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58.新しい試み

次の日からカフェでは新しい試みを開始した

「それぞれの価格はこれまで通り。タグに合わせてサイドメニューを用意したの」

「サイドメニュー?」

コルザが何それと首を傾げた


「唐揚げとかサンドイッチとか…これはテイクアウトも可能でケースや棚に並べておくわ」

「じゃぁスイーツみたいにメニューには載せないってこと?」

「そういうこと」

「へぇ…じゃぁその日のお腹のすき具合で量を調整できるってことだな」

ダビアが感心したように言うので頷いて返す


「それとね、ランチを食べてくれた人に、次回以降に使える100シアの割引券を配ろうと思ってるの」

「割引券?」

「そう。ただし使えるのはランチを食べた時だけね」

「スイーツやサイドメニューだけの時は使えない?」

「当たり」

褒めるようにロベリの頭をなでる


「使用期限は1か月、魔力で刻印してからわたそうと思ってる。1回に使用できる枚数に縛りは無しにするつもりよ」

「じゃぁ4枚貯めて青タグのスイーツかサイドメニューをそれで頼むことも出来る?」

「そういうこと。何人かで貯めて集めて1品って言うのも勿論OKよ」

「それ友達が喜びそうだ」

「そうね。私の友人たちも喜ぶかも。女性1人でランチに1品追加するのは食べきれるかわからないけど、何人かで来て1品なら丁度いいかもしれないし」

なるほど、そういう考え方もあるのか

やっぱり自分だけでは限界があるのだと改めて思う


「今日から始めるから何か聞かれたときは説明してもらえると助かる」

「任せてよ」

ウーが言うとみんなが頷いてくれる

本当にありがたい仲間だ


「ねぇ、それって僕たちも食べていいの?」

「勿論よ。一人で食べきれそうになかったらダビアやマロニエに聞いてごらんなさい」

「わかった」

新しいものというのはやはり嬉しいのだろう

子供達の素直な反応は分かりやすくていい




「うまかったよ」

ランチを食べに来た騎士の3人組がそう声をかけてくれる


「カフェのランチで腹が膨らむか心配だったけど、このサイドメニューはいいな。その時々で量が調整できる」

「そう言っていただけると嬉しいです」

「欲を言えばカクテュスの味も置いてほしいけどな」

「なるほど。前向きに検討してみますね」

置こうと思ったらまず調べるところからだもんね…


「楽しみにしてる。またみんなにも声かけとくよ」

「ありがとうございます」

満足げに帰っていく騎士達を見送ってホッとする


「よかったな。騎士に好評なら問題ないだろ」

「だよね?よかったー」

騎士が満足できるボリュームということは、大抵の人が満足できるはずだもんね


「まぁ騎士だけじゃなくダビア達も喜んでたけどな」

「あはは。いつもお替りしてたけど違う味の方がいいんだろうね」

「みたいだな。おかげでチビどもも喜んでたし?」

子供達は1つずつや1口ずつを貰って楽しんでいたのだ


「そういえばロキはそこまで食べないよね?元は騎士なのに」

「元々大食いじゃなかったからなぁ。食って欲しいなら食うけど」

「無理しなくていいから。おいしく食べてくれたらそれで十分」

「はは…いつも堪能させてもらってるよ」

確かにいつも味わいながら食べている

私としては量はともかくおいしそうに食べてもらえるならそれで満足だ

おかげで気持ちがとても軽くなった


「ママこれ買って」

食事を終えた子供がケースの前で唐揚げを指さしている


「もう食べれないでしょう?」

「持って帰って夜ご飯でパパと食べる」

「でも…」

自分ではなく父親とと言われると断りづらいのだろう

それでも何度も懇願されると無理だったらしい


「…わかったわ。じゃぁこれ、テイクアウトでお願い」

母親は観念したようにそう言った


「かしこまりました。夕飯時でしたら細かく切ってサラダに混ぜてみてください。冷めてからでも違った感じでおいしく召し上がれますよ」

「まぁ…そんな食べ方が…それなら夜でも大丈夫そうね。ありがとう」

