第七話 何者にも侵されぬ絶対の安息地 ~ラストリゾート~
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「ヒデタカ殿、軍が新たな魔導書の情報を入手したので、確認して欲しいのであります。」
ライナーがそんなことを言い出した。
冒険者の格好をしたライナーは、実は帝国軍の情報将校であるヴェルマン少尉である。
秀隆が探している終末魔導書を、反社会的な魔術結社である『黄金の無花果』が狙っているという情報があり、その黄金の無花果の捜索のために冒険者のふりをして秀隆達に同行していた。
ヴァイサーバーグでは黄金の無花果の幹部の一人であるオットーと対峙し、そのテロ行為を防ぐことに成功した。
しかし、黄金の無花果の活動がそれで終わったわけではない。
幹部であるオットーが単独で魔導書を探していたように、他のメンバーもそれぞれに魔導書の探索を行っていると思われた。
軍による黄金の無花果の捜査は続行中である。
ただ、オットーの一件を経てその重要性、緊急性が上がったようだ。
彼らの探し物が普通の魔導書ならばまだよかった。
一般的な魔導書ならば、危険な魔術が記されていたとしても習得するには時間がかかるし、資質が無ければ習得できないことも多い。
だが、異界黙示録――終末魔導書ならば呪文を読み上げるだけで魔法が発動してしまうのだ。
そして、発動してしまえば甚大な被害が発生する可能性が高い。
そのことを肌で知ったヴェルマン少尉は、もうしばらく秀隆達との同行を申し出ることにした。
元々、氷に閉じ込めたオットーから終末魔導書を回収する時期を半年後としたことから、それまでの間連絡を取り合う必要もあった。
終末魔導書を探す秀隆達は、黄金の無花果とぶつかる可能性が高いという判断もあった。
そして、万が一敵が終末魔導書の魔法を使用した場合、秀隆の知識があれば対処できるかもしれないという期待もあった。
帝国軍が秀隆の知識と魔法を利用しようとしているわけだが、そこで見つけた終末魔導書は貰える約束になっているので秀隆にも損はなかった。
こうして、秀隆はもうしばらくライナーと行動を共にすることになった。
ただ、行動を共にすると言っても、常に一緒にいるわけではない。
時々ヴェルマン少尉としての仕事を行うために別行動を取ることがある。
そこで帝国軍と接触し、新たな情報を仕入れてきたのだろう。
「ここから南に行ったところにツヴェルブルグという街があります。
その街にはアイスナー家と言う古い名家がありましたが、何代か前の当主が不正を行い公職から追放されるとそのまま没落しました。
没落したアイスナー家は再興を果たせないまま細々と存続していましたが、先日最後の当主が跡継ぎのいないままに病死したことで完全に断絶しました。
アイスナー家には多額の負債がありましたが、何分古い名家であります。値打ち物もあるのではないかと債権者が遺品整理を行いました。
すると、不思議な図形とだれにも読めない文字が書かれた紙片が厳重に封印された状態で発見されたのであります。」
「ふむ。つまりその紙片が終末魔導書であるかもしれぬということじゃな。」
「その通りであります。危険な魔導書の可能性があるとして、軍からの要請で売却を待ってもらっているのですが、近隣に魔導書に詳しい魔術師が不在なのです。そこで、ヒデタカ殿に鑑定をお願いしたいのであります。」
「それで、本物の終末魔導書だった場合、いただけるのじゃろうか?」
「軍から提供することはできませんが、債権者から購入する分には問題ありません。」
「ならば、問題ないかのぉ。」
ヨハン・ライエンの遺産を受け継いだ今の秀隆は、かなりの金持ちだ。
競売になって天文学的な値が付いたのならばともかく、債権を回収したいだけの債権者から遺品を買い取るだけならば問題ないだろう。
秀隆は、ツヴェルブルグに向かうことにした。
◇◇◇
「ここが、アイスナー家の屋敷、なのか?」
アンジェリカがやや呆然とした感じで言う。
「そのはず、なのでありますが……」
ライナーも自信なさげに言う。
「見事になぁんにもないのぉ。」
秀隆は、ちょっと呆れた感じで言う。
「何かえぐり取られた跡みたいですね。」
ルーカスはちょっと冷静に分析してみた。
