木彫りの犬と木彫りの猿は今日も仲良し
居間。
いつもの光景だった。
長椅子。
本棚。
机。
そして――
犬。
猿。
木彫りの置物が並んでいる。
仲良く。
非常に仲良く。
ぴったりと。
隣同士で。
「……」
シャガルは机を見た。
犬。
猿。
犬。
猿。
「…………」
なぜだろう。
嫌だ。
ものすごく。
嫌だ。
理由は分からない。
だが。
嫌だった。
非常に。
犬の隣に猿がいる。
それだけなのに。
腹の奥が妙にむず痒い。
「……」
しばらく見つめる。
犬。
猿。
犬。
猿。
やはり嫌だ。
その時だった。
シャガルは何気なく手を伸ばした。
そして。
こてん。
猿が倒れた。
「……」
少しだけ気分が良くなった。
なぜかは分からない。
本当に分からない。
だが。
少しだけ。
気分が良かった。
満足したシャガルはそのまま長椅子へ寝転がった。
昼寝である。
⸻
しばらくして。
居間へテュエルがやって来た。
茶器を持っている。
レイラの分だ。
いつものことである。
そして。
机を見る。
猿。
倒れている。
犬。
立っている。
「……」
ちらり。
長椅子を見る。
シャガル。
寝ていた。
「……」
沈黙。
数秒。
そして。
テュエルは思った。
(お前だってことは)
(分かってんだよ)
証拠はない。
だが。
絶対そうだった。
テュエルは机へ近付いた。
猿を起こす。
犬を見る。
しばらく考える。
そして。
こてん。
猿ではなく。
犬を倒した。
「……」
少しだけ。
ほんとに少しだけ。
気分が良かった。
なぜかは分からない。
本当に分からない。
だが。
いい気味だと思った。
⸻
さらに少しして。
レイラが戻って来た。
手には本。
居間へ入り。
長椅子へ腰掛ける。
テュエルは茶を差し出した。
「どうぞ」
「ん……ありがとう」
受け取る。
本を開く。
茶を飲む。
静かな時間だった。
だが。
ふと。
視線が机へ向く。
「……犬」
犬が倒れていた。
レイラは本を置く。
立ち上がる。
机へ向かう。
犬を持ち上げる。
じっと見る。
「……」
そして。
なでなで。
なでなで。
「大丈夫か?」
本気で心配していた。
完全に。
なでなで。
もう一度撫でる。
それから机へ戻した。
「ふふ……気を付けろ」
犬は喋らない。
だが。
レイラは満足そうだった。
柔らかい笑顔だった。
⸻
シャガル
(よし)
テュエル
「…………」
(なんですって)
⸻
シャガルは妙に満足そうだった。
非常に。
テュエルは面白くなかった。
非常に。
⸻
翌日。
居間。
シャガルは先に来ていた。
長椅子へ腰掛ける。
何気なく机を見る。
猿。
倒れていた。
「……」
一瞬だけ目を細める。
そして。
ふん、と鼻を鳴らした。
(情けない猿だ)
少し愉快だった。
いい気味だった。
非常に。
⸻
そこへレイラがやって来る。
皇務の資料を持っていた。
机へ向かう。
紙を置く。
椅子へ座る。
そして。
ふと。
猿へ視線が向いた。
「……猿」
倒れている。
レイラは猿を持ち上げた。
起こす。
じっと見る。
そして。
なでなで。
なでなで。
「どうした」
なでなで。
「大丈夫か?」
⸻
シャガル
「…………」
なんだこれは。
なぜだ。
ものすごく嫌な気持ちになった。
なぜだ。
本当に。
なぜだ。
⸻
その時だった。
レイラの背後。
テュエルがいた。
茶を淹れている。
そして。
口元が緩んでいた。
非常に。
満足そうだった。
恍惚としていた。
少し気持ち悪いくらいに。
⸻
テュエル
(俺です)
(レイラ様……)
(心配してくださるんですか……)
(大丈夫か、ですか……♡)
⸻
シャガル
「…………」
犬が倒れる。
レイラが撫でる。
シャガル機嫌が良い。
猿が倒れる。
レイラが撫でる。
テュエル機嫌が良い。
沈黙。
その瞬間。
全てが繋がった。
シャガル
(まさか……)
(自ら……?!)