ホッとしたように笑って母子は出て行った


「何で分かったんだ?」

「何となく?」

「なんだそれ」

「ん…温かいものは温かいうちに、冷たいものは冷たいうちにが一番おいしいからかな」

「あぁ、それは分かるな」

そう頷くロキの手元には本屋でもらった本がある


薬草や園芸関係の本はジョンやオリゴン達も大歓迎だった

文字が分からなくても図がたくさん入っているので何とかなるらしい


数冊入っていた絵本はカクテュスの文字を学ぶには丁度いいとウーたちも読んでいる

この町は話すことは出来ても読み書きが出来る者は少ないのだ

でも騎士たちの中には4国すべてとは言わなくても、自国と別の国の言葉を、話すだけでなく読み書きも出来る者は多いという

この町に来た騎士は特に国境の検問に関わっていたこともあって、ソンシティヴュの言葉を自由に操れるものも多いそうだ


「すみません」

「はーい」

かけられた声に入り口を見ると不安そうに立っている4人連れがいた


「あの、この手紙を検問で受け取ったのですが…」

「あ、騎士さんのご家族?」

「はい…」

「どうぞ中へ」

テーブル席へ案内するとコーヒーを2つとジュースを2つ準備する

それを皿に盛ったクッキーと共に出した


「お疲れでしょう?こちらへは先ほど?」

「ええ。ついさっき。嫁は生まれたばかりの孫と家で休んでおります。嫁の両親と妹が付き添いで」

「そうですか。それなら安心ですね」

微笑んで言うとホッとした表情をされた


「実は私も1年ほど前にこの町に来たばかりなんですよ。なのでお力になれればと」

「ありがとうございます。こっちには知り合いもいないので…」

「この町の人は暖かい人が多いのですぐ馴染めると思いますよ。同じようにあと3人の騎士さんのご家族も数日中に来られるそうですから、お互いの不安も理解し合えるでしょうし…」

「あぁ…それは嬉しいわ」

ご婦人がホッとしたように笑う


「お子さんたちはおいくつ?」

「僕はトマス。12才」

「俺はマシモ。14才です」

「トマスにマシモ、よろしくね。私はオリビエ、こっちはロキよ。ロキ、みんなを呼んでくれる?」

「ああ」

ロキは頷いて出て行った


「みんなとは…?」

「この屋敷に住んでる人たちです。11歳と16歳の男の子もいるので親同士も年が近いと思いますよ?」

「どんな子?」

「ん…野菜作りに夢中になってる子と、薬草に夢中になってる子。この町の子だから2人を通してお友達も出来るんじゃないかしら?」

友達と聞いてトマスとマシモが少し嬉しそうな表情を見せた

子供が知らない土地に行ってまず考えるのは、友達ができるかどうかなのはどの世界も変わらないようだ


「オリビエ呼んだ?」

ウーが駆け込んできた


「呼んだわよ。あなたと年の近い子がこの町に来たから色々教えてあげて?」

「勿論。俺はウー。11歳。庭師見習いでここに置いてもらってるんだ」

「ウー、彼が12歳のトマスよ」

「よろしくトマス」

「こっちこそ」

「オリビエ俺もジュース飲んでいい?」

「いいわよ」

頷くと調理場の方に入っていった


「騎士の家族がついたって?」

マロニエとダビアに続いて皆がそろって入ってきた


「彼は16才のブラシュ、ブラシュ、マシモは14才だから年も近いし色々教えてあげて。隣は12才のトマスよ」

「了解。2人とも外行こうぜ。ウーも来るだろ?」

「あー行く」

4人はそのまま外に飛び出して行った


「俺はブラシュの父親でオリゴン、薬師だ」

「ここで庭師をしてるジョンだ。ウーの父親でもある」

ジョンはそう言って笑う

優し気ないい笑顔だ


「荒節を作ってるナハマだ」

「カメリアです。この屋敷の掃除をさせてもらってます。この子たちは私の子供達で上からコルザ、ロベリ、リラです」

カメリアが言うと3人がペコリと頭を下げた


「あらかわいらしい。私はベッキー。騎士団に勤める息子、コニーに声をかけていただいたおかげでこちらに。わからないことばかりでご迷惑おかけすると思いますがよろしくお願いします」