「一足、遅かったようじゃのぉ。」
改めて、秀隆がそう言った。
この場所はアイスナー家の敷地内であることは間違いない。
没落したとはいえ、古くから続く名家だったのである。街の人に道を尋ねれば、誰もがここだと教えてくれる。
塀も門もあったし、門から入ればきれいに手入れされた庭もある。
少し離れたとこれには、離れや蔵と思われる建物もあった。
ただ、母屋に相当する建物のあるはずの場所にあるはずの建物が存在しない。
そこにあったのは、すり鉢状にえぐられた地面、その端にわずかに残る建物の残骸らしき瓦礫のみ。
何らかの方法で、建物を地面ごと削り取ったように見える光景だった。
そんなことができるのは……
「状況を確認してくるので、しばらく待っていて欲しいのであります。」
ライナーが、大慌てで配下の兵士に指示を出す。
「それにしても、奇妙な光景じゃのぉ。まるで冒険者が軍人を顎で使っているようじゃ。」
一般に軍と冒険者は仲が悪い。一部仕事のかぶる部分がある両者だが、その仕事の進め方が異なるため相性が悪いのだ。
大規模な魔物討伐などで軍と冒険者が協力することもあるが、分担を決めて別々に行動するか、軍が冒険者を雇う形になることが多い。
冒険者の格好をしたライナーが軍の兵士に指示を出して動かしている光景は、だからとても奇妙に映るのだ。
◇◇◇
「昨日の午前中に債権者と管財人が遺品の整理を行いに来た際には屋敷に変わりはなかったそうです。しかし、夕刻になっても戻ってこなかったことを不審に思った債権者の家族が訪ねてきたところ、屋敷が無くなっていたとのことであります。」
ライナーは、軍の人間から聞き出した情報を秀隆達と共有した。
事件が発生したのは前日であり、軍――現地の衛兵はある程度調査を進めていた。
事件のあった屋敷は衛兵の手で封鎖されていたのだが、冒険者の格好をしていたライナーが帝国軍のヴェルマン少尉であることを確認するとそのまま通されたのだった。
ヴェルマン少尉が向かうことは通達されていたが、タイミング的にこの事件を知って調べに来たのだと思われて、事情説明抜きでそのまま現場に通されてしまったのである。
ちょっとした情報の行き違いがあった。
「それから、昼過ぎに屋敷を訪れた者が目撃されています。数日前からこの街の者ではない不審な男がアイスナー家のことを調べて回っていたとの報告もあります。おそらくは同一人物でありましょう。」
「今のところ、怪しいのはそ奴じゃのぉ。」
ツヴェルブルグの街は、歴史は古いが地理的には帝国内でも辺境に近い――つまり、田舎である。
繁華街の辺りならばまだしも、住宅街に出入りする人間は限られていた。没落した名家ならばなおさらだ。
没落し、断絶した古い家に用のある者と言えば、債権者や昔からの付き合いるある人間でなければ、遺品に興味を示した者くらいだろう。
例えば、魔導書の一部かもしれない紙片とか。
この時点で秀隆の頭には、「黄金の無花果の者が魔導書のうわさを聞きつけて屋敷に乗り込み、終末魔導書を見つけたものの軍から売却を待つように言われていたため債権者は譲渡に応じず、魔法を使って強引に持ち去った」という筋書きが浮かんでいた。
言葉には出さないものの、ライナーも同じことを考えているのだろう。
「ヒデタカ殿、魔導書を使用してこのようなことが可能なのでありましょうか?」
「……可能か不可能化で言えば可能じゃな。終末魔導書の魔法ならば、この規模の破壊は造作もない。じゃが、具体的に何の魔法が使われたのかまでは判断が難しいのぉ。」
終末魔導書の魔法ならば、屋敷を跡形もなく破壊するくらいのことはどの魔法を選んでもだいたいできる。
できない魔法の方が少ない。
だから、特定することが難しかった。
特に今回は特徴的な痕跡が残されていなかった。
例えば、神罰の大水の水で押し流したのならば、どこかに大量の水が残る。
氷結世界で凍結させたのならば、凍り付いた屋敷が残る。
そうした分かりやすい痕跡を残さず、ただ破壊された状態だけが残っているだけの状況が判断を困難にしていた。
終末魔導書に関して秀隆が一番詳しいことは間違いない。
しかし、それはあくまで設定を知っているという知識でしかない。
実際にその魔法を使うと何が起こってどうなるのか?