テュエル
「^^」
シャガル
(……いや)
(証拠はない)
(それに)
(流石にそこまでは狂っておらぬだろう)
テュエル
「^^」
シャガル
(…………)
(少し様子を見るか)
⸻
さらに翌日。
犬。
こてん。
⸻
レイラ
「……犬」
起こす。
なでなで。
「……全く……気を付けろ」
犬は喋らない。
だが。
レイラは真剣だった。
⸻
翌日。
猿。
こてん。
レイラ
「……猿」
起こす。
なでなで。
「……大丈夫か?」
猿も喋らない。
そして。
流石におかしいと思った。
レイラ
「……」
犬を見る。
猿を見る。
犬。
猿。
どちらも立っている。
机を押す。
ぐらつかない。
「……」
今度は窓へ向かう。
開ける。
閉める。
風は入らない。
「……」
再び机を見る。
犬。
猿。
立っている。
問題ない。
⸻
数刻後。
⸻
猿。
こてん。
レイラ
「…………」
(なぜだ)
本気で悩んでいた。
⸻
翌日。
⸻
犬。
こてん。
⸻
翌々日。
⸻
猿。
こてん。
⸻
レイラ
「…………」
犬を起こす。
猿を起こす。
しばらく見つめる。
犬。
猿。
犬。
猿。
そして。
ぽつり。
「まさか……」
シャガル
「?」
テュエル
「?」
レイラ
「動いているのか……?」
シャガル
「動かぬ」
テュエル
「動きませんね^^」
即答だった。
レイラ
「……だが」
犬を見る。
猿を見る。
「私のいない間だけ倒れている」
シャガル
(お前が倒しておるからだ)
テュエル
(お前が倒してるからだ)
レイラ
「やっぱり」
「……仲が悪いのか」
シャガル
「…………」
テュエル
「…………」
レイラは二人へ視線を向けた。
「……お前達、何か知らないか?」
シャガルは腕を組む。
「……知らぬ」
テュエルは穏やかに微笑んだ。
「知りませんね^^」
レイラ
「……そうか」
納得はしていなかった。
だが。
本人達が知らないと言うのなら仕方がない。
レイラは再び机へ視線を戻した。
犬。
猿。
並んでいる。
仲良さそうに見える。
非常に。
「……」
数秒。
そして。
犬を撫でる。
なでなで。
続いて猿。
なでなで。
「仲良くしろ」
真剣だった。
本当に。
シャガル
「…………」
テュエル
「…………」
二人とも。
少しだけ複雑な気持ちになった。
⸻
そして。
数日後。
シャガル
「猿」
テュエル
「なんですか」
シャガル
「貴様だな」
テュエル
「何がです?^^」
シャガル
「置物を倒しておるのは」
テュエル
「証拠は?」
シャガル
「ある」
テュエル
「聞かせてもらいましょうか」
シャガルは指を突き付けた。
「レイラが撫でた翌日だけ機嫌が良い」
⸻
沈黙。
⸻
テュエル
「……」
図星だった。
だが。
テュエル
「なるほど」
シャガル
「?」
テュエル
「では聞きますが」
シャガル
「なんだ」
テュエル
「犬を撫でた翌日だけ機嫌が良いのは?」
⸻
沈黙。
⸻
シャガル
「……」
テュエル
「……」
シャガル
「偶然だ」
テュエル
「そうですか^^」
シャガル
「偶然だ」
テュエル
「そういうことにしておきましょう^^」
⸻
その時だった。
レイラ
「何の話だ?」
シャガル
「聞くな」
テュエル
「聞かないでください^^」
レイラ
「?」
意味が分からない。
本当に。
全く。
テュエルは机を見る。
猿。
そこにいた。
テュエル
(俺です^^)
シャガル
(なぜ余の隣におるのだ……)
(……忌々しい)
⸻
即答だった。
⸻
レイラ
「?」
沈黙。
そして。
机の上。
犬。
猿。
仲良く並んでいた。




