第三章9『血肉が沸き立つ感覚』
八月十九日十七時 佐藤陸
唐突な告白に僕は言葉を失った。
そりゃそうだ。誰だって急に告白されたら、口を噤む事しか出来ないだろう。
「えっと……僕の事が、……好き?」
「……ん」
目の前にいる紗良は頬を赤らめながら絞り出したかのような声で答える。
そうか。紗良は僕の事が好きなのか。
――僕はどうだろう。紗良の事をどう思っているだろう。
今まで数ヶ月、紗良といて、僕の人生は楽しかった。クラスではいじめられていたが、昼休みや下校の時は、紗良と遊んで帰って楽しかった。
紗良はわがままで自分勝手だけど、紗良のわがままに付き合うのも悪くはなかった。
だけど、僕と付き合えば、紗良までいじめられるかもしれない。
――それがとても怖い。
そんな事ばかりが頭によぎる。何度その思考を消し去ろうと考えても、何度も何度もその考えが頭の中でループする。
「――別にそんなに早く返事は求めてないから。答えが出たら教えてね」
そう言い残すと彼女は酷い雨の中、走り去って行った。
「ま、待って!」
気づいたら自分でも驚くほどの大きい声を出していた。
「何?」
紗良は僕を見ていた。僕だけの事を見ていた。それからは一瞬だった。意識はそこにはなかった。ただ体の奥底からの衝動を口に出していた。
「僕も紗良の事、好きです! だから付き合ってください」
口から言葉が出た瞬間、血肉が沸き立つ感覚がした。
――体が熱い。火照ってる。恥ずかしい。振られたらどうしよう。でも告ってきたのは紗良だっけ。
そんな事ばかりが頭の中をよぎる。
刹那、体が柔らかい感触に包まれる。甘くて心地の良い匂いがする。
――紗良に抱きつかれている。
たったそれだけの事を理解するのに時間がかかった。
「両思いだったんだね。良かった。片思いじゃなくて」
そんな言葉を投げかけながら、紗良は僕を抱きしめた。
ずっとこの時間が続けばいいと思った。ずっと。永遠に。