秀隆がその目で見て体験したのは、この世界に来てから自分、あるいは他の人間が使用した一部の魔法に過ぎなかった。
痕跡から魔法を特定するには、秀隆は経験が不足していた。
……経験の足りている人などいないのだが。
「それに、魔法が使われたことに街の人間が気付いていなかったことも気になるのじゃ。終末魔導書の魔法はどれも派手じゃからのぉ。」
終末魔導書の魔法は、基本的に威力過剰、演出過剰である。
巨人の一撃ならば屋根より高い巨人が現れるし、落日の妖星ならば空を裂いて飛来する隕石が衝撃波を撒き散らす。
他の魔法にしても、影響範囲が屋敷内に留まる保証のないものばかりだ。
閑静な住宅地であっても人はいる。そんなに派手で異様なことが起これば誰かが目撃して話題になるだろう。
だが、可能性がないわけではない。
秀隆ならば、魔法の威力や範囲を最小限に絞ることもできる。
使用する魔法の種類によっては、影響の範囲外、直接見ていない人には気付かれないほど静かに発動することも可能だった。
ある種の高等技術であり、意図的にそんなことができるのは秀隆だけだろう。
だが、魔法に対する理解不足、熟練度不足で魔法が発動するものの威力や規模が縮小する形で失敗する場合もある。
つまり、意図しないままに終末魔導書の魔法をあまり目立たない形で使った可能性もあるのだ。
「何かアーティファクトを使用している可能性も考慮すべきでありますな。」
オットーの時はアーティファクトの力で出し抜かれてしまったのだから警戒するのは当然だ。
魔術結社黄金の無花果がどのようなアーティファクトを保有しているかは分からないのだ。
ただ、何をどう警戒すればよいのか分からない状態なので、ある意味無駄な警戒である。
「現在、屋敷を訪れた人物の似顔絵を書いて探しているのであります。その者の話を聞ければ捜査は進展すると思われますが……不用意に接触しないように通達しておいた方がよいかもしれません。」
その時、衛兵が一人駆け込んできた。
「大変です、アイスナー家と同じような破壊跡がもう一ヵ所見つかりました!」
◇◇◇
俺の名はロルフ。ロルフ・ヴィルケ・ベーメン。
魔術結社黄金の無花果の下っ端だ。
黄金の無花果は魔術結社であり、政治結社でもある。
かつて帝国に呑み込まれたファイゲ王国の貴族たちが集まって、帝国を打倒してファイゲ王国を復活させようとする組織だった。
だが、ファイゲ王国が滅びたのは、ひい爺さんの時代のことだ。
旧ファイゲ王国の民の子孫だって、今となってはそんな古い国の復活なんて望んではいないだろう。
特権階級から引きずり降ろされた一部の貴族を除いて、多くの者が以前よりも豊かに暮らしているのだ。
幹部連中が何を考えているのかは知らないが、今更滅びた王国を復活させることなど無理だろう。
設立当初はともかく、今の黄金の無花果は単なる危険な犯罪者集団だ。
そんなことを言うと、「その黄金の無花果の一員が何を言う」と怒られそうだが、俺だって何も好き好んでこんな組織に入ったんじゃねぇ。
俺の親が黄金の無花果のメンバーだったんだ。
黄金の無花果が結成されたのは、ファイゲ王国が滅び帝国に支配された後のことだった。
当時、反帝国を掲げる組織はいくつも作られたらしい。
帝国に支配された土地で反帝国を掲げる組織は最初から非合法であり、公然とメンバーの募集を行うことはできない。
特に黄金の無花果を結成した初期メンバーは特権を取り上げられて不満を持つ旧王国の貴族たちであり、民衆からの支持がなかった。
民衆に慕われるように貴族は、帝国による支配を円滑に行うため、積極的に旧ファイゲ王国各地の領主などに登用されていた。
民衆の支持のない黄金の無花果は、慢性的に人材不足だった。
魔術結社になったのも、少ない人員を強力な魔術で補おうとしたためらしい。
だが、時間が経つにつれ、新たな問題が浮上する。
人はいずれ老いて死ぬ。
メンバーが老いて引退すれば、死んでしまえば、逮捕されてしまえば。
補充の気かない組織はどんどん先細りしていく。
ひい爺さんや爺さんの代で決着を付けられなかったために発生したこの問題を、黄金の無花果では実に貴族らしい方法で対応した。
黄金の無花果のメンバーの子供は、無条件に黄金の無花果の一員となる。
親の跡は子が継ぎ、家の繁栄を最優先にする。
自由な人生など存在しない。それが貴族に生まれた者の定め。
……俺たちはとっくの昔に貴族ではなくなったはずなんだが?
ファイゲ王国の貴族に返り咲くことを夢見るベーメン家に生まれてしまった俺に、生き方を選択する自由はなかった。
黄金の無花果には明確な上下関係が存在する。
その基準は、旧ファイゲ王国時代の家格だった。
爵位の高い家の子供は、生まれた時から幹部候補であり、組織内での地位は約束されている。
……まあ、本気で影響力の大きい大貴族は帝国としても何らかの手を打っているので、元伯爵家あたりが威張っているのだが。
一方、家格が低くても魔術師として優れていれば重用される。
だから、黄金の無花果の子供たちは、みんな必死になって魔術を学ぶ。
俺の生まれたベーメン家は旧王国時代には男爵家で、組織内の地位は低かった。
俺は必死になって魔術の勉強をした。強制的にさせられた。
だが、俺には魔術の才能がなかった。魔力も少なく、どう頑張っても魔術師には成れそうになかった。
家格が低く、魔術の才能もなく、ついでに長男ではないので家を継ぐ必要もない。
そんな俺は、組織内でも下っ端中の下っ端。いつ死んでも構わない最下級の下働きだった。
親からも早くに見限られ、しかし、そのおかげで洗脳じみた教育を受けずに済んだ。
ついでに、様々な雑用で黄金の無花果以外の者との交渉もあるから、組織のことを客観的に見ることもできた。