「俺はセオドアだ。他に嫁と孫、嫁の家族も一緒に来てるんだが…」

「お孫さんってことは…」

「まだ生まれて半年なんですよ」

「まぁ。じゃぁ私の友人とお尋ねしてもいいかしら?彼女の子供は8か月なんですよ」

カメリアとベッキーはそこから話に夢中になっていった


「僕たちと年の近い子はいない?」

「そうみたいね。次に期待しましょうか」

「うん」

「じゃぁまたボール遊びするか?」

「「「するー」」」

マロニエの言葉に3人が嬉しそうに走って行った

その後をダビアとマロニエが追いかけていく


「セオドア酒は行けるか?」

「勿論だ」

「実はこの町でしか飲めない酒があってな…」

ナハマの言葉にセオドアは食いついた


「大丈夫そうだね」

「ああ。人間何の話に食いつくかわからんもんだな」

「確かに」

2人で笑いあう


「大人が6人と子供が2人…これくらいかしら?」

「何してんだ?」

「今日ついたばかりなら食事の準備も大変だろうからね、夕食と明日の朝食用のパンくらいはと思って」

「マロニエの話では荷物は大半処分してこっちで揃え直すんだっけ?」

「そうみたい」

「オリビエ、今日はありがとう。おかげで助かったわ」

ベッキーが声をかけてくる


「とんでもない。これ今日の夕食と明日の朝食用にパンを」

「え?でも申し訳ないわ」

「気にしないで。ついたばかりで食事の準備も大変でしょうから」

「もらっておきなさいよベッキー。オリビエの料理は1級品よ」

「そんなに美味いのか?」

「美味いぞー。酒もさらに美味くなる」

「そいつは有り難い」

セオドアは随分ノリがいいようだ


「それと、明日、物を揃える前にギルドで住民登録を済ませた方がいいわ」

「住民登録は早めに済ませるつもりだが…何か理由でも?」

「今回の人の大移動に合わせて、色んな人がまだ使えるもので不要なものを持ち寄ってるのよ。そこにあるので必要なものがあったら自由に貰ってこれるの。だから先に見ることをお勧めするわ」

「結構いいものもあったりするのよ?私も持って行ったんだけど、それ以上に持って帰ってきちゃった」

「俺なんか友人と物々交換になったぞ」

どうやら持って行ったときに互いに気に入り交換して帰ってきたらしい


「それは助かるな。全て買いそろえてたら大変だと思ってたんだ」

「そうね。とりあえず揃えて徐々に買い直していくのもいいかもしれないわね」

「僕も行っていい?」

「いいに決まってるだろ。ただし俺らは荷物持ちだろうけどな」

トマスの言葉にマシモが返す


「荷物運ぶなら台車を持って行くといい。ウー裏から1台取って来い」

「分かった」

ジョンの言葉にウーが走って行った


「よろしいのですか?」

「ぼろい台車だが荷物を運ぶのには問題ないさ。用が済んだらまた持ってきてくれればそれでいい」

「助かります。マシモ引いていけるか?」

「大丈夫だよ」

マシモは大きく頷いた


「これだよ。丁度いいから料理乗せてったら?」

「そうだね。トマス乗せてくれるかい?」

「うん」

トマスはベッキーから料理を受け取り台車に乗せた


「とにかく色々助かった。これからよろしく頼む」

セオドアがそう言って4人は帰っていった

ウーとブラシュも知らない町のことが知れると喜んでいたためいい関係を作って行けるだろう


「さて、次は私たちの夕食ね。何か希望はある?」

「肉!」

即答したダビアをジーっと見る


「バーベキューは?」

「そうねコルザ。それならダビア希望のお肉もたくさん食べれそう」

「…オリビエがこえ―んだけど」

「自業自得」

「いい加減学習しようよダビア」

ロキだけでなくブラシュにまで言われてダビアは苦笑する


「まぁいいわ。みんなで準備しましょうか」

そう声をかけるとそれぞれに動き出す

時々バーベキューをするようになってからはジョンが庭にガゼボのような場所まで作ってしまった

そのそばにはコンロを置く台まで作られていて至れり尽くせりだ

中央には大きなテーブル

それを囲う様に設置されたベンチの前には長方形の天板を付けたテーブルが等間隔で設置されている

しかもそのテーブルの高さは様々なものがあり一番低い場所はコルザとロベリの指定席だ


私とカメリアが食材を切って持って出るとすでに炭が熾されていて、ジョンとオリゴン、ナハマは飲み始めていた

「相変わらずね」

「本当に」

2人で笑いながら食材をテーブルに並べるとバーベキューが開始された

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