18.迷宮のお土産
ロキと共に迷宮から屋敷にたどり着いたのは夜の8時前だった
「ただいまー」
エントランスで中に向かって声を張り上げると皆がサロンの方からやってきた
「お帰りーオリビエ」
「お帰り!」
コルザとロベリが飛びついてくる
「ただいま。2人共お土産あるわよ」
話しながらサロンに向かう
「本当?」
「嘘なんて言わないわよ。ほら」
私はそう言いながらインベントリから例のボールを取り出してロベリの手に載せる
「子ども達皆にあるのよ」
コルザとリラに手渡しウーにも差し出すと…
「僕も?」
「勿論。まぁいらなければ好きにしてくれていいわよ」
「ううん。何か嬉しい」
「?」
私が首を傾げるとジョンが複雑そうな顔をした
「嫁が死んでからこいつを子供らしく扱うことが難しくてな」
「あぁ…」
10歳でまだ成人してもいないのに助手を務めているのだ
カメリア同様職場に連れて行かざるを得なかったせいもあるのだろう
「ウーはまだ子供よ。これからは子供らしく過ごさないとね」
そう言うとウーはジョンを見た
本当にいいのだろうかという顔だ
今まで色々と我慢させていた自覚があるジョンは、嬉しそうに笑いながら頷いていた
「ちなみにこいつ、4人分揃えるために魔物倒しまくってたから」
「ちょっ…ロキ?」
私が焦って止めようとするのを見て皆が笑い出す
「ありがとうオリビエ」
「大事にするー」
コルザとリラが満面の笑みを向けてきた
この顔が見れるならちょっとからかわれるくらい良いかと思ってしまう
「じゃぁ次、ジョンとウーになるかな?」
花や野菜の種を取り出しテーブルに並べる
ロキも同じように取り出したものを並べていた
「これは種か?」
「ええ。花と野菜の種。大量にあるんだけど使ってもらえる?」
「そりゃ願ってもないことだし構わないが…俺らが使っていいのか?」
ジョンの困惑する姿にロキを見る
「種、意外と高額」
なるほど
「使っていいって言うより育てて欲しいかな?」
「オリビエひょっとして育った野菜を食べようとしてる?」
カメリアが尋ねてくる
「もちろんそのつもり。花は飾れるといいわよね。多すぎる分はジョン達が売りに出してくれたらいいし」
「ちょっと待て、売りに出すって…」
「だって野菜は腐らすなんてもったいないでしょう?インベントリに入れれば永久に鮮度は落ちないけど、手塩にかけた野菜はやっぱり摘み立てで食べないと」
「しかし…」
どうしたものかとジョンがブツブツといっている
「オリビエ、多分余剰分って考え方は線引きが難しい」
「なるほど…じゃあどうするのがいいかなぁ…」
「畑を分けるとか?」
カメリアが言う
「カメリアそれいいかも。区画を区切ってしまえば明確だものね」
「しかしそれじゃぁ…」
「あきらめろジョン」
ロキはまだ悩み続けるジョンの肩を叩いた
「どうせ区画区切ったからって育て方に差をつける気はないだろう?」
「と、当然だ」
なんてことを言うんだとジョンはギョッとした顔をする
「ならなんも問題ねぇよ。片方はこの屋敷用、もう片方はジョン達用。ジョン達用の区画で取れた分は自分たちで食べようが他所に売ろうが構わないってことだ。屋敷用に俺たちに売ってもいいしな」
「それじゃ申し訳なさすぎる」
「オリビエがそれで折れると思うか?俺でも説得は無理だぞ」
「…」
ロキに言われたジョンが私を見てきた
「もう決めたからね。花も野菜も区画は2つ。決定ね」
言い切るとジョンは諦めたようにため息をついた
「分かった。畑の場所は任せてもらえるのか?」
「勿論よ。必要なものは経費で申請ね」
これは先に言っておかないとジョンは自分で何とかしようとしてしまう
「種の管理はジョンに任せるわね。足りなくなったら言ってね。また迷宮で調達してくるから。希望通りの種を入手するって、約束出来ないのが辛いところだけど」
「調達って…」
「迷宮ってそういう用途の場所だっけ?」
ウーが首を傾げる
「こいつの目にはそう映るみたいだな。魔物よりもドロップ品に興味を持ってるくらいだ。まぁ俺にとっても運動がてら行く感じだし気にすんな」
ロキがそう言うとジョン達は呆れた顔をさらに深めた
私達はどうやら揃って普通ではないらしい
「最後はカメリアね」
「私も?」
「カメリアにって言うか私と一緒に使うことになるんだけど」
種を全てジョンに渡すと次は香辛料を取り出した
「コレって…」
「香辛料、スパイスね」
「初めて見るものもいっぱいあるんだけど…」
それはそうだろう
香辛料を買いに行った際の種類の少なさに驚いたくらいなのだから
「店に並んでるの自体少なかったしね。でもこれだけあったらかなり色々作れるわ」
「ん、ならこれも渡しとく」
色々作れると耳にした途端、ロキも香辛料を大量に取り出し並べた
「まったくお前さんたちは…」
ジョンが今日一番の大きなため息をつく
「どうかした?」
「この種以上に香辛料は高額なものが多い。カメリアですらほとんど知らないのはそのせいだ」
「なるほど…」
「その香辛料がこんな大量に…種もだが俺には恐れ多い」
「ん…そこはもう慣れてもらうしかないわよね?」
私がロキに向かって言うと当たり前のように頷いた
「大丈夫よ。皆がわざわざ無駄にしようとか悪用するなんて思ってないから」
「当然だ」
「当然よ」
ジョンとカメリアの声がハモッた
「それにこれの元手はタダだしね?お肉もお魚も一杯手に入ったから食事も楽しみにしててね」
「お魚?」
「そうお魚。嫌い?」
コルザに尋ね返すと首を横に振る
「この町ではあまり出回らないのよ。海が遠いから」
「なるほど。そういう意味では迷宮ってやっぱり人の理を無視してるのよね」
「まぁ、あの中で海のもんも山のもんもある時点で異常だな」
「言えてる。でも色々入手できる迷宮が近くにあると助かるね」
そう言うとジョンとカメリアが残念なものを見るような視線を向けてきた
しっかりスルーさせていただきます
何にしても皆にとって意味のある物が入手できたのでよしとしよう