世間一般の目から見れば、黄金の無花果の連中は異様だ。はっきり言って狂っている。
ファイゲ王国を再建することを至上の命題とし、そのためならばあらゆる悪事は正当化され、人殺しすら厭わない。
正直、こんな組織からは抜け出したいのだが、当然そんなことを許す組織ではない。
いっそ自首してやろうかと思ったこともあるが、そんなことをすれば命はない。
黄金の無花果は裏切り者を許さない。
普段は俺達下っ端を「役立たず」と酷い扱いをするくせに、当然のように過剰な忠誠心を要求し、裏切ったと見増せば全力で殺しに来る。
そうなると、親兄弟でも庇うことはない。むしろ、「家の恥」だとか言って積極的に襲ってくる。
特にヤバいのが、幹部連中だ。
奴らは幼少期から魔術の英才教育は当然して、黄金の無花果で開発した秘伝の魔術を伝授されたエリートだ。
さらに、一部の幹部にはファイゲ王国滅亡のどさくさに国の宝物庫から持ち出されたアーティファクトが与えられているという話だ。
以前ドジを踏んで捕まった下っ端が、口封じのためにアーティファクトを持った幹部に獄中で殺されたことがあった。
これでは、自首する代わりに安全を保障してもらっても全く安心できない。
(俺達下っ端は、いつ誰に殺されるかと怯えながら、ただ命令に従うしかない。)
色々と諦めて生きていた俺たちに、黄金の無花果から新たな命令が下された。
伝説の魔導書『異界黙示録』の探索。
最初に聞いた時は耳を疑った。
異界黙示録と言えば強力無比な魔法が記された魔導書として有名であり、数々の逸話は話半分と割り引いて聞いても黄金の無花果が開発した秘伝の魔術を軽く上回る威力だ。
戦力として強大な力を求める黄金の無花果としては喉から手が出るほど欲しい物だろう。
だが、その一方で『幻の魔導書』と呼ばれる程に探し求めても見つからない魔導書としても有名だった。
黄金の無花果としては、何処にあるかも分からない意魔導書を探し求めるよりも、自前で強力な魔術を作る方針だったのではなかったのか?
どうやら、何やら有力な手掛かりを見つけて方針転換したらしい。
しかも、幹部が直接魔導書の入手に動くと言う力の入れようだ。
何処から入手してきたのか、手掛かりとやらはかなりの量があった。
どこぞの古文書から怪しげな噂話まで玉石混交の中からそれっぽいものを探し出すのが俺たちの仕事になった。
これだけの手掛かりがあるのなら、一つくらい当たりがあるかもしれない。
そんなことを考えたのだろう。
大迷惑だ!
無作為雑多に集められた資料の中から明らかに無関係なものを排し、重複するものをまとめる。
内容を解析して魔導書のありかを特定する。
量は多いし、断片的で虫食いな資料も多いし、古い言葉や地名が使われていたりするしで、無茶苦茶大変な作業なのだ。
俺たちは学者じゃないんだぞ!
新しい仕事を言い渡されても通常の業務はなくならないから、寝る間を惜しんで仕事をしているのに遅いと叱られる。
だが、手抜きがばれると叱責では済まない制裁が科せられるから、いいかげんな仕事もできない。
とりあえず、情報源が明確で比較的怪しくない情報を優先的に調べて、場所が特定できた幾つかを先に渡すことにした。
幹部連中がそちらを調べている間に、俺たちが手分けをして怪しい情報の裏を取ることにしたのだ。
俺が担当したのは、アイスナー家の遺品だった。
没落したアイスナー家が完全に途絶えたのは最近のことだった。その遺品の中に魔導書の一部かもしれないものが交じっているという噂だ。
場所ははっきりしている。没落したとはいえその地の名家だったわけだし、最近の噂話だから行けば分かるだろう。
ただ、そのアイスナー家が魔術や魔法で何かをしたという話はない。
魔導書の一部らしいという噂も、魔術を知らない者の素人判断らしい。
こんな情報で幹部が動いて、もしも空振りだったら殴られる。
裏を取るために、アイスナー家のあったツヴェルブルグに向かった。
ツヴェルブルグに到着して聞き込みを始めると、あっさりと情報が集まった。
没落したとはいえかつての名家、やはり地元では有名だった。
その名家も、最後には借金まみれだったらしい。
だが、古い家の場合、使える金はなくても様々な形で資産が残っている場合がある。
跡取りの途絶えた家の資産は、最終的にはその土地の領主のものになる。
その前に、長年溜まったつけを少しでも回収しようと、地元の商人たちがアイスナー家の遺品を物色していたのだ。
件の魔導書らしきものも、遺品を調べているうちに見つかったらしい。
ただ、所詮は田舎の商人だ。魔術の知識はなかったようだ。
ただの落書きか本物の魔導書か誰にも判別できずに、ただ「すごい魔導書かもしれない」と噂が独り歩きしたらしい。
商人たちにしても、よその街から魔術師を呼んで鑑定しようとする動きもない。
関係者が重要視していないのなら、警戒されることもないだろう。
俺は、アイスナー家に乗り込むことにした。
「ああ、それでしたら、衛兵から『危険な魔導書かもしれないから鑑定が終わるまで売らないように』と言われているんですよ。」
嘘ぉ、もう軍の手が入っている!
それって、絶対に衛兵よりも上の軍が動いているだろう!?
内心色々と焦ったが、どうにか顔に出さないように堪えた。
たぶん、幹部連中があちこちで動いているから、軍も警戒しているのだろう。
どこまで知られているかは分からないが、黄金の無花果が魔導書を探していることくらいはバレているとみるべきだろう。
だが、さすがにこんな田舎にまで厳しく監視の目を光らせておくことはできなかったのだろう。
実際、商人たちの態度に緊張感はなく、俺が無料で鑑定すると言ったらあっさりと見せてくれた。
本物だったよ!
