001 プロローグ
この世界には魔法がある。
魔法が使えないと強くなれないし、
いい暮らしは出来ない。
騎士にもなれないし、傭兵にもなれない。
魔法で肉体強化出来ない人は力仕事も出来ない。
冒険者になるにも魔法の素質が必要だ。冒険者は危険な仕事なので魔法が使えない人はその資格すら貰えない。
商人にだってなれない。
鑑定の魔法も使えない人はすぐ騙されるし、弱い商人は盗賊に襲われる。
魔法を使えない人は、それでも一定数は存在するのだ。
俺もその一人だ。
俺はスラムで生まれた。
生まれた時から家庭環境も最悪。
売春婦の母、父親は何処の誰かも分からない。
母は魔法の素質が高い子供が産まれたら将来楽が出来ると思ったらしい。
残念ながら母と同じ魔法の使えない子供が生まれた。
母は赤ちゃんに魔法の素質が無いことを知ると名前も付けず、孤児院に預けたらしい。
孤児院で名前を付けて貰った。
俺の名前はショータ。
魔法の素質が無い子は魔法の素質が抜けている事から『魔抜け』と言われる。
そう、俺は『魔抜け』だ。
孤児院の中でも、魔法の素質で優劣が決まる。
魔法の素質がある子はアルバイト的な短期の仕事もして、小遣いを貰える。
孤児院の食事は必要最低限。
育ち盛りの子供達に足りるはずがなく。
小遣いを持っている子供達はそのお金で屋台で食べ物を食べたり出来るので発育がいい。
剣やナイフも買えるので魔法の素質がある子と俺の差は広がるばかり。
俺は痩せてて小さくて、武器も買えない。
子供は残酷だ。
自分より弱い子供に容赦が無い。
俺は毎日苛められた。
殴られる。蹴られる。
木剣で叩かれる。
魔法の的にされる。
毎日、傷が絶えない。
孤児院の先生は優しいが、子供の喧嘩は見て見ぬふり、死なない程度の喧嘩は日常茶飯事、微笑ましく見てる。
遣られてるこっちは死ぬ思いなんだけどな。
苛めっ子達もその辺りは心得ていて、先生が怒らない程度に傷つける。
孤児院には回復魔法を使える女の子がいた。
名前はミク。可愛い皆の人気者。
毎日怪我を治してくれる。
怪我の箇所に手を当て回復魔法を唱えるのだ。
回復魔法は少し暖かくて、気持ちが良い。それだけが、唯一の生き甲斐。
その事が苛めっ子達は面白くないらしい。
お前等のせいで怪我した為に回復して貰ってるのに、好きで怪我してる訳じゃねえぞ。
なんて面と向かって言えるはずもなく。
大きな声で名前を呼ばれればビクッとするし、毎日脅えながら下を見て歩く、悔しくて泣きながら眠る毎日。
未来の希望は無い、世界の全てを恨み、いつも死にたいと思ってた。
かと言って死ぬのも怖くて何も出来ない。
ある日、苛めっ子達に山に連れて行かれた俺は後ろから押されて崖から転げ落ちた。