049 【伝説の竜、手のひらへ】死闘の果ての契約と、迷宮追放の謎
■地下100階、竜との対話
迷宮『猫の穴』、最深部。かつてないほどの死闘の末、伝説のドラゴン・ドラムは地面に伏し、その黄金の瞳には明確な「恐怖」が宿っていた。
「……殺さないでくれ。儂は、迷宮で生まれた魔物ではないのだ」
ドラムの震える声が、ボス部屋の冷たい空気に響く。
俺たち4人は武器を構えたまま、その巨大な顔の前に並んで対峙していた。
「詳しく話せ」
俺の無機質な問いかけに、ドラゴンは呻くように言葉を紡ぐ。
「儂は……ある場所で居眠りをしていた。気付いたら、この薄暗い迷宮の最深部に連れて来られていたのだ。あのような凶悪なブレスを吐かされたのも、部屋に入ってきた者を即座に排除するように――誰か、あるいは『迷宮』そのものに操られていたからに過ぎない」
「ふん、言い訳に聞こえるにゃ」
ペロがジト目で鼻を鳴らす。
「あの時は本気で私たちを焼き尽くそうとしていたくせに。あれが操られていた者の目だなんて、信じられないにゃ」
「……うう、否定できん……」
ドラムは肩を落とす。
「僕たちには、貴方を助ける義理はないんだよね」
ハルカが空中でホバリングしながら、ジュルリと音を立てて涎を拭った。
「せっかくの最高級素材だもん。ドラゴンのステーキに、ドラゴンの竜骨スープ……。ああ、勿体ないなぁ」
「儂も、ドラゴンの素材は極上の錬金材料じゃ。心苦しいが、ここでおさらばさせて貰うかのぅ」
エリも両手をワキワキと動かし、解体用のナイフをどこからともなく取り出した。
「待て、待ってくれ! 殺すな! 儂はまだ若い! これからのドラゴンなのだ!」
ドラムの必死の懇願に対し、俺は淡々と告げる。
「……悪いが、俺たちの目的は強い敵を倒し、経験値を稼いで限界まで強くなることだ。その為にここまで来た。経験値になってくれ、ドラム」
俺が冷徹にそう言うと、ドラゴンは絶望的な表情で周囲を見渡した。そして、最後の希望を懸けてペロを見つめる。
「……可哀想だとは思うが。アタシはショータの意見に従うだけだ」
ペロの冷酷な宣告が、ドラムの首に刃を突きつけるような決定打となった。
■伝説の縮小、そして契約
「待ってくれぇ! まだ死にたくない……!そうだ、儂を従魔にしても良いぞ!」
ドラムの提案に、エリが呆れ顔で突っ込む。
「随分と上から目線じゃのう。命乞いをする側が提示する条件ではないわい」
「ぬぅ……では、儂を従魔にして下さい……」
「……契約するメリットはあるのか?」
「戦力として充分だろう! 空も飛べるし、どこにでも乗せていってやる!」
俺は腕を組み、冷ややかな視線を向けた。
「俺の方が強いし、乗り物なら竜型ガーゴイルがある。何より、その図体じゃ連れて歩くのが目立ちすぎて面倒だ。隠密行動もできやしない」
俺の指摘に、ドラムは悔しげに唸った。
「……それならば!」
次の瞬間、ドラムの全身が眩い光に包まれた。凄まじい魔力の渦が部屋を覆い、その巨体が急速に圧縮されていく。光が収まると、そこには小鳥ほどのサイズになったドラゴンの姿があった。
「これなら……どうだ。これなら一緒にいても大丈夫だろう」
「えっ……肉が小さくなった……」
ハルカが呆然と呟く。
「いや、そこじゃなくて! 会話しちゃったんだし、今更トドメを刺すのも気が引けるよねぇ……」
俺は深いため息をつき、エリの方を向いた。
「エリ、従魔契約の魔法は使えるか?」
「儂が使えるぞ!」
「……ドラムは黙ってて」
「……はい」
エリは残念そうに肩をすくめながらも、慣れた手つきで詠唱を始めた。
「主様を主として絶対的な忠誠を誓う。その絆を今ここに――『契約成立』」
俺とドラムの足下に幾何学的な魔法陣が展開される。二人の間に光る線が繋がり、俺の胸の奥に熱いものが流れ込んできた。契約完了の証だ。続けてパーティー契約も行い、正式に俺たちの仲間となった。
「あぁ……僕のドラゴンのステーキが……」
ハルカは地面に膝をつき、深い絶望に打ちひしがれている。
■迷宮の強制排除
エリが竜型ガーゴイルをアイテムバッグに収め、俺はドラムに手をかざして気を流し、致命傷を回復させてやる。
これで、ひとまず最深部の攻略は完了だ。
「さあ、宝箱を探そうにゃ。この階層の主が隠していた秘宝があるはずだにゃ」
ペロが期待に胸を躍らせ、ボス部屋の四隅に視線を走らせたその時だった。
ゴオォォォ……!
足元の床が激しく揺れ、部屋全体に赤黒い光が満ち溢れた。
「何事じゃ!?」
「宝箱どころじゃ……!」
床に刻まれた巨大な魔法陣が浮き上がり、俺たちを飲み込もうとする。これは戦闘用の魔法陣じゃない。もっと大規模で、空間そのものを強制的に書き換える力だ。
「逃げるぞ!」
しかし、足は地を離れない。光は視界を真っ白に染め上げ、俺たちの思考を停止させる。
……次に目を開けた時、俺たちが立っていた場所は、冷たい地下100階ではない。
「……ここ、迷宮の入口……?」
太陽の光が、俺たちの顔を照らしていた。俺たちは、迷宮『猫の穴』から、まるで邪魔者であるかのように強制的に放り出されていたのだ。
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