俺だって、魔術師にこそなれなかったものの、魔術の勉強はかなり真剣にやってきた。
だから、魔導書かただの落書きかの判定くらいできる。
まず、その紙片に書かれていたのはアル=ブラムス魔法文字だった。この時点で単なる落書きの可能性は消えた。
ただし、それだけでは異界黙示録であると断定することはできない。
古の賢者アル=ブラムスが魔法文字を解読して以降、新たな魔導書をアル=ブラムス魔法文字で書き記す者が現れたからだ。
ある時期以降に書かれた魔導書の中には、アル=ブラムス魔法文字を使用したものが一定数存在する。
また、異界黙示録そのものではなく、写本である可能性もある。
写本であっても価値は高いのだが、それ自体がアーティファクトだとされる原本に比べると一段も二段も見劣りすることになる。
だが、どちらにしても無価値ではない。
詳細は分からないが、見たところ紙に書かれているのは何かしらの魔法のようだ。
魔術理論を無視した内容は魔術ではあり得ない。
呪文らしき記述や複雑怪奇な魔法陣は見たことも聞いたこともないものだった。
未知の魔法が記載された魔導書の断片。
成果としては十分だろう。
その魔法が必ずしも役に立つとは限らないが、その辺りのことを判断するのは俺達じゃなくて幹部の仕事だ。
この紙切れを渡しておけば、少なくとも書かれている魔法を調べ終わるまでは幹部から文句を言われることはないだろう。
幸い、商人たちの反応は淡白で、そんな紙切れには興味なさそうだった。俺が「何の意味もないただの落書きだ」とでも言えば二束三文で売ってくれそうな雰囲気がある。
だが、軍からのお達しで売却を禁じられている以上、商人たちが売り払いたいと思っていても勝手なことはできない。
ここで強引に迫っても、警戒されるだけだろう。
俺は情報の裏を取るために来たのであって、入手に関してはあくまで状況が許せばの話だ。
軍が出てきている以上、状況は許していないのだ。
ここは余計なことはせず、情報を持ち帰って後は幹部に任せるのが正解だ。
未知の魔法が記載された魔導書の一部が存在し、既に軍に目を付けられている。それだけ報告すればアーティファクトとか持った幹部がどうにかするだろう。
今の俺がすべきことは、疑われるようなことを何もせずにそっと帰ることだけだ。
何もせずに、そっと……
突然、屋敷が消えた。
へ? は? いや、ちょっと待て!
何が起こった!?
俺は何もしていないぞ!
俺は……何も……
いや、正直に言おう。
俺は一つやらかした。
書かれていた呪文を読み上げたのだ。
商人たちに不審に思われないためには、俺が魔導書のうわさを聞きつけてやってきた専門家であることを示す必要があり……
いや、これも正直に言おう。
俺は自慢したかっただけだ。
黄金の無花果では、頑張って勉強しても当然であり、勉強しても魔術を使えない俺は役立たずの落ちこぼれだった。
しかし、魔術に関しては素人の商人たちに対しては大威張りで蘊蓄を垂れることができるのだ。
少々、いやかなり調子に乗っていた。
そして、呪文を最後まで読み終わったときに、何かが起きた。
気が付くと、何もかも無くなっていた。
屋敷も、商人たちも。
俺は怖くなって逃げた。手にした紙片――魔導書の一枚を持ったまま。
状況的には、魔導書に書かれていた魔法が発動したように見えるのだが……そんなことがあり得るのだろうか?
俺はただ書いてある文字を読んだだけだ。それでは呪文を唱えたことにはならない。
魔術でも魔法でも、しっかりと手順を踏んで呪文を詠唱しなければ発動することはない。
――異界黙示録は、手にして呪文を唱えるだけで魔法が発動するアーティファクトである。
ふと、以前聞いた異界黙示録の説明が頭をよぎったが……
いやいや、呪文を読み上げたのは俺だぞ!
魔力が無くて魔術を使えない俺が、そんな高度な魔法を使えるはずがないだろう。
異常な事態が発生したことは確かだが、ただ俺が呪文を読んだタイミングと偶然に重なっただろだ。
きっとそうだ。
………………
………………
………………
………………
ちょっと確かめてみるか。
俺は手にした紙片を広げると、もう一度呪文を読んでみた。
「エデンハココニアリ……」
嘘だろ、おい!
本当に魔法が発動しちまったよ!
途中で慌てて止めたけど、潜伏していた空き家が消滅してしまった。
これで偶然はあり得ない。
おそらく、この紙片は異界黙示録で間違いないだろう。想像以上にヤバい魔導書だった。
騒ぎを起こしてしまった以上、魔導書を持ち帰らないと殺されるんじゃないだろうか、俺。
……あ。
しまった! せっかく隠れていた家を丸ごと吹き飛ばしてしまった。
この時間、この近所の家はほとんど人がいないはずだが、こんな場所にいるところを見られたら不審人物扱いされるだろう。
黄金の無花果内では無能な下っ端である俺は、組織の示威活動にも参加していないから軍からもノーマークのはず。
こんなところで目を付けられたくない。
事件が起きてすぐに街を離れたら怪しまれるかと思って隠れていたが、こんなことならばすぐに逃げ出した方がよかったか?
