第二章2 『返答』
十月二日二十時 佐藤陸
ジメジメとした蒸し暑さが過ぎ去り、少しずつ涼しくなってきた。
夏が終わりに近づく度、紗良がどっか遠くに行くような気がしてならない。最悪だ。
「そ、その、日曜日デートに行きませんか? 佐藤さん」
ふと頭によぎる女性の声。声の主は美咲。
僕にデートの誘いをしてきた、女性だ。
僕はあれから色々と悩み、葛藤し、結局美咲とのデートに行くことにした。
*
九月三十日十時 佐藤陸
どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう。
この後バイトで美咲と合うことになる。その時に返事をしなきゃいけないのに未だに決まってない。
一体僕はどうすればいいんだ。美咲とデートに行っていいのか。行かない方がいいのか。紗良に対する裏切りじゃないか。紗良は死んだのに、僕だけが幸せになってもいいのか。僕だけがのうのうと生きていていいのだろうか。
いや、違う。僕は生きるって決めただろう。今更何をいってるんだ。僕は生きる。死ぬのは約束を果たしてからだ。
君が僕のことをどう思ってるか知らないが、僕は今でも君のことが好きだ。紗良。
でも、それでも、僕のことを棄てて死を選んだ君のことは嫌いだ。許せない。だから一度くらい君のことを裏切ってもいいかな? 紗良。君も僕のことを裏切ったんだしいいよな。なぁ――。
よし、行くか。
そう決意し、ふと時計を見た。
十二時を指しており、焦って準備を始めた。
*
今日のラーメン屋・風雷は客が流れるように続々と入ってきた。月に一回くらいある繁盛日だ。めでたい。クソ忙しかったけど。
客に愛想笑いで注文を聞いたりするのが嫌いだ。頬の筋肉が痛い。でも接客業をしてるのは母が原因だ。母はいつも僕に内気な性格を治せとグチグチ言ってくる。うざい。
治す気は一切ないが、治すために努力してると分かるように接客業をバイトにした。
別に両親のことが嫌いという訳では無い。紗良が死んで荒れていた時、文句一つ言わず、何でもしてくれた。母は欲しい物を買ってくれた。好きな物を食べさせてくれた。愛してくれた。父は励ましてくれた。「俺は、愛する女が死んだ事がないからお前の気持ちを完全に理解する事は出来ない。だがこれだけは言える。
いつまでもくよくよするな、紗良ちゃんは今の陸を見て、どう思う?
良い気分だと思うか?
お前は紗良ちゃんの分まで生きていかなきゃいけないんだ。
この先嫌なことや辛いことにぶつかることなんてざらにある。でもそれでも生きていかなきゃいけないんだ。紗良ちゃんの事を忘れずにお前は生きるんだ。
どんな時もだ。それが紗良ちゃんに対する恩返しだ」と僕を激励してくれた。嬉しかった。父の言葉で僕は前を向いて生きる希望を貰えた。
昔のことを思い出しながら、バイトをしていた。
*
ズルズルと、麺を啜る音が店内に響く。
今日もバイト終わりの賄いを食べている。今日はいつもとは違い塩味を頼んでみた。あっさりしていて意外に美味しかった。
隣では美咲が可愛らしく麺を啜っていた。
よし、言おう。そう決心し、僕は声を発した。
「美咲ちゃん、デートのことなんだけどさ、行くよ、行く」
「……え? ほんとですか? やったー!」
美咲は笑顔で僕にそう言った。不覚にも可愛いと思ってしまった。美咲の笑顔を見ていると紗良の笑顔を思い出してしまう。
二人の笑顔はどこか似ている。なんでだ?
目の前で笑顔ではしゃいでる彼女をよそに僕は似ている理由を考えていた。




