリッチのブレザーに美濃和紙のネクタイ、そう、同じ学校の生徒だ。

 きりっとしたイケてる顔は、今は怒りで歪んでいる。

「この制服高いんだぞ、あれオマエ」

 同じ制服だよな、でも誰? みたいな顔をしている。

 自分の不注意を棚に上げてなによこのオトコ、貴美子もムショウに腹がたってくる。

「ごぅらこのヴォケェェェェっ」つい巻き舌になる。

「そっちこそどこに目ぇつけてやがる! この腐ったブタマンジュウの銀蠅ゴロシめ!」

「な……なんだとぉ?」相手もかなり腹をたてたようだ。

「オマエこそどこのどいつだ、この一文字家第十六代当主・一文字影近いちもんじかげちかさまに向かって」

「それがどーしたこの……(編集部注:ここから悪態を1頁分略)


 そして彼女はようやく聖カタストロフ学院・二年磔(はりつけ)組の教室に到着した。

 走りに走って、心臓はバクバク、頭痛がして胸痛が痛い。

「あ、ちょーど着いたのね~」

 教壇に乗っていたアマガエルが転がるような声で叫ぶ。このクラスの担任・ケロリンだった。

 服はない。カエルなので全裸での勤務が許されていた。

「みんな~~、てんこーせーだケロよ~~」

 あっっ! 教室の一番後ろから大きな叫びが聞こえた。「オ、オマエはっっっ!!」

(編集部注:以下略)』



 アタシはあぜんとしたまま、講評を読み進める。



『……何と評価していいのか、更に言えば、評価してもよいのかどうか、まず目を通してしまったことが間違いなのでは? とまで思わせるインパクトでした。

 しかしここは強調したいのですが、これは、ラノベのコンテストなのです』


 分ってるって、そんなコト。

 アタシの目の前が涙でにじむ。確かに、読んではもらえたようだ。しかし、何この講評。しかもよりによって、アタシの傑作をやり玉にあげて。

 ……まだ何か書いてある、何よこの編集。何だって?


『KA☆NA☆COさん、まず国語、現国の授業をきっちりと受けましょう。そして、老婆心かも知れませんがご両親を大切に、そしてご飯はきっちり一日三食、早寝早起きを心がけて下さい。それから原稿に御住所と本名が明記されておりませんでした。ルールには反しますが、ぜひこの原稿だけはお返ししたいので御一報いただけますでしょうか』


 あの編集者だ!! 

 アタシはぴょん、と椅子から飛び上がる。

 これ、アレじゃん? 名前は……タ・ケ・ダ??


 ドユコト? 返したい、って? 連絡くれ、って? 逢いたいってコト? アタシに?

 あわてて●●社の代表番号にかける。


「あ、あ、あああの「きら☆メキらいと賞」の担当の方、お願いします、あの、カ・ナ・コ、と申します。原稿について確認したい、とお聞きしまして」


 転送、転送また転送を繰り返しいろんな電子音の曲を聴かされて最後にざわついたオフィスの喧騒の中「えっ、あの『カナコ』から電話? うそっしょ」「あの原稿、持ってると……れるってヤツしょ、主任がランチに出た時、車が……きて」「一時預かってたマルちゃんもさ、……たよなあれ」そんな会話が切れ切れに聴こえた、ような聴こえてないような。


 アタシの頭の中では、すでにご都合主義変換終了。


 イケメンあごひげの編集タケダがにっこりとほほ笑んで立っていた。

 両手を拡げて。

 そして背中には赤い薔薇の花束を隠して。

 彼は言う。


「おいで、ベストセラー作家・カナコ。マイ・ハニー」


 それは、恋。

 であった。





 (おしまい)

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