とにかく、俺は急いでこの場を離れることにした。
◇◇◇
「確かにアイスナー家の屋敷跡と似ておるのぉ。ちぃとばかり違うところもあるようじゃが。」
その現場は、アイスナー家のものと同様にすり鉢状に地面がえぐられ、存在していたはずの家屋が消滅していた。
違いと言えば、えぐられた範囲がこちらの方が狭いことと、すり鉢状にえぐられた地面の中央に、丸く切り取られた建物の床らしき板が残されていたことくらいだ。
その破壊の痕跡を見ながら、秀隆は何やら考え込んでいた。
「やはり、終末魔導書が使用されたようじゃの。こんな感じの跡を残す魔法に心当たりがあったわい。」
「つまり、アイスナー家にあった紙片は魔導書だったということでありますか?」
「他所から持ち込んだ終末魔導書を使ったのでなければそうじゃろうなぁ。奪うだけの価値のある物が無ければ屋敷を吹き飛ばすような強引な真似はせんじゃろうしな。」
屋敷を丸ごと消滅させるというのは、終末魔導書の魔法としてはいささか小規模だが、一般的には大事件である。
現に街の衛兵が慌ただしく動いて捜査していた。
捕まるリスクを冒してでも手に入れる価値のある何かがあったと考えられた。
「あるいは、本物かどうか確認しようとしてうっかり魔法を発動させてしまったか、じゃな。じゃとすると、こちらは魔法の練習したのかもしれんのぉ。」
「……やはり、この男には不用意に接触しないほうがよさそうでありますな。」
ライナーは似顔絵を指しながらそう言った。
件の男は、第二の建物消失事件の現場であるこの場所近辺でも目撃されていた。
普通ならば、とりあえず捕まえて事情聴取をする状況である。
しかし、屋敷を消し飛ばすほどの魔法を使いこなすとなると話は変わってくる。
衛兵が捕まえようとしても返り討ちに遭う可能性が高い。詠唱を始めた時点で手が出せなくなる終末魔導書の性質が厄介だった。
下手に追い詰めると、衛兵だけでなく一般の民衆も巻き込みかねなかった。
「終末魔導書の魔法に関してはワシがどうにかするにして、街中での戦闘は避けたいところじゃのぉ。」
「それならば、戦いやすい場所まで誘導してみるであります。」
「そう上手くいくかのぉ?」
「魔法の発動が偶発的ならば、退路を確保していない可能性が高いのであります。ここまでの行動も行き当たりばったりに思える行動が多いのであります。追われれば人の少ない場所を目指すでしょう。」
目撃情報を整理すると、男の行動に一貫性が見られなかった。
その行動は、ツヴェルブルグの街で何かをしようと画策しているのではなく、ただ行き当たりばったりに逃げ隠れしているように見えた。
「何より、地の利はこの街の衛兵にあるのであります。」
少しばかり他人任せだが、それが正解だろう。
こうして、作戦が決まった。
◇◇◇
「師匠、周囲に人がいないことを確認しました。部外者を巻き込む心配はありません。」
周囲を確認してきたルーカスが報告する。
ここはツヴェルブルグの郊外、街から外へと通じる街道の一つ。
普段から利用者の少ないこの道は、人目を気にしながら街の外に出たい者にとっては最適のコースである。
その道沿いに戦闘ができて待ち伏せにふさわしい場所を探した。
そうして見つけた地点に身を潜めつつ、周囲に無関係の人がいないか確認したところである。
「しかし、これだけやって『実は無関係な人でした』とかじゃったら目も当てられんのぉ。」
「それは、仕方がないのであります。あの男が重要参考人であることは間違いないので、どのみち事情聴取は必要なのであります。それに、この場所までやってくるようならば、無関係の一般人と言うことは考えられないのであります。」
「それもそうじゃな。」
街の衛兵たちは、男を直接拘束するのではなく、自分たちの姿を見せることで逃げる男をこちらに追い込む形で誘導しようとしているのである。
男が逃げずに素直に事情聴取に応じれば、ここまでやってくることはない。
つまり、ここまでやってきたのならば衛兵から逃げなければならない疚しいことがあるということになる。
「来た、例の男だ!」
街道を見張っていたアンジェリカが小声で報告する。
どうやら無事に誘導されてきたらしい。
秀隆達は声を潜めて男が近付くのを待った。
「貴殿には少々伺いたいことがある。同行願おうか。」
十分に引き付けたうえで、ライナー――いや、ヴェルマン少尉がぬうっと男の前に立ちふさがった。
男が背を向けて逃げ出しても捕まえられる距離である。
「うわぁ! て、帝国軍!?」
ヴェルマン少尉はあえて軍服姿で待ち構えていた。相手の反応を見るためである。
街の衛兵とは異なる帝国軍の軍服は、街中の小悪党にはなじみのないものだ。
