第二章3 『驟雨』
十月四日二十二時 佐藤陸
ひとりぼっち。寂しい。気持ちが良い。寒い。風呂に入りたい。
美咲とのデートが終わり僕はベットの上で俯せながら、襲いかかってくる孤独感と満足感を味わっていた。
最後の彼女の言葉は僕にとって爆弾のように感じられた。それほどの衝撃を感じた。
ものすごく寂しい。人肌が恋しい。でも満たされている。
久しぶりだこんな感覚。気持ちが良い。こんなに満たされているのは紗良と付き合って以来だ。
ただデートをしただけなのに気持ちが良い。なんだろう。
でも寂しい。さっきまで美咲といたのに今はひとりぼっち。悲しい。
シャワーでも浴びて、気持ちの整理をしよう。寒いし。
僕は服を脱ぎながら風呂場に向かって歩き出した。
*
「待ちました? 佐藤さん」
「いや、今来たばっかだよ」
漫画とかでありがちな決まり文句を言う。
ちょっと憧れてたんだよな。これ言うの。
今日の美咲はいつもよりオシャレだ。風雷ではいつも制服だから私服は新鮮なのもあったが、なによりメイクが濃い。いつもは自然な感じなメイクだったが、今は唇が血のように赤く、目元もピンクっぽい。
メイクを変えるだけでこんなにも変わる事に衝撃を受けた。
「映画見に行きましょ! 楽しみにしてたんですよ!」
彼女は笑顔で元気よくそう言った。
そんなに楽しみにしてたなら一人で観に行けば良かったのに。一人で観た方が映画は楽しめると思うんだけどな。
今まで観たいと思った映画は大体一人で観てきた。複数人で行くと集中して観れないからだ。別に友達がいない事が原因な訳では無い。
「なんか考え事ですか?」
「いや、なんでもないよ」
「そうですか」
軽く話をしながら映画館に向かって歩き出した。
───────────────────
……とあれから数時間が経ち、今の僕は質素なポップコーンを美咲と二人で分け合って食べながら映画を観ていた。よくあるロマンス映画だ。
両思いなのに気づいていない男女二人の甘酸っぱく、もどかしいロマンス映画。
そんな映画を観ていた。思っていたより面白い。
そんなことを考えていたらエンドロールが流れてきた。もう終わるのか。時間の流れが早い。
ふと横を見ると美咲が号泣していた。
こういう時はどうすればいいんだ? 優しい言葉でもかければいいのか?
「……大丈夫? 泣いてるけど」
気が利いた言葉を投げかけられず、単刀直入に訊いた。
次の機会までには気の利いた言葉の一つや二つ覚えよう、と思った。次の機会があるかは知らないが。
彼女はビクッと震え、小さな声で「――感動しちゃって……、すいません……」と言った。
感受性豊かなんだ。いいな。映画とかで泣いてみたい。体が干涸びちゃうほどに。
僕は「大丈夫だよ。とりあえず出ようか」と囁き、彼女に肩を貸しながら、映画館を内包しているショピングモール内のファミレスに向かった。
道中、周りの人に珍奇な物を見るような目で見られたが気にせずに歩いた。
ガラガラと、音を立てて引き戸を開け、席に着く。
流行りの音楽が流れている店内にはまばらに人が座っている。家族連れや恋人などさまざまな人がいる。
とりあえずドリンクバーを二つ頼み、彼女にオレンジジュースの入ったコップを渡し、嫌でも耳に入ってくる流行りの音楽を聴きながら、落ち着くのを待った。
しばらくすると目を真っ赤にした彼女が「ありがとう」と小さな声で呟いた。
その後はファミレスで食事を取り、家の近所の公園で話をしていた。
話をしていて分かった事だが、どうやら彼女と僕の家は同じ方向だったらしい、駅とは真逆の方向だ。
趣味とか最近のマイブームとか生産性のない話をしていると、急に雨が降ってきた。
二人とも傘を持っておらず、公衆便所に駆け込み、雨宿りをした。
「びしょ濡れになりましたね、佐藤さん」
はにかんで彼女は言った。
恥ずかしそうに笑う美咲の姿が紗良と重なる。なんでだ?
頭がバグりそうになる。頭痛がする。
「大丈夫ですか? 佐藤さん、顔色悪いですけど」
美咲が心配そうに訊いてきた。顔に出ていたらしい。
「――少し頭が痛いだけだよ」
なんで正直に言ったんだ。いつもの僕なら強がって、心配をかけないように、大丈夫って言うはずだ。
「大丈夫ですか? 雨も止んできたしお開きにします?」
気づいたら雨が止んでいた。秋の夜空が綺麗だ。
「そうだね、お開きにするか。」
そう言い、僕は家の方に向かって歩いた。後ろから美咲の声が聞こえた。僕は右手を振って、美咲の発言に応答した。
「今日楽しかったです! またデートしましょうね!」