軍が警察組織を兼ねるとは言っても、帝国軍は街の衛兵とは管轄が異なる。犯行現場に居合わせたとかでない限り、小物の犯罪者をいちいち取り締まるようなことはしない。
帝国軍が直接対応するのは、広域にわたる組織犯罪や、重要犯罪に限られる。
そして、帝国軍に反応する犯罪者もそういった類の者に限られるのだ。
「こんなところで捕まってたまるか!」
男――ロルフは思いっきり反応した。
紙片を取り出し読み上げる。
「エデンハココニアリ。」
「やはりその魔法じゃったか。皆ワシの近くに集まるのじゃ。
約束の地はここに在り。」
呪文を確認すると秀隆も飛び出し、詠唱を開始する。
その秀隆の周囲にルーカス、アンジェリカ、そしてヴェルマン少尉も一旦戻って合流する。
「スベテノサイヤクハココヲコエズ、スベテノアクイハココニイタラズ。」
「全ての災厄ここを越えず。全ての悪意ここに至らず。」
「アンネイヲミダスモノ、カミデアロウトキョゼツセン。」
「安寧を乱すあらゆるもの、神であろうと拒絶せん。」
「ソハイージスニシテグングニル。」
「其は最強の盾にして最強の矛。」
「スベテヲマモレ、ラストリゾート!」
「全てを守れ、絶縁領域!」
呪文を唱え終わると、二人の足元に魔法陣が現れ、そして光景が歪んだ。
秀隆とロルフの周囲に、透明な球状の何かが現れたのである。
その何かは目に見えないが、背後の景色が歪むことでその存在を見て取ることができた。
一見すると、全く同じ魔法がその場に二つただ並んでいるだけのようだが……
「し、師匠、向こうの魔法、大きくなっています!」
ルーカスが焦ったように言う。
秀隆側の球は変わらないが、ロルフ側の球体は明らかに大きくなっていた。
しかも、ただ大きくなっただけではない。
球が大きくなってその境界面が進んだ分、球体に接していた物質が消失していくのである。
押しのけられたのではない、きれいさっぱり消えてなくなっているのである。
そして、球体は地面の下まできっちり球形になっていることが判明した。
球体が大きくなった分、地面もきっちに球体に合わせて消滅しているのである。
アイスナー家跡地のすり鉢状にえぐられた地面の正体がこれであった。
「ふむ、やはり相手は素人のようじゃな。魔法の制御ができておらん。」
一方、秀隆は落ち着いたものだった。魔法の効果は知り尽くしているだけに慌てるそぶりもない。
相手の未熟さを指摘するほどの余裕ぶりである。
だが、秀隆の周りの仲間は落ち着いてはいられない。
敵の魔法が目前にまで近付いてきているのだ。地面を抉りながら!
「ヒ、ヒデタカ殿、このままでは呑み込まれる!」
アンジェリカの声は悲鳴のようだ。
「なに、心配ない。想定の範囲内じゃよ。」
だが、秀隆は変わらずに緊張感がない。
そうこうするうちに、秀隆の魔法の数倍の大きさにまで膨れ上がった球体がすぐそこにまで迫ってきた。
そして、秀隆達は飲み込まれた。
「なんだ? どうなっていやがる!?」
男――ロルフは混乱していた。
捕らえた対象を全て消し去った恐るべき魔法。
これまでの二回は意図せず偶発的に発動してしまったが、今回は帝国軍人を消し飛ばすつもりで魔法を使用した。
それにもかかわらず、狙った軍人も、その協力者らしき者達も消えていなかった。
ロルフの魔法が作った球体は既に拡大を止めていて、狙った軍人――ヴェルマン少尉達はその内側にいる。
球体が通った跡は草も木も地面さえも消えてなくなっているのに、ヴェルマン少尉――正確には秀隆の周囲だけは何事もなかったようにそのままだった。
「この絶縁領域はのぉ、防御魔法なんじゃよ。」
「はぁ?」
淡々と説明する秀隆。だが、実際に魔法を使ったロルフにしてみれば、自分の周囲全てを薙ぎ払う強力な範囲攻撃である。
「向かってくる攻撃を全て消し去ることで絶対の防御を誇る防御魔法。まあ、範囲を広げることで周囲を無差別に攻撃することもできるのじゃが、見ての通り拡大速度は遅いじゃろぉ? 逃げ場のない場所か、相手が危険性を知らない場合でないと逃げられてしまうのじゃよ。」
最初に犠牲になった商人(債権者)達は、逃げ場のない室内で、魔法の予備知識のない素人が、魔法を使用したロルフ自身発動するとは思っていなかった不意打ちだから巻き込まれた。
最初から来ると分かっていれば逃げようはある魔法だった。
「そして、同じ防御魔法同士がぶつかると、互いに融合して一つの防御魔法の範囲になってしまうのじゃよ。」
呪文を読み上げることに集中していたロルフは、秀隆が同じ呪文を詠唱していたことに気付いていなかったが、これが秀隆達が無事だった理由である。
「つまり、同じ防御魔法の範囲内に入ったワシらから、身を守るものはなくなったということじゃな。」
「あっ……なんだ? 動けない!?」
頼みの魔法による迎撃が失敗したことを悟って逃げ出そうとしたロルフだったが、その場から動けないことに気付いて慌てた。
「絶縁領域を使用中は、その場所に固定されて移動できなくなるのじゃよ。まあ、動けたとしても防御範囲から出ることはできんがの。」
前回使用した時も、大慌てで魔法を即時解除したから、ロルフはこの仕様に気付かなかった。
「そうだ、魔法を解除……できない!?」
「二つの絶縁領域が融合した際に、魔法の制御を奪わせてもらったのじゃ。お主にはもう魔法を解除することも領域を変えることもできぬのじゃよ。」
本来の設定では、一つに融合した魔法の制御権を奪い合うことになるのだが、設定を知り尽くし終末魔導書の補助なしでも魔法を発動できる秀隆と呪文を読んだだけのロルフとでは勝負にならなかった。
「そして、魔法を発動した者以外は自由に動けるのじゃ。仲間がおらなんだことが、お主の敗因じゃな。」
ヴェルマン少尉が飛び出して、あっさりとロルフを縛り上げてしまった。
終末魔導書の頁も取り上げたから、これでもう何もできないだろう。
「それでは魔法を解除するのじゃ。衝撃に備えよ!」
犯人を捕まえて一件落着かと思いきや、最後にもう一つ作業が残っていた。
魔法――絶縁領域の解除である。
普通に魔法を解除すればよいだけなのだが、今回の場合に限り少々注意が必要だった。
――ズシン!
重い音とともに、地面が落下した。
絶縁領域の魔法は使用中魔法を発動した術者は位置を固定される。
同時に、術者の立っていた地面も位置を固定されていた。
普通ならば地面の位置など気にする必要はないのだが、ロルフは絶縁領域の範囲をそのまま拡大した。
自分を中心に球形に展開された領域を、中心を変えずに半径だけを長くして行ったのだ。途中にある物体全てを消しながら。
何が起きたかと言えば、真下の地面が消失したのである。最初から絶縁領域の範囲内だった部分を除いて。
軍人として鍛えていたヴェルマン少尉は軽々と飛び移って見せたが、ロルフの立っている地面まで少々高さがあった。
「ぐぇっ。」
魔法を解除した瞬間、位置の固定も解除され、地面が消失した分だけ落下した。
ロルフはその落下ダメージを食らってしまったのだ。
なお、秀隆の方は絶縁領域の領域を広げなかったうえ、魔法が融合するとすぐに制御権を奪ってそれ以上の拡大を止めたのでほぼノーダメージだった。
「それにしても、大穴が開いてしまったのぉ。」
秀隆は、回収した終末魔導書の頁を受け取りながら呟いた。
今回ロルフは魔法で攻撃しようと積極的に領域を広げたので、地面も大きく削られていた。
あまり使われていないとはいえ、街道の真ん中に大穴が開いているのは問題だった。
「穴に関しては、軍の作戦行動中の出来事でありますから、軍の方で対応いたします。なに、この男を尋問して黄金の無花果との繋がりでも出てくれば、おつりがくるのであります。」
ヴェルマン少尉は捕縛した男を連行して行った。
こうして、一つの事件が幕を閉じた。
☆☆☆
終末魔導書
No. 043
絶縁領域
呪文:
約束の地はここに在り。
全ての災厄ここを越えず。全ての悪意ここに至らず。
安寧を乱すあらゆるもの、神であろうと拒絶せん。
其は最強の盾にして最強の矛。
全てを守れ、絶縁領域!
効果:
あらゆる攻撃を消し去る最強の防御魔法。
防御範囲に指定した領域に接触したものは、物質であろうと魔法であろうと全て消え去り中には届かない。
外部の様子が見えているが、それは境界面に映し出されているだけで、実際には光も侵入してはいない。
最初に設定した領域を広げることで付近にいる敵を消滅させることも可能だが、領域を広げる速度はあまり早くないので攻撃手段としては向いていない。
魔法を発動中は使用者の位置が固定されて移動できなくなる。
また、魔法の発動時に領域の内側と外側にまたがる物体はその位置で切断されてしまうので注意が必要となる。
魔法によって切断された物体は、領域の内側に取り込まれた部分に関しては魔法が発動している間はその位置に固定される。
・黄金の無花果
魔術結社っぽい名前として「黄金の○○」としました。無花果には深い意味はありません。
政治色の強いテロ組織なので、滅びた国の残党と言う扱いにしました。
そこから逆算して「無花果」に因んだ国名を考えました。
無花果は英語でfig。帝国に入ってからはドイツ語っぽい名称にしているので、ドイツ語にするとFeige。
と言うことでファイゲ王国になりました。
ただ、ドイツ語のFeigeを日本語に変換するとなぜか「臆病な」とか「卑怯な」になるのです。
ドイツ人は無花果に何か悪い思い出でもあるのでしょうか。




